Beloved father 最愛の父上
シリウスに会いに行くことが出来る。しかし、そう思ってもは少し悲しかった。本来なら、いまごろシリウスは自由の身なんだ、ペティグリューを取り逃がさなかったら。
は罪悪感でいっぱいで、ジェームズの顔を見ることが出来なかった。
、杖はここに置いていくのじゃ」
医務室を出る前、ダンブルドアはそう言って、の杖を机の上においた。が不思議そうな顔をしてダンブルドアを見ると、彼は優しい顔をしてを見つめ返した。
「彼らにこれ以上疑う余地を与えない方が賢い」
確かに、とは心の中で頷いた。ファッジもスネイプも「錯乱の呪文」で今は納得しているが、もしかしたら「全員が仲間」だと疑うかもしれない。
「ダンブルドア」ジェームズが突然口を開いた。
「あなたは誰を信じているのですか?」
「わしは真実を信じとるよ、ジェームズ」ダンブルドアがそう言うと、ジェームズの表情が和らいだ。
「シリウスはフリットウィック先生の事務所にいる」
ダンブルドアは二人を引き連れてそこに向かった。その間、もう誰も口をきかなかった。
「さあ、入るがよい」
部屋の前につくと、ダンブルドアは鍵を開けて二人を中に通した。は一瞬入ろうか躊躇したが、ジェームズに手を引っ張られて中に入った。シリウスは部屋の真ん中にある椅子に座っていた。
「シリウス」
ジェームズがシリウスに駆け寄った。ダンブルドアは入り口を閉め、ジェームズ、、そして自分の椅子を出した。ジェームズとはダンブルドアに勧められるまま、腰掛けた。
「何があったか話してくれるの?」ダンブルドアは優雅に座って指を組んだ。
ジェームズとシリウスが事の始めから、すべてダンブルドアに話した。さっき「叫びの屋敷」で話したのと同じ話だ。ダンブルドアは始終黙って聞いていた。が隠れて二人に会いに行った話をしたとき、ダンブルドアはちょっとおもしろがっているような目をに向けたが、すぐに二人に視線を戻した。
そして今夜、何があったのか話し終えると、ダンブルドアはキラキラしたブルーの目を三人に向けて口を開いた。
「まことに天晴れじゃ――わしにも内緒にして『動物もどき』になったとは、ことに上出来じゃ」ダンブルドアの口調からは、褒めているのか、楽しんでいるのかわからなかった。
「じゃが、シリウス。ペティグリューがいない今、君に対する判決を覆すのは無理じゃ。――ジェームズ、わかっておるのう?君はシリウスと旧知の仲じゃ――君が支持したところでほとんど役には立たん」
ダンブルドアの重々しい口調が、にずっしりとのしかかった。あのとき、自分が何をしてしまったのか。ジェームズの顔が悔しそうに歪んだ。
「しかし、君の話を信じている者が、君の無実を知っている者が、この城には七人いる。必要のない心配はしないことじゃ」
ダンブルドアの言葉にピンときた者は一人もいなかったが、ダンブルドアは気にする様子はなかった。
「シリウス・・・・・」
ジェームズが立ち上がってシリウスを抱きしめた。
「行け、ジェームズ」シリウスはジェームズの抱擁をほどくと、きっぱりとそう言った。
はずっとその様子を見ていたが、シリウスに声をかけることもなければ、かけられもしなかった。
、思い煩うことは何もない」ダンブルドアがなにもかもを見通したようにそう言って、の肩を抱いた。それがきっかけとなって、の目から見る見るうちに涙が溢れた。
「ご――ごめん、なさい」はしゃくり上げながらそう言った。こうなったのも、ペティグリューを殺さないように訴えた自分の責任だ。
「謝るな」
シリウスは椅子に座って、呟いた。ジェームズが不満そうにシリウスを見る。
「シリウス」
ジェームズの無言の圧力に、シリウスは耐え切れなかった。ゆっくりと立ち上がると、泣きじゃくるを優しく抱きしめた。
「おまえのせいじゃない」
はそう言われても泣き止むことはなかった。
「泣くな。わたしは笑っている方が好きだよ、
シリウスはの顔を覗きこんで、彼女に笑いかけた。しかし、その顔はを余計悲しくさせるだけだった。シリウスが零れ落ちたの涙を拭う。
「ご――ごめんなさい――止まんないの――な、涙」
はしゃくり上げながらもシリウスに笑顔を向けようとしたが、出来なかった。このあとに彼の身に起こることを考えると、どうしようもなく悲しかった。
「そろそろ時間じゃ・・・・・ジェームズ、」ダンブルドアが優しくそう言った。シリウスはを名残おしそうに離し、ジェームズに預けた。
」ジェームズの声が震えた。
「三人とも、大丈夫じゃよ」
ダンブルドアは何かを見越したような口調だった。しかし、三人ともそれに気付く余裕はなかった。
、ありがとう」
別れ際、シリウスがぽつりと呟いた言葉は、をいっそう深い悲しみに突き落とした。
ダンブルドア、ジェームズ、の三人は医務室に向かうかと思いきや、ダンブルドアが別の方向に進み始めたので、大人しくそれについて行った。ついた先は行き馴れた「闇の魔術に対する防衛術」の教室だった。ダンブルドアは二人を中に入れると、教室に魔法をかけて、誰にも邪魔されないように、盗み聞きされないようにした。
「二人ともよく聞くんじゃ・・・・・」
ダンブルドアが頬を涙で濡らすと、悔しそうに下唇を噛むジェームズを見た。
「この後、シリウスは逃げおおせる」
はダンブルドアの言葉に耳を疑った。
「ダンブルドア、一体どういう――」ジェームズが呆気にとられた表情でダンブルドアを見ると、ダンブルドアは微笑んだ。
「今日の日没後、処刑される予定だったバックビーク――ハグリッドのペットじゃ――が逃げ出しておった。そのとき、わしの想像ではバックビークが無罪だと主張する者が逃がしたのだろうと思った。そして、その想像は今、確かだと確信したのじゃ。わしはこの後、真実を知る者に助けを頼むつもりでの、きっとバックビークもその者たちに救い出されたのじゃ。そして、シリウスも無事、生き延びる」
はダンブルドアの頭がどうにかなってしまったのかと思ったし、言っていることがよくわからなかった。
「よくわからないです」が正直にそう言うと、ダンブルドアもジェームズも笑った。
「時が解決するじゃろう」
ダンブルドアはジェームズに向き直った。
「さて、ジェームズ、君はここでと二人、友人の帰りを待つと良い。先程、医務室にの杖は置いてきたのでの、彼らに疑われることもなかろう」
「ありがとうございます、ダンブルドア」
ジェームズが頭を下げたので、もつられて頭を下げた。ダンブルドアはもう一度、二人と目を合わせ微笑むと、部屋を出て行った。
Back Top Next
いつの間にかジェームズ寄りになってる;;