Pettigrew Peter ピーター・ペティグリュー
「それでは、証拠を見せるときが来たようだ」ジェームズが言った。「君――ピーターを渡してくれ。さあ」
ロンはスキャバーズをますますしっかりと胸に抱きしめた。
「冗談はやめてくれ」ロンが弱々しく言った。「スキャバーズなんかに手を下すために、わざわざホグワーツに来たって言うのか?つまり・・・・・」
ロンは助けを求めるようにハリーとハーマイオニーを見上げた。
「ねえ。ペティグリューがネズミに変身できたとしても――ネズミなんて何百万といるじゃないか――指名手配中なのに、どのネズミが自分の探しているネズミかなんて、この人、どうやったらわかるって言うんだい?」
「そうだとも。まともな疑問だよ」
ルーピンは二人に向かってちょっと眉根をよせた。
「あいつの居場所を、どうやって見つけ出したんだい?」
シリウスは黙ってローブから紙の切れはしを取出し、に手渡した。
「これ、去年の『日刊予言者新聞』の記事じゃない。ロンと家族の写真よ」
記事はルーピンに手渡された。
「いったいどうしてこれを?」雷に打たれたような声でルーピンが聞いた。
「身を隠している最中に見つけた――ジェームズもその記事でわたしを信じてくれたよ――こいつが変身するのを何回見たと思う?それに、写真の説明には、この子がホグワーツに戻ると書いてあった・・・・・ハリーとがいるホグワーツへと・・・・・」
「なんたることだ」
ルーピンがスキャバーズから新聞の写真へと目を移し、またスキャバーズの方をじっと見つめながら静かに言った。
「こいつの前足だ・・・・・」
「それがどうしたって言うんだい?」ロンが食ってかかった。
「指が一本ない」ジェームズが言った。
「まさに」
ルーピンがため息をついた。
「なんと単純明快なことだ・・・・・なんとこざかしい・・・・・あいつは自分で切ったのか?」
「だろうな。殺されたと見せかけるために」シリウスが言った。
「自分はこの世に存在しないとするためにな。まだあいつが生きていることを我々が知ったら・・・・・とでも思ったのだろう。そして、それらしき演出をするために、道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした――そしてすばやく、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ・・・・・そんなところだ」
「ロン、聞いたことはないかい?」ルーピンが言った。「ピーターの残骸で一番大きなのが指だったって」
「だって、たぶん、スキャバーズはほかのネズミと喧嘩したかなんかだよ!こいつは何年も家族中で"お下がり"だった。たしか――」
「十二年だね、たしか」
ルーピンが言った。
「どうしてそんなに長生きなのか、変だと思ったことはないかい?」
「僕たち――僕たちが、ちゃんと世話してたんだ!」ロンが答えた。
「いまはあんまり元気じゃないようだね。どうだね?」ルーピンが続けた。「わたしの想像だが、ジェームズが殺されたというニュースが流れて以来、やせ衰えてきたのだろう・・・・・殺していないジェームズが殺されたと噂されるということは、もしかしたらシリウスに出会って手を組んだということかもしれないからね」
「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」
ロンは、ベッドでゴロゴロ喉を鳴らしているクルックシャンクスを顎で指差した。
「この猫は狂ってはいない」
シリウスのかすれ声がした。
「わたしの出会った猫の中で、こんなに賢い猫はまたといない。ピーターを見るなり、すぐ正体を見抜いた。わたしに出会ったときも、わたしが犬でないことを見破った。わたしを信用するまでにしばらくかかった。ようやっと、わたしの狙いをこの猫に伝えることができて、それ以来わたしを助けてくれた・・・・・」
「それ、どういうこと?」ハーマイオニーが息をひそめた。
「ピーターをわたしのところに連れてこようとした。しかし、出来なかった・・・・・・そこで私のためにグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた・・・・・・誰か男の子のベッドのわきの小机から持ってきたらしい・・・・・」
はシリウスの言葉を聞きながら、クルックシャンクスを眺めた。
「しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した・・・・・この猫は――クルックシャンクスという名だね?――ピーターがベッドのシーツに血の痕を残して行ったと教えてくれた・・・・・・たぶん自分で自分を噛んだのだろう・・・・・・そう、死んだと見せかけるのは、前にも一度上手くやったのだし・・・・・・」
ハリーがハッとしたようにシリウスを睨んだ。
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
ハリーは激しい語調で聞いた。
「母さんやの母さんと同じく、殺されそうだと気づいたからじゃないか!」
「違う。ハリー――」ジェームズが口を挟んだ。
「それで、今度は止めを刺そうとしてやってきたんだろう!」
「その通りだ」シリウスは殺気立った目でスキャバーズを見た。
「それなら、僕はスネイプにあなたたちを引き渡すべきだったんだ!」ハリーが叫んだ。
「そんなことしないで!」は思わずハリーに向かって叫び返していた。
「ハリー」ルーピンが急き込んで言った。
「わからないのか?わたしたちは、ずっとシリウスが君のご両親や、のお母さんを裏切ったと思っていた。シリウスがピーターの仲間だと思っていた――しかし、それは違ったんだ。わからないかい?ピーターが君のご両親や、のお母さんを裏切ったんだ――シリウスは彼らを襲っていないんだ――」
うそだ!
ハリーが叫んだ。
母さんが言ったんだ!自分たちを襲ったのはシリウス・ブラックだって!母さんは見たんだ!
ハリーはシリウスを指差していた。シリウスはゆっくりと首を振った。
「ハリー・・・・・確かにわたしが悪いんだ」シリウスの声がかすれた。「元はと言えば、私が守人になっていればよかったんだ。最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのはわたしだ。あの夜、が夜泣きしなければ、に力がなければ、ジェームズもリリーも死んでいた。そのあと、わたしもジェームズもピーターが死んだと聞いて警戒を少し怠っていたんだ。まさか、ピーターが生きているとは思わなかった。そして、ハリーやを再び狙いにくるとも思っていなかった――すべて、わたしが悪いんだ」
涙声になり、シリウスは顔をそむけた。はシリウスに触れたいと思ったが、彼をこんなに遠くに感じて触れることはできなかった。
「話はもう十分だ」
ジェームズが情け容赦なく言った。ジェームズはルーピンと目を合わせ、頷いた。
「ほんとうは何が起こったのか、証明する道はただ一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい」ルーピンがきっぱりと言った。
「こいつを渡したら、何をしようというんだ?」
ロンが緊迫した声でルーピンに聞いた。
「無理にでも正体を顕せる。もしほんとうのネズミだったら、これで傷つくことはない」
ルーピンが答えた。
ロンはためらったが、とうとうスキャバーズを差し出し、ルーピンが受け取った。スキャバーズはキーキーと喚き続け、のた打ちまわり、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
「パパ」
は杖をシリウスに差し出したが、シリウスは無言でを見続けた。
「私が杖を持つより、パパが杖を持っていた方が安心よ」はにっこりと笑った。それと同時になんだか涙が出そうだった。
「いや、しかし・・・・・」シリウスは杖を受け取るか迷っているようだった。は無理矢理シリウスの手に自分の杖を握らせた。
「大丈夫よ」がそう言うと、シリウスは決心したようで、後で必ず返すと言っての杖を握りしめた。
「シリウス、リーマス、いいかい?」
ジェームズがスネイプの杖を拾い上げながら聞いた。
「ああ」ルーピンはスキャバーズから目を離さず答えた。シリウスはジェームズの方を見て、頷いてみせた。
「一緒にするか?」シリウスが低い声で言った。
「そうしよう」
ルーピンはスキャバーズを片手にしっかりつかみ、もう一方の手で杖を握った。
「三つ数えたらだ。いち――に――さん!
青白い光が三本の杖から迸った。
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さあ、ピーターの登場です。