Cat, Rat and Dog 猫、ネズミ、犬
はいつかはこうなるだろうと、どこかで覚悟していた自分を見つけた。はハリー、ロン、ハーマイオニーの視線を感じたが、誰とも視線を合わせられなかった。
「父さんもグルだったのか!」ハリーの目には怒りが浮かんでいた。
「ハリー、聞きなさい」ジェームズが感情を込めずに言った。
「信じてたのに!」
「ハリー!」ハリーもジェームズもお互いに怒鳴った。
「君はすべてを知らないんだ!」
「すべて?」ハリーが怒りで震えた。「父さんたちは母さんとを殺そうとした。それだけ知ればたくさんだ!」
「私たちは殺そうとはしていない、頼む、聞いてくれ・・・・・」シリウスの声には緊迫したものがあった。
「ハリー」が静かに名前を呼んだ。すると、しばらく部屋の中が静かになった。ロンのあえぐような息づかいしかしない。誰もかれもが身動き一つせず、を見つめた。
「君も、グルだったのか」ハリーの声が少し震えていた。
「――わからない」は初めてハリーの目を見た。
「わからない?そんなことがあるわけないじゃないか!」ハリーが大声をあげた。は何も言わなかった。ハリーが裏切られたと思うのは当然の状態だと思ったからだ。しかし、もシリウスがロンを襲ったことで、本当に信じていいのか迷っていた。二人はお互いの顔を見たまま、微動だにしなかった。
そのとき、シーンとした部屋に新しい物音が聞こえてきた。
床にこだまする、くぐもった足音、誰かが階下で動いている。
ここよ!」ハーマイオニーが急に叫んだ。「私たち、上にいるわ――シリウス・ブラックよ――早く!
足音がバタバタと上がってくる。
赤い火花が飛び散り、ドアが勢い良く開いた。ハリーもも振り向いた。蒼白な顔で、杖を構え、ルーピン先生が飛び込んでくるところだった。ルーピン先生の目が、床に横たわるロンをとらえ、ドアのそばですくみあがっているハーマイオニーに移り、向かい合って棒立ちになっているハリーとを見、の背後でハリーとハーマイオニーとロンの杖を持っているシリウスを見てから、無表情でその様子を見ていたジェームズへと移った。
「シリウス、ジェームズ、あいつはどこだ?」
は一瞬、ルーピンの頭がどうにかなったのかと思った。しかし、シリウスとジェームズにはそれが何を指すか分かったらしく、目を合わせると、ジェームズがロンを指差した。
「しかし、それなら・・・・・」
ルーピンはシリウスとジェームズを見つめながらつぶやいた。
「・・・・・なぜいままで正体を顕さなかったんだ?もしかしたら――」
ルーピンは急に目を開いた。ジェームズの顔つきが少し変わった。
「・・・・・もしかしたら、あいつがそうだったのか・・・・・君たちはそれで隠れたのか?」
シリウスもジェームズも何も言わなかったが、ゆっくりと頷いた。
「ルーピン先生」ハリーが大声で割って入った。「いったい何が――?」
ハリーの問いかけが途切れた。目の前で起こったことが、ハリーの声を喉元で押し殺してしまったようだった。ルーピンはシリウスとジェームズの方に歩いていくと、それぞれ彼らを兄弟のように抱きしめた。
なんてことなの!」ハーマイオニーが叫んだ。
ルーピンはハーマイオニーのほうを見た。ハーマイオニーは床から腰を上げ、目をランランと光らせ、ルーピンを指差した。
「先生は――先生は――」
「ハーマイオニー――」
「――その人たちとグルなんだわ!」
「ハーマイオニー、落ち着きなさい――」
「私、誰にも言わなかったのに!」はハッとしてハーマイオニーを見た。自身でもルーピンの秘密に気づいたのだ。あの頭の良いハーマイオニーが気づかないはずはない。
「先生のために、私、隠してたのに――」
「ハーマイオニー、話を聞いてくれ。頼むから!」ルーピンも叫んだ。「説明するから――」
ハリーがまた新たな怒りから震えだした。
「僕は先生も信じてた」抑えきれずに、声を震わせ、ハリーはルーピンに向かって叫んだ。
「それなのに、先生は彼らの友達だったんだ!」
「それは違う」ルーピンが言った。「この一年間、私はシリウスとジェームズの友ではなかった。しかし、いまはそうだ・・・・・説明させてくれ・・・・・」
「だめよ!」ハーマイオニーが叫んだ。「ハリー、だまされないで。この人はブラックが城に入る手引きをしてたのよ。この人もあなたの死を願ってるんだわ――この人、狼人間なのよ!
「ハーマイオニー!」が怒鳴った。杖を構えたが、ルーピンが急いでその腕を掴んだ。
、やめるんだ」はこのときばかりはルーピンも憎らしかった。何故、止めるのか。「先生!」
しかし、ルーピンは首を振るだけだった。は渋々ながら杖を下ろした。
「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。残念ながら、三問中一問しか合ってない。わたしはシリウスが城に入る手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってなんかいない・・・・・」
ルーピンの顔に奇妙な震えが走った。
「しかし、わたしが狼人間であることは否定しない」
ロンは雄々しくも立とうとしたが、痛みに小さく悲鳴をあげてまた座り込んだ。ルーピンは心配そうにロンの方に行きかけたが、ロンが喘ぎながら言った。
僕に近寄るな、狼男め!
ロン!
