学期が始まって一週間後に、早速、レイブンクロー対スリザリンのクィディッチ試合があった。結果は、僅差でスリザリンの勝利。これはグリフィンドールにとって喜ばしいことだった。グリフィンドールがレイブンクローを破れば、グリフィンドールが二位に浮上する。
知らぬ間に一月が過ぎ、二月になった。相変わらず厳しい寒さが続いた。は毎週ハリーの「守護霊の呪文」の練習に付き合っていたが、ルーピンと二人っきりで会う約束は未だ一回もしていなかった。としても早く胸のつっかえを取り除きたかったが、ルーピンと話をした後、もしかしたら関係がギクシャクしてしまうかもしれない。はそう思うとなかなか言い出せなかった。
一方、ハリーの方は吸魂鬼防衛術の訓練がなかなか思うように進まないので、イライラしているようだった。吸魂鬼が近づくたびにもやもやした銀色の影を造りだせるようにはなったが、が最初の訓練でやってみたように、守護霊が吸魂鬼を追い払うにはまだまだ遠いようだった。
「高望みをしてはいけない」四週目の訓練のとき、ルーピン先生が厳しくたしなめた。
「十三歳の魔法使いにとっては、たとえぼんやりとした守護霊でも、大変な成果だ。もう気を失ったりはしないだろう?」
「僕、のように守護霊が――吸魂鬼を追い払うか、それとも」ハリーががっかりして言った。「連中を消してくれるかと――そう思ってました」
「本当の守護霊ならそうする。確かにはすごい。しかし、彼女は長い期間をかけて練習した結果、やっと習得できたんだ。君はまだ短い期間だが、随分出来る様になった。次のクィディッチ試合に、吸魂鬼が現れたとしても、暫く遠ざけておいて、その間に地上に下りる事が出来るはずだ」
「あいつらが沢山居たら、もっと難しくなるって、先生がおっしゃいました」
「君なら絶対大丈夫だ」ルーピンが微笑んだ。「さあ――ご褒美に飲むといい。『三本の箒』のだよ。今まで飲んだ事が無いはずだ――、君のはこっちだよ」
「バタービールだ!」ハリーは思わず口が滑った。がはっとしてハリーをにらみつけた。しかし、もう遅い。「ウワ、僕大好き!」
ルーピンの眉が不審そうに動いた。
「あの――ロンととハーマイオニーがホグズミードから少し持って来てくれたので・・・・・」ハリーの話にも頷いてみせた。
「そうか」ルーピンはそれでもまだ腑に落ちない様子だった。
「それじゃ――レイブンクロー戦でのグリフィンドールの勝利を祈って!おっと、先生がどっちかに味方してはいけないな・・・・・」ルーピンが急いで訂正した。
三人は黙ってバタービールを飲んでいたが、ハリーが口を開いた。
「あの――先生。吸魂鬼の頭巾の下には、何があるんですか?」
ルーピンは考え込むように、手にしたビール瓶を置いた。
「うーん・・・・・本当の事を知っている者は、もう口が利けない状態になっている。つまり、吸魂鬼が頭巾を下ろす時は、最後の最悪の武器を使う時なんだ」
「どんな武器ですか?」
「『吸魂鬼の接吻』と呼ばれている」ルーピンはちょっと皮肉な笑みを浮かべた。
「吸魂鬼は、徹底的に破滅させたい者に対して、これを実行する。多分あの下には、口の様なものがあるのだろう。奴らは獲物の口を、自分の上下の顎で挟み、そして――餌食の魂を、吸い取る」
ハリーが思わずバタービールを吐き出した。はすでにこの話を去年の冬、「守護霊の呪文」を習ったときに聞いていたので、表情を変えずにルーピンの話を聞いていた。
「えっ――殺す――?」
「いや、そうじゃない。もっと、酷い。魂が無くても生きられる。脳や心臓がまだ動いていればね。しかし、最早自分が誰なのか判らない。記憶も無い。全く・・・・・何にも無い。回復の見込みも無い。ただ――存在するだけだ。空っぽの抜け殻となって。魂は永遠に戻らず・・・・・失われる」
ルーピンはまた一口バタービールを飲み、先を続けた。
「シリウス・ブラックを待ち受ける運命がそれだ。今朝の『日刊予言者新聞』に載っていたよ。魔法省が吸魂鬼に対して、ブラックを見付けたらそれを執行する事を、許可したようだ」
「当然の報いだ」ハリーが出し抜けに言った。
「恩知らず」がすかさず言い返した。しかし、ハリーの目は見なかった。
「。やめるんだ」ルーピンがたしなめた。
「ハリー、そう思うかい?それを当然の報いと言える人間がほんとうにいると思うかい?」
「はい」ハリーは挑戦するように言った。「そんな・・・・・場合も、あります・・・・・」
としてはどんな手を使ってでもハリーに訂正させたかったが、ルーピンについ今しがた怒られたばかりだし、シリウスもそんなことをしても喜ばないとわかっていたので、必死に聞き流した。
「ハリー、、それじゃあもうそろそろ行った方がいい」二人がバタービールを飲み終わったのを見たルーピンが言った。
「はい。ありがとうございました」
二人ともルーピンにお礼を言うと、教室を出た。しばらく二人とも黙って歩いていた。はシリウスについて書かれている「日刊予言新聞」について考えこんでいた。何が書かれていたのか、は知りたかった。きっとルーピンに言えば読ませてもらえるだろう。しかし、今二人っきりになれば、自身が何を言うかわからない。結局、がルーピンに読ませてもらおうと決心したのは結構歩いてからだった。
「ハリー、私、ルーピンに今日の『日刊予言新聞』を読ませてもらってくる」
ハリーも別になんとも思わなかったようで、わかったと頷くとそのままスタスタとグリフィンドール塔に向かった。
「、気をつけてね」ハリーは別れ際、そんな言葉をくれた。
もクルリと方向を変え、薄暗い廊下を、さっき来た廊下を戻り始めた。一人だけだとなんだか心細いが、シリウスについての記事を読みたい一心ではルーピンの部屋に向かった。別れてから結構時間が経っているので、もう部屋に戻っているだろうと思ったのだ。
しばらく歩くと一つ先の角で何かが動く気配がした。
「誰?」
は杖を取り出した。
「エクスペリアームズ、武器よ去れ!」
はとっさのことで、何が起きたかわからなかった。いつの間にか誰かに吹っ飛ばされ、頭を嫌というほどぶつけた。
は起き上がり、誰の仕業か確かめたかったが、そうすることは許されなかった。再び吹っ飛ばされ、体が動かなくなった。足音が近づいてきて、の杖腕に鋭い痛みが走った。そして、腹部にも鈍い痛みを感じた。学生じゃない。はそう確信した。その誰かはどうやら自分に恨みを持っているんだな、とは薄れていく意識の中で思った。とにかく体中が痛い。は遠くの方で他の足音を聞いた――。
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