Do not do. 駄目だ
「だめだ!」
ペティグリューはハリーが頷いたことが自分の死刑の宣告でもあるかのようにガックリと膝をついた。そのままにじり出て、祈るように手を張り合わせ、はいつくばった。
「シリウス――わたしだ・・・・・ピーターだ・・・・・君の友達の・・・・・まさか君は・・・・・」
シリウスが蹴飛ばそうと足を降ると、ペティグリューはあとずさりした。
「わたしのローブは十分に汚れてしまった。この上おまえの手で汚されたくはない」シリウスが言った。
「ジェームズ!」
ペティグリューはジェームズの方に向き直り、哀れみを請うように身をよじりながら金切り声をあげた。
「君はわたしの友達だろう?・・・・・君はわたしをまさか・・・・・」
「ピーター、僕が執念深いのを知っているだろう?僕は君からされたことを忘れたわけじゃない」ジェームズが冷たく笑った。
「リ、リーマス・・・・・君はわたしを・・・・・し、信じて・・・・・」
「ピーター、残念ながら今、わたしはあの二人の友人だ・・・・・この一年、わたしが彼らを疑っていたことを許してくれるなら――」
ルーピンはペティグリューから目をそらし、シリウスとジェームズを見つめた。二人はルーピンににっこり笑いかけた。
「もちろん許すさ、リーマス」ジェームズが言った。
「一緒にこいつを殺るか?」
「ああ、そうしよう」シリウスの問いかけに、ルーピンが厳粛に答えた。
「やめてくれ・・・・・やめて・・・・・」
ペティグリューが喘いだ。そして、ロンのそばに転がり込んだ。
「ロン・・・・・わたしはいい友達・・・・・いいペットだったろう?わたしを殺させないでくれ、ロン。お願いだ・・・・・君はわたしの味方だろう?」
しかし、ロンは思いっきり不快そうにペティグリューを睨んだ。
「自分のベッドにおまえを寝かせてたなんて!」
「やさしい子だ・・・・・情け深いご主人様・・・・・」
ペティグリューはロンの方に這い寄った。
「殺させないでくれ・・・・・わたしは君のネズミだった・・・・・いいペットだった・・・・・」
「人間のときよりネズミの方がさまになるなんていうのは、ピーター、あまり自慢にはならない」
シリウスが厳しく言った。ロンは痛みで一層青白くなりながら、折れた脚を、ペティグリューの手の届かないところへとねじった。ペティグリューは膝を折ったまま向きを変え、前にのめりながらハーマイオニーのローブの裾をつかんだ。
「やさしいお嬢さん・・・・・賢いお嬢さん・・・・・あなたは――あなたならそんなことをさせないでしょう・・・・・助けて・・・・・」
ハーマイオニーはローブを引っ張り、しがみつくペティグリューの手でからもぎ取り、怯えきった顔で壁際まで下がった。
ペティグリューは、止めどなく震えながら、ひざまずき、に向かってゆっくりと顔を上げた。
・・・・・・・・・・君はお母さんに生き写しだ・・・・・そっくりだ・・・・・」
に話しかけるとは、どういう神経だ?」シリウスが大声を出した。
に顔向けができるか?この子の前でのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?

ペティグリューが両手を伸ばし、に向かって膝で歩きながら囁いた。
ならわたしが殺されることを望まなかっただろう・・・・・ならわかってくれたよ、・・・・・ならわたしに情けをかけてくれただろう・・・・・」
は無表情でペティグリューを見つめた。
「私はママじゃないから、ママが何を望むかなんてわからない。それなのに、かつての友人を裏切ったあなたにわかると言うの?」
、違うんだ。信じて――」
それ以上、彼女に近づくな!
シリウスとジェームズが大股でペティグリューに近づき、肩をつかんで床の上に仰向けに叩きつけた。ペティグリューは座り込んで、恐怖にヒクヒク痙攣しながら二人を見つめた。
「おまえはジェームズとリリーをヴォルデモートに売った上、とリリー、を殺そうとした」
シリウスも体を震わせていた。
「否定するのか?」
ペティグリューはワッと泣き出した。おぞましい光景だった。
「わたしに何ができたというのだ?闇の帝王は・・・・・君にはわかるまい・・・・・あの方には君の想像もつかないような武器がある・・・・・わたしは怖かった。シリウス、わたしは君や、リーマスやジェームズのように勇敢ではなかった。わたしはやろうと思ってやったのではない・・・・・あの『名前を言ってはいけないあの人』が無理やり――」
嘘をつくな!
