「ルーピン先生、一週間分の授業のことで質問があります」
はまっすぐにルーピンの部屋に向かうと、ノックした。しばらくしてルーピンが出てきたとき、ルーピンはなんだか覚悟を決めたような表情をしていた。
「いらっしゃい、」ルーピンは紅茶を出して一応歓迎してくれた。
「あの――」
覚悟を決め、いざ話そうとすると、はどう話せば良いか、迷った。
「君が一週間分の授業について質問をしにきたのではないことはわかってるよ、」ルーピンが弱々しく笑った。
「君は、私の秘密を知ってしまったんだね」
「――ごめんなさい」はなんだか悪い気持ちでいっぱいになった。
「謝ることはない、。いつかは君に知られてしまうと思っていた」
はルーピンを真っ直ぐ見つめた。ルーピンもを見つめ返してくれている。
「リーマスは狼人間でしょう?」
ルーピンがゆっくりと頷いた。この瞬間、の憶測にすぎなかったことが、確かなものとなった。
「私は確かに狼人間だ。どこでわかったんだい?」ルーピンはそれでも笑っていた。
「前から薄々気付いてた。でも、何かの間違えだったらいいとも思ってた。確信したのはクリスマス休暇にふくろう便を飛ばしたら、城に飛んでいったからよ」
ルーピンの顔は何だか寂しそうだった。
「リーマスは、どうして私がわかったと思ったの?」今度はが聞いた。
「君の表情から、かな」ルーピンが言った。
「、君が私を信用してくれたことがとっても――」
「過去形じゃないわ」はルーピンを見つめた。「私はリーマスを今でも信用してる。リーマスが好きなの!」はルーピンの寂しそうな笑顔を見て、思わずそう言った。でも、それは正直な彼女の気持ちだったし、少なからずルーピンの暗い気持ちを消し去ったのも事実だった。
「、君は――いや、なんでもない」ルーピンはを抱きしめたい衝動に駆られたが、そうすることはなかった。
「私、リーマスが狼人間だなんて誰にも言わない。リーマスは良い人だわ。私、リーマスを困らせるために言ったんじゃないの」
ルーピンは黙っての話を聞いていた。
「ただ、知ってほしかった。私がリーマスの秘密を知ってしまったということを、リーマスが人狼でも私は気にしないってことを」
ルーピンは尚、黙っていた。はただルーピンを見つめているだけだ。
「」
「なに?」
やっとルーピンが口を開いたとき、紅茶はすでにもう冷めていた。
「ありがとう」
は再び、にっこり笑ってみせた。
そのとき、ルーピンの部屋の暖炉からスネイプの声が聞こえた。
「ルーピン!」
「ああ、、ごめん。君ともっと話していたいけど、スネイプ先生が呼んでいる。またおいで――今度はちゃんと一週間分の授業で解らないところをメモしてね」クスリとルーピンは笑い、悪戯っぽい表情を浮かべる。
は名残おしそうに立ち上がり、部屋を出て行った。ルーピンはが立ち去るまでにこにこと笑いかけていてくれた。あのスネイプがルーピンに何の用なのか気になったが、また今度聞けるだろうとはルーピンの部屋を後にした。
談話室に戻ったを待ち受けていたのは、ハーマイオニーの泣き顔だった。ハーマイオニーはそのままに抱き着くと、押しても引いても離れなかった。もっとも、はあまり力を込めなかったからそれは当たり前だったが。
「ハーマイオニー?」
が心配そうに、泣いているハーマイオニーの名前を呼んだ。
「!ハグリッドが、ハグリッドが――」
ハーマイオニーはなんだか興奮して手がつけられない状態だ。はふとハーマイオニーが握っている紙が気になった。がハーマイオニーに断りを入れ、手の中から引っ張りだせば、中には何か文字が書いてある。は書かれている内容を読み上げた。羊皮紙は湿っぽく、大粒の涙であちこちインクがひどくにじみ、とても読みにくい手紙だった。
「ハーマイオニーへ。俺たちが負けた。バックビークはホグワーツに連れて帰るのを許された。処刑日はこれから決まる。ビーキーはロンドンを楽しんだ。おまえさんが俺たちのためにいろいろ助けてくれたことは忘れねえ。ハグリッドより――ありえないわ!」が怒鳴ると、ハーマイオニーがビクッと肩を震わせた。
「あ、ごめん。でも、こんなの酷い、酷すぎるわ!」
「えぇ、そうよ、そんなのわかってるわ」ハーマイオニーは少し落ち着いてきていた。
「ハリーとロンにはもう知らせた?」ハーマイオニーは首を振った。
「なら、知らせなきゃ。手伝わないとしても、あの二人には知らせないと」
はハーマイオニーの手を引っ張って談話室の外に出た。すると、ちょうど向こうからハリーとロンが近づいてくる。
「さぞご満悦だろうな?」ロンがぶっきらぼうにハーマイオニーに言った。には何の話かわからない。しかし、良い話でないのは確かだった。
「それとも告げ口しに行ってきたところかい?」
「ロン!いい加減にして」はバシッとロンに言った。
「ハーマイオニーはあなたたち二人に大切なことを知らせにきたの。あなたたちも知っておくべきだと考えたのよ――」
は込み上げてきたものを我慢しようとしたが、耐え切れなかった。ハーマイオニーの努力が報われなかったことや、ハグリッドが敗訴したこと、何より、ハーマイオニーがそれを二人に知らせようとするといきなり責め立てられたこと、すべてが悲しかった。
「、いいのよ」ハーマイオニーは優しくの手をほどき、ハグリッドからの手紙をから取り上げた。
「ハグリッドが敗訴したの。バックビークは処刑されるわ。ハグリッドがこれを送ってきたの」
ハリーがそれを受け取り、ロンと二人で目を通した。
「こんなことってないよ」ハリーが言った。「こんなことできるはずないよ。バックビークは危険じゃないんだ」
「マルフォイの父親のせいよ。息子がああなら、親はもっと酷いわ」が泣きながらそう言うと、あまりはっきりと聞き取れなかったらしく、ハリーが苦笑いしながら「何を言っているかわからないよ」と言った。
「委員会は、老いぼれのよぼよぼバカばっかり。みんな怖気っいたんだわ。そりゃ、控訴はあるわ。必ず。でも、望みはないと思う・・・・・なんにも変わりはしない」ハーマイオニーが涙を拭った。談話室側に立っている女子二人は涙の洪水だった。
「いや、変わるとも」ロンが力を込めて言った。「ハーマイオニー、今度は君一人で全部やらなくてもいい。僕が手伝う」
「ああ、ロン!」
ハーマイオニーはロンの首に抱き着いてワッと泣き出した。ロンはオタオタして、ハーマイオニーの頭を不器用に撫でた。なんだか仲が戻りそうな彼らを見て、ハリーは二人きりにしてやろうと思った。まだ目が赤いがもう泣き止んでいるに目配せして、ハリーは談話室とは反対方向に歩き出した。は何歩か間を空けて、ハリーの後に続いた。
仲直りおめでとう(。`・ω・)ノ゙