「・ブラック!」
は遠くで誰かが自分の名前を呼ぶのを聞いた。誰かが自分の体を抱き上げる。は痛くて思わず呻いた。すると、その誰かは先の尖った何かを自分の頭にくっつけた。杖だな、とが思っているうちに、いつの間にか意識が無くなっていた。
次に目が覚めたとき、は最初自分がどこにいるのかわからなかった。
「、聞こえるかね?」
白いものが目の前でフワフワ漂っている。もう一度瞬きすると、それがダンブルドアの髭だということに気がついた。自分は医務室のベッドに横たわっている。
「あ・・・・・」は自分の身になにが起こったのか思い出した。
「、聞こえるかね?」ダンブルドアがもう一度聞いた。は今度こそきちんと頷いてみせた。
「何があったか話せるかい?」ダンブルドアの隣にはルーピンがいた。蒼白な顔をしている。ベッドの逆サイドにはスネイプとマクゴナガル先生がいた。
はぼそぼそと何があったのか話し出した。話していくうちに、腹部に鈍い痛みをまた感じたが、それでも話し続けた。
「犯人は見たかね?」話し終わり、ダンブルドアが聞いた。
「いいえ」はしばらく黙った後、そう言った。犯人を見たか、とあらためて聞かれると、見たような気もするし、見ていないような気もする。
「シリウス・ブラックだ」スネイプが冷たく言った。
「パパじゃない!」が思わず叫ぶと、とたんに咳込んだ。咳込むと、体中が痛くなる。叫んではいけないんだ、とは学習した。
「何故そう言い切れる?」スネイプがせせら笑った。マクゴナガル先生が彼の隣で、咳込んだを心配そうに見つめている。
「声が違いました」ははっきりと言った。
「ほう、どんな声だと?ブラックがそんなに特徴的な声だとは思えませんがな」スネイプはネチネチと追求した。がウッと詰まった。
「セブルス、やめてくれ。は本調子じゃないんだ」ルーピンが言った。ダンブルドアは少し心配そうな、何かを思っている目でを見ていた。
「ふむ。わしが思うに犯人は闇の魔術に卓越しておるの。セブルス、がブラックではないと言うのじゃから違うんじゃよ」
「しかし!」スネイプは抗議の声を上げた。ダンブルドアはちょっと視線を上げ、スネイプを黙らせると、またに視線を戻した。スネイプは怒りのぶつける場所が見当たらないようで、を思いっきりにらんでいる。
「、多分君は一週間ほど、医務室に泊まることになるじゃろう。今日はゆっくりおやすみ」
ダンブルドアはそう言って、マクゴナガル先生とスネイプを引き連れて医務室を出て行った。ルーピンはの傍らに立ったままだった。
「リーマスは部屋に戻らなくていいの?」はボソリと呟いた。
「何故真っ直ぐにグリフィンドール塔に帰らなかったんだい?」
ルーピンは質問に答えなかった。口調こそ穏やかだったが、だからこそ怒っているように聞こえた。いっそ怒鳴ってくれた方が楽だった。
「リーマスに・・・・・今朝の、パパについて書かれてる『日刊予言新聞』を見せてほしくて・・・・・」は消え入りそうな声で答えた。
「――」ルーピンが呆れたように、ため息まじりに言った。
「『日刊予言新聞』なんか明日の授業後にでも申し出ればいくらでも見せてあげるよ。君は夜一人きりで歩き回るのが危ないことだとは思わなかったのかい?」
「ごめんなさい」はルーピンの顔を見れなかった。
「今日はゆっくり寝ると良い」ルーピンが優しくの頭を撫でた。
「私、大丈夫よ」はルーピンを安心させようと元気よく言った。
「いいや、違う」しかし、ルーピンはそれで納得するほどバカではなかった。
「君の体は、君が思っている以上に酷い状態なんだ。いいかい?私たちが闇の魔術に詳しい者の仕業だと判断したのは、君の体に残る傷痕からだ。それこそ下手をしたら一生傷痕が残ってしまうようなものばかりだ――幸い、今回は残らないが。今だってどこかしら痛いんじゃないのかい?さっき、君が大声を出したとき、咳込んだじゃないか。あれも今回の怪我のせいだよ」
ルーピンは一気にまくし立てた。その間、は唖然としてルーピンを見ていた。
「だからゆっくり休むんだ。君が再び襲われないように対策は大丈夫だから」ルーピンはどこか疲れているようにも見えた。は自分がルーピンを煩わしているのにイヤでも気付いた。
「きっと明日の朝――いや、今日の朝だね――にはこの事件をしった君の友人たちから見舞い品がたくさんくるだろう。だが、面会は禁止だ。もう少し、君が落ち着いたら、とマダム・ポンフリーに言われた――」
「リーマス」はルーピンの話をさえぎった。
「あの、ごめんなさい。本当に・・・・・新聞なんて明日にすればよかった」
が心から詫びていると感じたのか、ルーピンはいつもの柔和な微笑みを浮かべ、に言った。
「私も迂闊だった。必ず二人で帰りなさいと、言えばよかった。てっきり二人で帰ると――思いこんでいた」
「ううん、リーマスは悪くない」は思わずそう言った。
「――ありがとう。君にそう言われると心強いよ」ルーピンはクスリと笑った。
「さあ、、今日はもう遅い。君は寝るんだ」ルーピンはに薬を渡した。
「これを飲むと、痛みを感じずに眠れるから・・・・・私は君が寝付くまでここにいよう」
は大人しく薬を飲んだ。かなり苦い。しかし、飲み終わるととたんに眠くなり、苦さも痛さも感じなくなった。朦朧とする頭で、はルーピンが「おやすみ」と言うのを聞いた気がした。
次の日、ルーピンの言う通り、ベッド脇には見舞い品の山があった。しかし、見舞い品を見ようと体を動かすと鋭い痛みを感じ、呻いた。
「ブラック、目が覚めたのですか?」マダム・ポンフリーが呻き声を聞き付けて現れた。
「夕方ごろにルーピン先生がまたいらっしゃいますよ」
マダム・ポンフリーはそう言ってに食欲があるかどうか尋ねた。
「あんまり食べたくないです」は正直にそう答えた。胃がムカムカして何も口にしたくない。すると、マダム・ポンフリーは一旦事務所に引っ込み、再び手にゴブレットを持って現れた。
「食欲がなくても、栄養はとらなきゃ・・・・・さあ、お飲みなさい」
マダム・ポンフリーから差し出されたゴブレットを素直に飲むと、味がないのに気がついた。まずくもないし、おいしくもない。
「もう一度寝てなさい」
マダム・ポンフリーはそう言ってを残して部屋を出て行った。
今日から一週間の闘病生活です。笑