ハーマイオニーが悲鳴を上げた。シリウスとジェームズがサッと動いて、二人横に並んでスネイプを睨みつけた。
「『暴れ柳』の根元でこれを見つけましてね」
スネイプが、杖をまっすぐルーピンの胸に突きつけたまま、「マント」をわきに投げ捨てた。
「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する・・・・・」
スネイプはジェームズとハリーを交互に見て、少し息切れはしていたが、勝利の喜びを抑えきれないようだった。
「我輩がどうして此処を知ったのか、諸君は不思議に思っているのだろうな?」
スネイプの目がギラリと光った。
「君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れた様だから、我輩がゴブレットに入れて持って行った。持って行ったのは、まことに幸運だった・・・・・我輩にとってだかね。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要な事は全てわかった。君がこの通路を走って行き、姿を消すのを見たのだ」
「セブルス――」
ルーピンが何か言いかけたが、スネイプはかまわず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れている、とね。ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、流石の我輩も夢にも思いつきませんでしたよ――」
「セブルス、君は誤解している」ルーピンが切羽詰まったように言った。
「君は、全部を聞いていないんだ――説明させてくれ――シリウスは、ハリーを殺しに来たのではない――ジェームズが何故生きているのか、知らないだろう――」
「今夜、また三人、アズカバン行きが出る」
スネイプの目がいまや狂気を帯びていた。
「ダンブルドアがどう思うが、見物ですな・・・・・ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。わかるだろうね、ルーピン・・・・・飼いならされた人狼さん・・・・・」
「愚かな」ルーピンが静かに言った。「学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すと言うのかね?」
スネイプの杖から細い紐がヘビのように吹き出て、ルーピンの口、手首、足首に巻きついた。ルーピンはバランスを崩し、床に倒れて、身動きできなくなった。怒りの唸り声をあげ、シリウスがスネイプを襲おうとした。しかし、スネイプはシリウスの眉間にまっすぐ杖を突きつけた。
「やれるものならやるがいい」スネイプが低い声で言った。「我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる」
シリウスがピタリと止まり、ジェームズもなす術がないようで、ただスネイプを睨みつけていた。三人の顔に浮かんだ憎しみは、甲乙つけがたい激しさだった。
「教師が犯罪者紛いのこと、して良いんですか?」
突然、は静かな声でそう呟いた。スネイプの目がまっすぐにを捕らえた。
「黙れ。子供だからと言って、貴様も罪を逃れられると思うなよ。お前は退学の身だ」
「スネイプ!」ジェームズが殴りかかろうとしたが、杖を向けられてジェームズは、握りこぶしを下げた。はジェームズに首を振って見せた――大丈夫だから。
スネイプはまたシリウスの眉間に杖を突きつけた。
「復讐は蜜よりも甘い」スネイプが囁くようにシリウスに言った。スネイプの目には狂気の光があった。
「パパが犯罪者なら退学でも私は構わない。でも、もし間違っていたら、恥をかくのはあなたの方じゃないんですか?」があざ笑うかのようにスネイプに言った。
「貴様も痛い目に遭いたいのか!」スネイプが怒鳴って、シリウスの顔に突きつけたままのスネイプの杖先から、火花が数個パチパチと飛んだ。
「・・・・・」心配そうにシリウスが彼女の名前を呼んだが、は無視してスネイプを見続けた。
「生徒にムキになってどうするんですか?」が笑った。
「黙れ!我輩に向かってそんな口のきき方は許さん!」
スネイプはますます狂気じみてきた。
「では、どんなきき方をすればいいのでしょうか?」は憎たらしくも、そう言い放った。スネイプはもはや理性を失っていた。
「お前はやはりブラック家だな」スネイプは今度こそに杖を向けた。しかし、それでもは杖を構えなかった。
「彼女に手を出すな!」シリウスがスネイプにつかみ掛かろうとすると、スネイプは直ぐさまシリウスに杖を向けた。
「おまえを捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願ったことか・・・・・」
「お生憎だな」シリウスが憎々しげに言った。「しかしだ、この子がそのネズミを城まで連れていくなら――」シリウスはロンを顎で指した。「――それならわたしはおとなしくついて行くがね・・・・・」
「城までかね?」スネイプがいやに滑らかに言った。「そんなに遠くに行く必要はないだろう。柳の木を出たらすぐに、我輩が吸魂鬼を呼べばそれですむ。連中は、ブラック、君を見てお喜びになることだろう・・・・・喜びのあまりキスをする。そんなところだろう・・・・・」
シリウスの顔が真っ白になった。スネイプは本気だ。
「聞け――最後まで、わたしの言うことを聞け」
シリウスの声がかすれた。
「ネズミだ――ネズミを見るんだ――」
「来い、全員だ」
スネイプはシリウスを無視し、指を鳴らした。すると、ルーピンを縛っていた縄目の端がスネイプの手元に飛んできた。
「我輩が人狼を引きずっていこう。吸魂鬼がこいつにもキスしてくれるかもしれん――」
はもう我慢出来なくて杖を構えて、スネイプの前に飛び出した。しかし、そうしたのはだけではなかった。
「ハリー――?」は呆気にとられて、ハリーを見た。しかし、ハリーはスネイプを睨み続けていた。
「どけ。おまえたちはもう十分規則を破っているんだぞ」スネイプが唸った。「我輩がここに来て救っていなかったら――」
「ルーピン先生が僕を殺す機会は、この一年に何百回もあったはずだ。僕は先生とと、何度も吸魂鬼防衛術の訓練を受けた。もし先生が彼らの仲間なら、そういうときに僕とを殺してしまわなかったのはなぜなんだ?」
「それに、ルーピン先生は私の引き取り手だった。私を殺すならダンブルドアの目が届かない夏休み中に殺すのが簡単なはず。どうして今更?」
はロンとハーマイオニーが二人して驚いたのを見た。彼らには今までルーピンが引き取り手だと言っていなかったのだから当然だろう。それに、狼人間のルーピンと暮らしていたなんて、彼らにとって考えられないことなのだ。
「人狼がどんな考え方をするか、我輩に推し量れとでも言うのか」
スネイプがすごんだ。
「どけ、ポッター」
「恥を知れ!」ハリーが叫んだ。
「学生のとき、からかわれたからというだけで、話も聞かないなんて――」
「黙れ!どくんだ。さもないと、どかせてやる。どくんだ!」
はハリー、ロン、ハーマイオニーが杖をスネイプに向けるのを見た。
「エクスペリアームス、武器よ去れ!」
ドアの蝶番がガタガタ鳴るほどの衝撃が走り、スネイプは足元から吹っ飛んで壁に激突し、ズルズルと床に滑り落ちた。髪の下から血がタラタラ流れてきた。ノックアウトされたのだ。
スネイプの杖は高々と舞い上がり、クルックシャンクスのわきのベッドの上に落ちた。
「こんなこと、君がしてはいけなかった」シリウスがハリーを見ながら言った。「わたしたちに任せておくべきだった・・・・・」
「パパは杖を持ってないでしょう?」がシリウスを見上げた。すると、シリウスは肩をすくめて、ジェームズに縄を解いてもらっているルーピンを見た。
「ありがとう、ハリー、」縄目から解き放たれると、紐が食い込んでいた腕のあたりを摩りながらルーピンが言った。
「僕、まだあなたたちを信じるとは言ってません。のためにやったんだ」ハリーはを見た。もハリーを見た。つい数カ月前、二人並んでお互いを信じると約束したあの日のようだった。
ハリーとの絆を深めるばかりです。