「父さん、シリウス、あいつが逃げた。ペティグリューが変身した!」
ハリーが大声をあげた。
シリウスもジェームズも血を流していたが、ハリーの言葉に素早く反応すると、足音を響かせながら校庭を走り去った。
「ペティグリューはいったいロンに何をしたのかしら?」
のすぐ近くで、ハリーとハーマイオニーがロンの様子を見ていた。
「さあ、わからない」ハリーの呟きが聞こえた。
「、二人を城まで連れていって、誰かに話をしないと」
ハリーがに声をかけたが、には返事をする余裕などなかった。
「行こう――」
ハリーがの腕を引っ張ったが、はそれを振りほどいた。
「・・・・・吸魂鬼が一カ所に集まり始めてる」は自分の声が震えているのがわかった。
「行かなくちゃ!」
はそう言うが早いが吸魂鬼の集まる方へ駆け出した。自分の想像が正しければ、あの中心にいるのはシリウスとジェームズだ。
「!」
ハリーが彼女の名前を呼んだとき、暗闇の中からキャンキャンと苦痛を訴えるような犬の鳴き声が聞こえた。
の後からハリーとハーマイオニーが走ってくる。
三人は湖のほとりにたどり着いた。シリウスとジェームズはすでに人の姿に戻っている。
「父さん!シリウス!」ハリーが杖をかかげた。
「ハーマイオニー、何か幸せなことを考えるんだ!」
ハリーが後ろでそう叫ぶのが聞こえた。は意識のないシリウスとジェームズに近づくと、自分のローブを必死で探った。チョコレートを食べさせないと、彼らは――。
カシャッと銀紙の擦れる音がした。は恐る恐る取り出してみると、クリスマスプレゼントにルーピンからもらったチョコレートだった。あのとき、ハーマイオニーにバレないようにバッグに押し込んだはいいが、溶けるか心配で後々ローブに突っ込んだのを思い出した。はルーピンから初めてもらったクリスマスプレゼントを自分は一口も食べないのにあげるのは悔しかったが、そんなことを言っている場合ではなかった。事は急を要する。
「パパ、ジェームズ、ごめんね」
はそうつぶやくと彼らの口にチョコレートを押し込んだ。少しだけ手が暖かくなったようだが、あまり変わらない。は振り向いて、ハリーとハーマイオニーがどうなったのか初めて知った。
すでにハーマイオニーは気を失っているし、ハリーの目の前には吸魂鬼が浮かんで、ハリーの作り出した銀色の靄を振り払う動作を繰り返している。
「やめろ――やめろ――」ハリーの喘ぐ声が聞こえた。
「エクスペクト・パトローナム!」がはっきりとそう唱えると、守護霊が現れて、シリウスとジェームズの前に立ちはだかったが、ハリーの近くに漂う吸魂鬼まで力が及ばない。そして、もこんなに長い間吸魂鬼の近くにいたのは初めてで、力尽きようとしていた。思わず膝をついた。ハリーが吸魂鬼にキスされそうになっているのが見えたが、にはどうすることも出来なかった。の守護霊もだんだん光を失っていった。
そのとき、は見た。湖の向こう岸に誰かが立っている。その人の杖先からは確かな守護霊が現れて、自分たちの周りにいる吸魂鬼を追い払っている。
暖かさが戻ってきた。はゆっくりと立ち上がり、誰が追い払ってくれたのか見ようとした。銀色に光る守護霊が主人の元へ戻ったとき、は息を呑んだ。
「ハリー――?」
「・ブラック!」
スネイプの声が聞こえた。シリウスもジェームズもハリーもハーマイオニーもロンも、とルーピン以外、みんな担架に乗せられて城に向かっているところだった。シリウスは縛り上げられて、さるぐつわを噛ませられていた。そしてはさっきからずっと押し黙ったままだった。吸魂鬼の恐怖からまだ立ち直っていない、ということもあるが、スネイプには何を言っても無駄だとわかっていたので、彼と話す気になれなかったのだ。
スネイプはが何も答えないとわかると、シリウスとジェームズ、それにルーピンまで罵り始めた。はそれに必死で堪えた。スネイプはを怒らせて、口を割らせようとしているだけだ。
一行は城に入るとまず医務室に向かって、ハリー、ハーマイオニー、ロン、ジェームズを降ろした。そしてスネイプは勝利の笑みを隠す様子もなく、シリウスをどこかに連れていってしまった。
マダム・ポンフリーはテキパキと四人の介抱を始めた。すると、ベッドの上で、呻きながらジェームズが目を覚ました。
「ジェームズ!」
がジェームズに駆け寄るのと、医務室のドアが開くのは同時だった。
蒼白な顔のファッジと、嬉しさを隠しきれないスネイプと、そして難しい顔をしたダンブルドアが立っていた。
「ジ、ジェームズ・ポッター!」
ファッジが驚いて声を上げた。
「その通りです、大臣」
ジェームズは急いでベッドから立ち上がって、三人の元へ近寄った。マダム・ポンフリーはジェームズが動いても何も言わなかった。
「君は本当にジェームズ・ポッターかね?」ファッジが半ば感嘆したようにそう聞いた。
「はい」ジェームズが答えた。
「シリウス・ブラックは無罪です、大臣」
「な、なんと」ファッジは首を振った。「ありえん、まこと――」
「大臣、本当なんです」が訴えたが、スネイプがせせら笑った。
「おわかりでしょう、閣下?錯乱の呪文です。ブラックは見事に術をかけたものですな・・・・・」
「黙れ、スネイプ」ジェームズの全身から怒りのオーラが出ているのを感じた。
「我輩になんと?」
スネイプとジェームズがしばらく睨み合った。
「わしはシリウス・ブラックと話をしてくるつもりじゃが――」
ダンブルドアが突然口を開き、とジェームズを見つめた。
「――一緒に来るかね?」
「ダンブルドア、それはダメだ。ジェームズがグルの可能性がある」
ファッジが首を振った。
「わしの耳が確かなら、ジェームズはシリウス・ブラックに錯乱の呪文をかけられているのではなかったかね?」
ダンブルドアのキラキラしためが、楽しむようにファッジを見た。
「まあ・・・・・そうだが・・・・・」ファッジが唸った。
「それではよいの、、ジェームズ、一緒に来るかね?」
「はい」二人ははっきりと返事をした。
さあ、ここからオリジナル路線まっしぐらです。笑