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Do you forgive me? 許してくれる?
は事が終わるとシリウスから杖を返してもらえた。そして、一同は叫びの屋敷を出る支度に取り掛かった。
クルックシャンクスが先頭に立って階段を下り、そのあとをルーピン、ペティグリュー、ロンが、まるでムカデ競争のように繋がって下りた。そのあと、ハーマイオニー、シリウス、ジェームズと続き、ジェームズはスネイプの杖を使ってスネイプを宙吊りにし、不気味に漂うスネイプの爪先が、階段を一段下りるたびに階段にぶつかった。しんがりはハリーとだった。
トンネルを戻るのが一苦労だった。ルーピン、ペティグリュー、ロンの組は横向きになって歩かざるをえなかった。ルーピンはペティグリューに杖を突き付けたままだ。先頭は相変わらずクルックシャンクスで、はハリーと黙ってジェームズのすぐ後ろを歩いた。スネイプがジェームズに宙吊りにされたまま、前を漂っていたが、ガクリと垂れた頭が低い天井にぶつかってばかりいた。なんだかジェームズがわざと避けないようにしているように思えた。
「」
トンネルをノロノロと進みながら、出し抜けにハリーがに話しかけた。
「ごめん、今まで酷いこと言った」
「気にしてないわ」は直ぐさま返事をした。
「――それに、私もハリーに酷いこと言ったからお互い様よ」
ハリーももお互いにちょっと気まずそうに見た。
「許してくれる?」
「あなたが私を許してくれるなら」はクスクスと笑った。
「――二人とも仲良く談笑しているところ悪いんだけど」
ジェームズが振り向かずに二人に話しかけた。
「ハリーはどうしてを信じる気になったんだい?」ジェームズが半ば、からかうように聞いた。
「父さんより信頼性があるからだよ」
するとハリーは、ぶっきらぼうにそう言った。ジェームズが苦笑している。
「そんなに僕は信頼性ないのかなあ、シリウス?」
「俺に振るな」
ジェームズが前を歩くシリウスに声をかけると、シリウスは不機嫌そうに返答した。
「ハリー」
はハリーの耳元で彼の名前を呼んだ。ハリーがどうしたの、とを見た。
「約束、したから信じてくれたの?」が小声でそう聞くと、しばらくの間、ハリーは顔を背けて黙っていた。そして、彼が前を向きながら返事をしたとき、顔はほのかに赤かった。
「約束しなくても君を信じてた」
は自分の顔が赤くなるのを感じた。
「シリウス、おもしろいものが見れるよ」
ジェームズは振り向いて、二人の顔が赤いのを見ると、前を歩くシリウスを呼んだ。
「ジェームズなんか嫌い!」がそう叫ぶと、前の方からクスクスと笑い声が聞こえた。
「、リーマスが笑ってるよ」
「笑ってない」
ジェームズがそう言うと、前の方からまた声がした。しかし、言った言葉とは裏腹に、明らかに笑いを抑えたような口調だった。
「ジェームズのせいじゃない!嫌いよ!」はもう一回そう言うと、そっぽを向いた。一番良いのはシリウスに助けてもらうことだが、シリウスの元へ行くにはジェームズの隣を通らなければいけなかったし、第一、トンネルは狭くて追い越しは出来そうもない。ジェームズの笑い声が響いた。
「父さん」をからかって楽しんでいるジェームズに、ハリーが声をかけた。ジェームズは首だけ振り向いた。
「ルーピン先生はの引き取り手だったんでしょう?シリウスが戻ってきたら、どうなるの?」
「それは誰にもわからないよ、ハリー」そう言うジェームズの口調はいつになく真剣だった。
トンネルの出口に着くまで、もう誰も何も話さなかった。クルックシャンクスが最初に飛び出した。木の幹のあのコブを押してくれたらしい。
ルーピン、ペティグリュー、ロンの一組がはい上がっていったが、獰猛な枝の音は聞こえてこなかった。ハーマイオニーとシリウスがその後に続いた。
ジェームズはまずスネイプを穴の外に送り出し、それから一歩下がって、ハリーとを先に通した。ついに全員が外に出た。
校庭はすでに真っ暗だった。明かりといえば、遠くに見える城の窓からもれる灯だけだ。無言で、全員が歩きだした。ペティグリューは相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。
「ちょっとでも変なまねをしてみろ、ピーター」
前の方で、ルーピンが脅すように言った。ペティグリューの胸に、ルーピンの杖が横から突き付けられていた。
みんな無言でひたすら校庭を歩いた。窓の灯が徐々に大きくなってきた。スネイプは顎をガクガクと胸にぶっつけながら相変わらず不気味に宙を漂い、ジェームズの前を移動していた。すると、そのとき雲が切れた。
突然校庭にぼんやりとした影が落ちた。一行は月明かりを浴びていた。
「
ジェームズ!
」
シリウスが鋭く叫んだ。ジェームズもはっとしたようで、シリウスの前を歩いていたハーマイオニーを庇うように後ろへ追いやった。
はルーピンの黒い影のような姿を見た。その姿は硬直していた。そして、手足が奮え出した。
「どうしましょう――あの薬を今夜飲んでないわ!危険よ!」ハーマイオニーが絶句した。
「逃げろ」ジェームズが低い声で言った。
「
逃げろ!
早く!
」
しかし、三人とも逃げなかった。ロンがペティグリューとルーピンに繋がれたままだ。隣にいたハリーが前に飛び出したが、シリウスが両腕をハリーの胸に回してグイッと引き戻した。
「わたしたちに任せて――
逃げるんだ!
」
恐ろしい唸り声がした。ルーピンの頭が長く伸びた。体も伸びた。背中が盛り上がった。顔といわず手といわず、見る見る毛が生え出した。手は丸まって鉤爪が生えた。クルックシャンクスの毛が逆立ち、タジタジとあとずさりしていた。
狼人間が後ろ足で立ち上がり、バキバキと牙を打ち鳴らしたとき、シリウスの姿もジェームズの姿もなかった。変身したのだ。狼人間が自分を縛っていた手錠をねじ切ったとき、犬が狼人間の首に食らいついて後ろに引き戻し、ロンやペティグリューから遠ざけた。牡鹿はそのまま狼人間を押し倒し、人気のない方に追い立てた。
もう安全だろう。がそう思って我にかえると、ペティグリューがルーピンの落とした杖に飛び付くところだった。包帯をした脚で不安定だったロンが転倒した。バンという音と、炸裂する光。そして、ロンは倒れたまま動かなくなった。またバンという音がして、クルックシャンクスが宙を飛び、地面に落ちてクシャッとなった。
「
エクスペリアーム、武器よ去れ!
」
ハリーもようやく置かれている状況に気がついたようで、ペティグリューに杖を向け、叫んだ。ルーピンの杖が空中に高々と舞い上がり、見えなくなった。
「動くな!」
ハリーが前方に向かって走りながら叫んだが、もう遅かった。ペティグリューはもう変身して、草むらを慌てて走り去るところだった。
一言高く吠える声と低く唸る声とが聞こえた。狼人間が森に向かって疾走していくところだった。
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ピーターの脱走劇。