が殺気立ってロンをにらみつけ、杖を構える前にシリウスがの杖腕を掴んで離さなかった。
「いつごろから気づいていたのかね?」
「ずーっと前から」ハーマイオニーが囁くように言った。「スネイプ先生のレポートを書いたときから・・・・・」
「スネイプ先生がお喜びだろう」ルーピンは落ち着いていた。
「スネイプ先生は、わたしの症状が何を意味するのか、誰か気づいてほしいと思って、あの宿題を出したんだ。月の満ち欠け図を見て、わたしの病気が満月と一致することに気づいたんだね?それとも『まね妖怪』がわたしの前でつきに変身するのを見て気づいたのかね?」
「両方よ」ハーマイオニーが小さな声で言った。
ルーピンは無理に笑って見せた。
「ハーマイオニー、君は、わたしがいままでに出会った君と同年齢の魔女の、誰よりも賢いね」
「違うわ」ハーマイオニーが小声で言った。
「私がもう少し賢かったら、みんなにあなたのことを話してたわ!」
「しかし、もう、みんな知ってることだ」ルーピンが言った。「少なくとも先生方は知っている」
「ダンブルドアは、狼人間と知っていて雇ったっていうのか?」ロンが息を呑んだ。「正気かよ」
「先生の中にもそういう意見があった」ルーピンが続けた。「ダンブルドアは、わたしが信頼できると、何人かの先生を説得するのにずいぶんご苦労なさった」
そして、ダンブルドアはまちがってたんだ!」ハリーが叫んだ。
先生はずっとこいつの手引きをしてたんだ!
ハリーはシリウスを指差した。の杖腕を掴むシリウスの腕が震えた。はジェームズの方を見た。相変わらず無表情で、なにを考えているのかわからないし、こんなジェームズを見たのは初めてだった。
「わたしはシリウスの手引きはしていない」ルーピンが言った。「わけを話させてくれれば、説明するよ。ほら――」
ルーピンはシリウスから三人の杖を取り上げ、持ち主に放り投げた。ハリーもロンもハーマイオニーも呆気にとられて自分の杖を受け取った。
「ほーら」ルーピンは自分の杖をベルトに挟みこんだ。
「君たちには武器がある。わたしたちは丸腰だ。聞いてくれるかい?」
ハリーが無言で自分を見つめているのには気づいた。は黙ってシリウスの腕をどかし、杖をしまった。
「ブラックの手助けをしていなかったっていうなら、こいつがここにいるって、どうしてわかったんだ?」
シリウスの方に激しい怒りのまなざしを向けながら、ハリーが言った。
「地図だよ」ルーピンが答えた。「『忍びの地図』だ。事務所で地図を調べていたんだ――」
「使い方を知ってるの?」が驚いて話に口を挟んだ。
「もちろん、使い方は知っているよ」ルーピンは先を急ぐように手を振った。「わたしもこれを書いた一人だ。わたしはムーニーだよ――学生時代、友人はわたしをそういう名で呼んだ」
「先生が書いた――?」ハリーが呆気にとられた。しかし、ルーピンはそんなことを気にする様子もなく、先を急いだ。
「そんなことより、わたしは今日の夕方、地図をしっかり見張っていたんだ。というのも、君とロン、、ハーマイオニーが城をこっそり抜け出して、ヒッポグリフの処刑の前に、ハグリッドを尋ねるのではないかと思ったからだ。思ったとおりだった。そうだね?」
は素直に頷いた。
「君はジェームズの『透明マント』を着ていたかもしれないね、ハリー――」
「どうして『マント』のことを?」
「ジェームズがマントに隠れるのを何度見たことか・・・・・」またルーピンは先を急ぐように手を振った。「要するに、『透明マント』を着ていても、『忍びの地図』に現れるということだよ。わたしは君たちが校庭を横切り、ハグリッドの小屋に入るのを見ていた。二十分後、君はハグリッドのところを離れ、城に戻り始めた。しかし、今度は君たちのほかに誰かが一緒だった」
「え?」ハリーが言った。「いや、僕たちだけだった!」
「わたしは目を疑ったよ」ルーピンはハリーの言葉を無視した。
「地図がおかしくなったかと思った。あいつがどうして君たちと一緒なんだ?」
「誰も一緒じゃなかった!」ハリーが言った。
「すると、もう一つの点が見えた。急速に君たちに近づいている。シリウス・ブラックと書いてあった・・・・・ブラックが君たちにぶつかるのが見えた。君たちの中から二人を『暴れ柳』に引きずり込むのを見た――」
「一人だろ!」ロンが怒ったように言った。
「ロン、違うね」ルーピンが言った。「二人だ」
ルーピンはロンを眺め回した。
「ネズミを見せてくれないか?」ルーピンは感情を抑えた言い方をした。
「なんだよ?スキャバーズになんの関係があるんだい?」
「大ありだ」ルーピンが言った。「頼む。見せてくれないか?」
ロンはためらったが、ローブに手を突っ込んだ。スキャバーズが必死にもがきながら現れた。逃げようとするのを、ロンはその裸の尻尾を捕まえて止めた。クルックシャンクスが低く唸った。
ルーピンがロンに近づいた。じっとスキャバーズを見つめながら、ルーピンは息を殺しているようだった。
「なんだよ?」ロンはスキャバーズを抱きしめ、怯えながら同じことを聞いた。
「僕のネズミがいったいなんの関係があるって言うんだ?」
「それはネズミじゃない」突然、ジェームズの声が聞こえた。
「どういうこと――こいつはもちろんネズミだよ――」
「いや、ネズミじゃない」ルーピンが静かに言った。「こいつは魔法使いだ」
「『動物もどき』だ」シリウスが言った。「名前はピーター・ペティグリュー」
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シリ&ジェの次はリーマスですv