シリウスが割れるような大声を出した。
「おまえは、ジェームズとリリーが襲われる一年も前から、『あの人』に密通していた!おまえがスパイだった!」
「あの方は――あの方は、あらゆるところを征服していた!」ペティグリューがあえぎながら言った。
「あの方を拒んで、な、なにが得られたろう?」
「史上もっとも邪悪な魔法使いに抗って、何が得られたかって?」
シリウスの顔には今まで見たことのない凄まじい怒りが浮かんでいた。
「それは罪もない人々の命だ、ピーター!」
「君にはわかってないんだ!」
ペティグリューが哀れっぽく訴えた。
「シリウス、わたしが殺されかねなかったんだ!」
「それなら、死ねばよかったんだ」シリウスがほえた。
友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう
シリウスとジェームズとルーピンが肩を並べて立ち、杖を上げた。
「おまえは気付くべきだったな」ルーピンが静かに言った。「ヴォルデモートがおまえを殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ」
はいてもたってもいられなかった。
「やめて!」
しかし、叫んだのはだけではなかった。ハリーが駆け出して、ペティグリューの前に立ちふさがり、杖に向き合った。
「殺してはだめだ」ハリーが喘いだ。「殺しちゃいけない」
「殺すなんて、三人ともどうかしてる」も訴えた。三人はショックを受けたようだった。
「ハリー、、おまえたちはこのクズのせいで、大変な目に合ったんだぞ」シリウスが唸った。
「このヘコヘコしているろくでなしは、ジェームズとリリーを売ったんだ。、もし、こいつが二人を売ってなければ今頃、普通の魔女として生きられたんだ。それに、ハリー。がいなければ、君はご両親を亡くしていたんだ。聞いただろう。小汚い自分の命の方が、君の家族全員の命より大事だったのだ」
「わかってる」ハリーがつぶやいた。
「こいつを城まで連れていこう。我々の手で吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい・・・・・殺すことだけはやめて」
「ハリー!!」
ペティグリューが息を呑んだ。そして両腕でハリーの膝をヒシと抱いた。
「君たちは――ありがとう――こんなわたしに――ありがとう――」
「放せ」
ハリーは汚らわしいとばかりにペティグリューの手をはねつけた。はペティグリューに向き直り、睨み付けた。
「あなたは何かを勘違いしているわね。私もハリーもあなたの為に止めたんじゃないの。パパやジェームズ、ルーピン先生が――あなたみたいなもののために――殺人者になってほしくないからよ」
誰一人動かなかった。物音一つ立てなかった。ただ、胸を押さえたペティグリューの息がゼイゼイと聞こえるだけだった。三人は互いに顔を見合わせていた。それから三人同時に杖を下ろした。
「ハリー、」ジェームズが呼びかけた。「二人は本当にそれでいいのか?」
「こいつはアズカバンに行けばいいんだ」ハリーがに軽く頷いて、繰り返し言った。「あそこがふさわしい者がいるとしたら、こいつしかいない・・・・・」
ペティグリューはハリーの陰でまだゼイゼイ言っていた。
「いいだろう。ハリー、わきに退いてくれ」ルーピンが言った。
ハリーがわきにどくと、ルーピンの杖の先から、細い紐が噴き出て、つぎの瞬間、ペティグリューは縛られ、さるぐつわを噛まされて床の上でもがいていた。
「しかし、ピーター、もし変身したら」
ジェームズが杖をペティグリューに向け、唸るように言った。
「やはり殺す。いいね、二人とも?」
ハリーが頷くと、もつられるようにして頷いた。
「よし」
ルーピンが急にテキパキとさばきはじめた。ロンの傷の手当てをしたり、スネイプの後始末をしたり、ペティグリューが逃げないようにロンと自分の片腕に手錠をかけて、ペティグリューと繋いだりした。
はその間、静かにシリウスに近寄ると、彼を無言で見上げた。
「パパ」
手を伸ばせば、彼はとても近いところにいて、自分を抱きしめてくれる。とても安心出来る私だけの特等席。

後ろからツンツンと背中を突かれた。振り向くと、ジェームズがにこにこと笑っている。
「なあに?」
「僕も」
ジェームズが手を広げてもらったのは、の抱擁ではなく、シリウスのげんこつだった。
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ジェームズもシリウスもいつもの調子が出た様です。