その夜、結局もマダム・ポンフリーも眠らなかった。明け方、今度はマクゴナガル先生が来て、ブラックが逃げおおせたと告げた。
次の日、昨夜寝ていないために、もしや面会謝絶のままかと覚悟したが、マダム・ポンフリーは一日中面会を許可してくれた。一日の始めに来てくれたのはハーマイオニーだった。
「ああ、!心配したのよ!」ハーマイオニーがベッドに駆け寄ってきた。やはりまだハリーもロンもいない。未だファイアボルトの件でケンカしているのだろうか。しかし、ルーピンはファイアボルトが無事にハリーの元に返ってきたと言っていたが。
「心配かけてごめんね」はゆっくりと上半身を起こした。夜に起こしたときよりは楽になっている。
「マクゴナガル先生が、あなたが重傷だから当分の間、面会謝絶っておっしゃっていたわ。夜、何者かに襲われたって」
ハーマイオニーは何があったのか聞きたそうだったが、は話す気になれなくて気付かないフリをした。
「もう大丈夫だから」は笑ってみせた。
「本当によかったわ」ハーマイオニーはやっと笑ってくれた。
「――あのさ、ハーマイオニー」
はチラリとドアに目を走らせ、誰もいないことを確認した。
「昨日、というか今日の朝ね――パパがグリフィンドールの男子寮に乗り込んだって聞いたんだけど・・・・・」
ハーマイオニーの顔色が一瞬にして変わり、病室に入ってきたときと同じように泣きそうな顔になってしまった。
「あの、ハーマイオニー、ごめんなさい。あなたを困らせたくて聞いたんじゃないの。その――」がなんて声をかけたらいいのか迷っているうちにハーマイオニーの目に涙が浮かんだ。
「ロンが襲われかけたの。ナイフを持って立っていたらしいわ。あなたの次はロンよ。もう、私、心配で・・・・・」
涙を流すハーマイオニーに、は頭をポンポンと撫でてやることくらいしか出来なかった。
「それで、ハリーとロンは今どこに?」
「し――知らないわ」ハーマイオニーがしゃくり上げた。
「二人とも口をきいてくれないわ。最初はファイアボルト、次はスキャバーズで――」
「スキャバーズがどうしたの?」が聞いた。
「いなくなったの。でもロンはクルックシャンクスが食べたって言うわ。ただ床の上にクルックシャンクスの毛があったっていうだけで!」ハーマイオニーがヒステリックに言った。こんなに取り乱したハーマイオニーは久しぶりに見た。
「もしかしたらクリスマス休暇に男子寮に上がったときに落ちたのかもしれないのに!」
「ハーマイオニー、落ち着いて。大丈夫よ。少なくともハリーはあなたのことをもう許してると思うわ。ファイアボルトが返ってきたんでしょう?」
が優しくそう言うと、ハーマイオニーは小さく頷いた。
「でも、どうしてがそれを知ってるの?」ハーマイオニーは指摘した。の心臓が早鐘のように鳴り響く。
「ルーピン先生が話してくれたの。たまたま様子を見にきてくれていたらしくて、その時に聞いたわ」
ルーピンが見舞いに来てくれた、なんて言ったら、賢いハーマイオニーはルーピンと親密な関係にあるとすぐに予測してしまうだろう。はそう思うと、小さな嘘をたくさんつかなくてはいけなかった。
「そういえばハーマイオニー、バックビークの裁判の手伝い、任せちゃってごめんなさい」はバツが悪そうな顔をして、ハーマイオニーを見た。
「ううん、が無事なら私、それでいいわ。任せて!今、とっても良さそうなものを見つけたのよ」ハーマイオニーはとてもはつらつとして見えた。なんだか少し安心した。まだハーマイオニーは大丈夫そうだ。
「それじゃあ私、そろそろ帰るわ」
「うん、どうもありがとう、ハーマイオニー」が微笑むと、ハーマイオニーもつられて微笑んだ。
ハーマイオニーが帰ると病室は静かになった。なんとなく気になって、は見舞い品に目をやった。なんだか一際美しく包装されたものがある。しかし、には見ることが出来なかった。マダム・ポンフリーが、まだ足を動かすことの出来ないには手の届かない場所に置いていたのだ。しかし、それで諦めるでもない。上半身を動かせるのだから、下半身も――と思った矢先、優しいあの声が聞こえた。
「」
「セドリック!」
は本当に嬉しかった。まさか、セドリックが見舞いに来てくれるとは思っていなかった。おまけに一人で。
「やあ。元気かい?」セドリックはいまさっきまでハーマイオニーが座っていた椅子に座った。
「ええ、元気よ。セドリックは?」は自分の声が上擦っていなくて安心した。
「僕は元気だよ。マクゴナガル先生が君が襲われたって言ってたよ。大丈夫?」セドリックに心配されて、は嬉しかった。
「うん、もう大丈夫。マダム・ポンフリーが面会を許してくれたほどだから」
「それならよかった。本当に君は怪我ばかりするね」セドリックはクスクスと笑った。自然との口元も緩んだ。
「、そういえばハリーのことなんだけど・・・・・」セドリックの顔がちょっと曇った。
「なに?」は出来るだけ、笑顔でいよう、と彼のなんだか思い詰めた表情を見て思った。
「クリスマス前のクイディッチの試合で、彼、箒から落ちただろう?僕、それで再試合を申し出たんだ。だけど受理されなかった」
セドリックが一体何を言いたいのか、には予想がつかなかった。ただ黙って優しくセドリックを見つめている。
「箒も『暴れ柳』に当たって粉々になったって聞いたんだ。だけど、彼はそれにもめげなかった。昨日の試合は本当にすごかった」
「そんなに?」はハリーがほめられて、少し誇らしくなった。
「うん、とっても。――だからハリーに伝えてくれないか?君の飛行は素晴らしかったって」
は満面の笑顔で頷いた。ハリーがほめられたことも嬉しかったし、セドリックが素直に相手をほめたこともすごいと思った。セドリックはそれからしばらく話して帰っていった。の頭の中は始終ピンク色だった。
ハーマイオニー→セドリック→・・・?