四人は「マント」にちゃんと隠れるようにゆっくりと歩いて、また城へと向かった。急速に日が陰ってきた。広い校庭に出る頃には、闇がとっぷりと呪文のように四人を覆った。
「スキャバーズ、じっとしてろ」
ロンが手で胸をぐっと押さえながら、スキャバーズを無理やりポケットにもっと深く押し込もうとした。
「いったいどうしたんだ?このバカネズミめ。じっとしてろ――アイタッ!こいつ噛みやがった!」
「ロン、静かにして!」ハーマイオニーが緊迫した声で囁いた。
「ファッジがいまにもここにやってくるわ――」
「こいつめ――なんでじっと――してないんだ――」
スキャバーズはひたすら怖がっていた。ありったけの力で身をよじり、握り締めているロンの手からなんとか逃れようとしている。
「まったく、こいつ、いったいどうしたんだろう?」
しかし、まさにそのとき、は地を這うように身を伏せてこちらに向かって忍び寄る影を見た。暗闇に不気味に光る大きな黄色い目、クルックシャンクスだった。四人の姿が見えるのか、それともスキャバーズのキーキー声を追ってくるのか、わからなかったが、クルックシャンクスは確実に近寄ってきた。
「クルックシャンクス!」ハーマイオニーがうめいた。「ダメ。クルックシャンクス、あっちに行きなさい!行きなさいったら!」
しかし、猫は近づく一方だった。
「スキャバーズ――ダメだ!」
遅かった――ネズミはしっかり握ったロンの指の間をすり抜け、地面にポトッと落ちて、遮二無二逃げ出した。クルックシャンクスがひとっ跳びしてそのあとを追いかけた。ハリーととハーマイオニーが止める間もなく、ロンは「透明マント」をかなぐり捨て、猛スピードで暗闇の中に消え去った。
「ロン!」ハーマイオニーがうめいた。
三人は顔を見合わせ、それから大急ぎで追いかけた。マントをかぶっていたのでは、全速力で駆けるのはムリだった。三人はマントを脱ぎ捨て、後ろに旗のようになびかせながら、ロンを追って疾走した。前方にロンの駆ける足音が聞こえ、クルックシャンクスを怒鳴りつけるのが聞こえた。
「スキャバーズから離れろ――離れるんだ――スキャバーズこっちへおいで――」
ドサッと大きな音がした。
「捕まえた!とっとと消えろ、いやな猫め――」
ハリーととハーマイオニーは危うくロンに躓くところだった。ロンのぎりぎり手前で三人は急ブレーキをかけた。ロンは地面にべったり腹ばいになっていたが、スキャバーズはポケットに戻り、その震えるポケットのふくらみを、ロンが両手でしっかり押さえていた。
「ロン――早く――マントに入って――」ハーマイオニーがぜいぜいしながら促した。
「ダンブルドア――大臣――みんなもうすぐ戻ってくるわ――」
しかし、四人が再びマントをかぶる前に、息を整える間もなく、何か巨大な動物が忍びやかに走る足音を聞いた。暗闇の中を、何かがこちらに向かって跳躍してくる――巨大な、薄灰色の目をした、真っ黒な犬だ。
はすぐさまそれがシリウスだと理解した。しかし、なんだか様子が違う。隣にいたハリーが杖に手をかけたのを見ると、大きくジャンプして、ハリーを押し倒した。には何がなんだかわからなかった。ヒュッと耳元を何かがかすめる音がしたかと思うと、腕を思いっきり叩きつけられた。
「ルーモス、光よ!」ハリーの杖から光があふれた。杖灯りに照らし出されたのは、太い木の幹だった。
まるで強風にあおられるかのように枝を軋ませ、「暴れ柳」はそれ以上三人を近づけまいと、前に後ろに叩きつけている。そして、木の根元に、犬の姿をしたシリウスがいた。根元に大きく開いた隙間に、ロンを頭から引きずり込もうとしている。ロンは激しく抵抗していたが、頭が、そして胴がズルズルと見えなくなりつつあった。
「ロン!」ハリーが叫ぶ声が聞こえた。
は「暴れ柳」の攻撃が届かないところまで来ると、クルックシャンクスを探した。クルックシャンクスは後ろの方でを見つめている、まるで何かを待っているようだった。
「クルックシャンクス、お願い」がそう懇願すると、サッと殴りかかる大枝の間をまるで蛇のようにすり抜け、両前脚を木の節の一つに乗せた。突如、「柳」はまるで大理石になったように動きを止めた。木の葉一枚そよともしない。
「ハリー、ハーマイオニー、こっちよ!」
は唖然としている二人に声をかけて、急いで根元の隙間に滑り込んだ。後ろで、二人が自分の名前を呼ぶのが聞こえる。は少し焦る心を落ち着けて、二人が追いつくのを待った。
「ねえ、、あなた変よ」ハーマイオニーが恐々にそう言った。
「変、かもね。早く、ロンはこっちよ」は自嘲するようような笑いを浮かべると、いつの間にか先頭に来ていたクルックシャンクスに続いた。
「このトンネル、どこに続いているのかしら?」ハーマイオニーが息を切らして聞いた。
「わからない・・・・・『忍びの地図』には書いてあるんだけど、フレッドとジョージはこの道は誰も通ったことがないって言っていた。この道の先は地図の端からはみ出てる。でもどうもホグズミードに続いているみたいなんだ・・・・・」
は何度も行きなれたこの道を歩きながら、シリウスがロンを襲った理由を正当化しようと考えていた。そうでもしないと、はもうシリウスを信じられなくなっていた。
行き着いた先は相変わらず埃っぽい部屋だった。
「ねえ、ここ、『叫びの屋敷』の中だわ」ハーマイオニーが囁いた。
「早く、こっちよ」
が迷わずにスタスタと歩くと、二人は戸惑いながらもついてきてくれた。二階に出て、開いているドアを押し開けた。すると、中には埃っぽいカーテンのかかった壮大な四本柱の天蓋ベッドに、クルックシャンクスが寝そべり、そのわきの床には、妙な角度に曲がった脚を投げ出して、ロンが座っていた。
ハリーとハーマイオニーはロンに駆け寄った。しかし、は駆け寄れなかった。暗がりで無表情に立つ二人から目を放せなかった。
「エクスペリアームス、武器よ去れ!」
ハリーとハーマイオニーの杖が二人の手から飛び出し、高々と宙を飛んで、シリウスの手に収まった。シリウスはロンの杖を握っている。
「ハリー」
そして、暗がりから、もう一人の男が出てきた。ハリーの顔が驚愕した表情になった。
感動の再会?笑