Dear dad 親愛なる父へ
夕方、が目覚めると目の前にはルーピンの顔があった。
「おはよう、
ルーピンはクスクスと笑って、の前髪をはらった。
「私、ずっと寝てた?」はまだはっきりしない頭でルーピンにそう聞いた。
「うん」ルーピンは怒る様子もなく、優しくそう答えた。
「ごめんなさい。起こしてくれてよかったのに」はバツが悪そうに言った。
「あまりにも気持ち良さそうに寝てたからね。今日、君の友人たちから伝言を預かったよ」
ルーピンはにこにこと羊皮紙を広げた。
「そんなにたくさん?一体どうしたの?」は驚いた。
「ハリーが全部まとめてくれたんだよ。彼は私が君の保護者だってことを思い出したらしくてね。面会謝絶の君にいち早くグリフィンドール生からのメッセージが届くように、私のところへ持ってきたんだ」
ルーピンはそう言ってたくさんのメッセージを読み始めた。時に感想や、茶々を入れながら。
「――そっか。明日はクイディッチの試合なのね」はフレッドとジョージからのメッセージを聞きながら呟いた。
「ハリーは箒どうするのかしら?」がルーピンを見ると、ルーピンは微笑んでに言った。
「ファイアボルトが返ってきたらしいよ」
「ホント?」が目をキラキラさせて、少し身を乗り出すと、とたんに体に痛みが走った。まだ治っていないのか、とは顔を痛さに歪めながら思った。
、興奮したらダメだよ。治りが遅くなってしまう」ルーピンが顔を歪めたをたしなめた。
「ごめんなさい。それで、じゃあハリーはファイアボルトで試合に出るの?」は話を促した。
「ああ、そうみたいだ。マクゴナガル先生もそう言っていたしね」
「私も見に行きたいな・・・・・」は呟いた。すると、耳聡くルーピンは聞き付けて、わざとらしく咳ばらいした。
「冗談よ、リーマス」が慌てて言った。しかし、ルーピンは叱る様子もなく、をにこにこと眺めていた。
、良いことを教えてあげようか。あさってから、もし君が安静にしていられると約束出来るなら、マダム・ポンフリーが面会を許してくださるそうだ。意外にも、君の怪我の治り具合が良いらしいんでね」
「やった!」
は叫んで、また咳込んだ。まだまだ傷は癒えていないらしい。
次の日、はルーピンからの試合報告を待ち侘びた。そのためか、マダム・ポンフリーが出す苦い薬も苦にならなかった。
日没後、ルーピンはにこにこと医務室に入ってきた。はその顔を見て、グリフィンドールが勝ったんだな、と思った。案の定、その通りだった。
「グリフィンドールが勝ったよ」
「ホント?すごいわ!」
は未だ体こそ起こせないものの、叫んでももう咳込まなくなった。
「吸魂鬼は大丈夫だったの?」
「それがね、」ルーピンは何が可笑しいのか、クスクス笑った。
「本物はいなかったんだけど、偽物がいてね」
「偽物?」
吸魂鬼に本物も偽物もあるのだろうか、とは首を傾げた。
「マルフォイ君やクラッブ君、ゴイル君、それにフリント君がハリーを怖がらせようと吸魂鬼の真似をして競技場に現れたんだ。だけど、ハリーは『守護霊の呪文』を使って――どうやら本物と勘違いしたらしいんだが――偽吸魂鬼を撃退したんだ」
は思わずニヤリと笑った。あれだけハリーをバカにしていたのだ、撃退されていい気味だと思った。
「マクゴナガル先生がご立腹だったよ」
はそれを聞いてクスクスと笑った。
「きっと今頃、談話室はドンチャン騒ぎでしょうね」フレッドやジョージが中心になって騒ぐ姿が目に浮かぶ。
「明日になったら君の友人たちがここで一緒に騒いでくれるんじゃないかな」
ルーピンは時計を見るとに言った。
「今日はここらへんで帰ることにするよ」
が少し寂しそうな顔をすると、ルーピンが愛おしそうな目でを捕らえた。
「明日はきっとたくさんの見舞い客が来る。今夜はそのためにもたくさん眠らないとね」
「リーマスは明日、来てくれる?」が甘えるように聞いた。
「明日は来れたら来るよ、
ごめんね、とルーピンは悲しそうな表情を浮かべるの頭を撫で、立ち上がった。
「おやすみ、
「おやすみなさい、リーマス」
は病室を出ていくルーピンの後ろ姿を見送った。そして、ルーピンと入れ違いにマダム・ポンフリーが手にゴブレットを持って入ってきた。今夜もまた苦い薬を飲まなければいけないらしい。

真夜中過ぎ、はなんだか騒がしい病室の外の音で目を覚ました。気になって微かに体を動かすと、ほとんど痛みがなくなっているのに気がついた。ベッドから立ち上がるのはまだ無理だろうが、起き上がるのは大丈夫だろうと思って、はゆっくりと手に力をかけながら上半身を起こした。まだ微かに腹部は痛かったが、耐えられない痛みでもない。
そのとき、病室のドアが開き、スネイプとマダム・ポンフリーが現れた。てっきりはマダム・ポンフリーに起き上がっていることを咎められるかと思ったが、マダム・ポンフリーはただ安堵した表情を浮かべただけだった。
「ブラック、いつから起きていた?」スネイプが問いかけた。スネイプはなんだか怒った顔だ。
「いまさっきです。病室の外がうるさくなったので起きました」が正直にそう言っても、スネイプはなんだか信用していないようだった。
「スネイプ先生!患者は休養が必要なんです。無事だったのですから、出て行って下さい」マダム・ポンフリーはスネイプを帰らせようとしたが、無駄だった。が自らスネイプに問いかけた。
「先生、何があったのですか?」
スネイプがわざわざこんな夜遅くに自分を見舞いなんて来ない。は直ぐさま、何かが起きたのだと察した。スネイプはを品定めするようにしばらく見つめると、口元を歪ませに言った。
「貴様の愛おしい父親が城に入り込み、グリフィンドール塔に押し入ったのだ。ヤツは合言葉を知っていた。愚かな生徒がメモに書き留めていたらしい。ヤツはそれを手に入れた。そして、グリフィンドールの男子寮に押し入った。幸い怪我人も死人も出なかったが、我々はヤツを再び捜索している」スネイプはそう言って、マントをひるがえし、病室を出て行った。はただただ唖然とするばかりだ。
「さあ、ブラック。あなたは眠らないと」
しかし、は眠る気になれなかった。マダム・ポンフリーはのベッドの脇に椅子を置いて「あなたが寝付くまでここにいます」と言ったが、はそれは嘘だと思った。きっと、寝付いてもそのまま彼女はここにいるだろう。不安げに窓やドアに目を走らせている。一人になるのが怖いのだろう。
クリスマス休暇に会ったとき、シリウスには城に乗り込んできたことを怒ったはず。そして、シリウスもきちんとそれを理解しているはずだ。それなのに何故――。普段ならの嫌がる事はしない彼が、今回に限って何故――。やはり、シリウスはが思っている以上に変わってしまったのだろうか。
はそう思うと、なんだか悔しくて、いつの間にか泣いていた。自分には何も出来ないという事実がとても辛かった。
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シリウスを信じられますか?