◆◆◆Stuffed vulture ハゲタカの剥製
昼食時、大広間に下りていくと、各寮のテーブルはまた壁に立てかけられ、広間の中央にテーブルが一つ、食器が十二人分用意されていた。ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィックの諸先生が並び、管理人のフィルチも、いつもの茶色の上着ではなく、古びたかび臭い燕尾服を着て座っている。生徒は他に二人だけ。緊張でガチガチのハッフルパフの一年生が一人に、ふてくされた顔のスリザリンの五年生が一人。
「メリー・クリスマス!」
ハリー、ロン、、ハーマイオニーがテーブルに近づくと、ダンブルドア先生が挨拶した。
「これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えたのでのう・・・・・さあ、お座り!お座り!」
ハリー、ロン、、ハーマイオニーはテーブルの隅に並んで座った。
「クラッカーを!」
ダンブルドアがはしゃいで、大きな銀色のクラッカーの紐の端の方をスネイプに差し出した。スネイプがしぶしぶ受け取って引っ張った。大砲のようなバーンという音がして、クラッカーは弾け、ハゲタカの剥製をてっぺんに載せた、大きな魔女の三角帽子が現れた。
は思わずまね妖怪のことを思い出し、口元がにやけたが、ハーマイオニーに小突かれ、慌ててわれに返った。スネイプは唇をギュッと結び、帽子をダンブルドアの方に押しやった。ダンブルドアはすぐに自分の三角帽子を脱ぎ、それをかぶった。
「ドンドン食べましょうぞ!」
はテーブルの上に置いてあるチキンに目が止まった。せっかくのクリスマスなのだし、やせ細っていくシリウスとジェームズに何か持っていこうと思った。そのとき、ちょうどいい具合に大広間の扉がまた開いた。は全員の目がそっちに釘付けになったのを見計らって、素早く自分のバッグにチキンを放り込んだ。これで、手見上げの準備は終わった。は今しがた入ってきた人物に視線を向けた。トレローニー先生がまるで車輪がついているかのようにスーッと近づいて来た。お祝いの席にふさわしく、スパンコール飾りの緑のドレスを着ている。
「シビル、これはお珍しい!」ダンブルドアが立ち上がった。
「校長先生、あたくし水晶玉を見ておりまして」
トレローニー先生がいつもの霧のかなたからのようなか細い声で答えた。
「あたくしも驚きましたわ。一人で朝食をとるという、いつものあたくしを棄て、みなさまとご一緒する姿が見えましたの。運命があたくしを促しているのを拒むことができまして?あたくし、取り急ぎ塔を離れましたのでございますが、遅れまして、ごめんあそばせ・・・・・」
「それは、それは」ダンブルドアは目をキラキラさせた。「椅子をご用意いたさねばのう――」
ダンブルドアは杖を振り、空中に椅子を描き出した。椅子は数秒間くるくると回転してから、スネイプ先生とマクゴナガル先生の間に、トンと落ちた。しかし、トレローニー先生は座ろうとしなかった。巨大な目玉でテーブルをズイーッと見渡したとたん、小さくあっと悲鳴のような声を漏らした。
「校長先生、あたくし、とても座れませんわ!あたくしがテーブルに着けば、十三人になってしまいます!こんな不吉な数はありませんわ!お忘れになってはいけません。十三人が食事をともにするとき、最初に席を立つものが最初に死ぬのですわ!」
「シビル、その危険を冒しましょう」マクゴナガル先生はイライラしていた。はマクゴナガル先生が占い学に関しては忍耐強くないということを宣言していたのを思い出した。
「構わずお座りなさい。七面鳥が冷え切ってしまいますよ」
トレローニー先生は迷った末、空いている席に腰掛けた。目を硬く閉じ、口をキッと結んで、まるでいまにもテーブルに雷が落ちるのを予想しているかのようだ。マクゴナガル先生は手近のスープ鍋にさじを突っ込んだ。
「シビル、臓物スープはいかが?」
トレローニー先生は返事をしなかった。目を開け、もう一度周りを見回して尋ねた。
「あら、ルーピン先生はどうなさいましたの?」
「気の毒に、先生はまたご病気での」ダンブルドアはみんなに食事をするよう促しながら言った。
「クリスマスにこんなことが起こるとは、まったく不幸なことじゃ」
「でも、シビル、あなたはとうにそれをご存知だったはずね?」
マクゴナガル先生は眉根をピクリと持ち上げて言った。
トレローニー先生は冷ややかにマクゴナガル先生を見た。
「もちろん、存じてましたわ。ミネルバ」トレローニー先生は落ち着いていた。
「でも、『すべてを悟れる者』であることを、ひけらかしたりはしないものですわ。あたくし、『内なる眼』を持っていないかのように振る舞うことがたびたびありますのよ。ほかの方たちを怖がらせてはなりませんもの」
「それですべてがよくわかりましたわ!」マクゴナガル先生はピリッと言った。
霧のかなたからだったトレローニー先生の声から、とたんに霧が薄れた。
「ミネルバ、どうしてもとおっしゃるなら、あたくしの見るところ、ルーピン先生はお気の毒に、もう長いことはありません。あの方自身も先が短いとお気づきのようです。あたくしが水晶玉で占って差し上げると申しましたら、まるで逃げるようになさいましたの――」
「そうでしょうとも」マクゴナガル先生はさりげなく辛辣だ。は思わずスプーンを落とした。トレローニー先生の言葉は信用ないが、マクゴナガル先生の言葉は信用できる。が顔色を変えたのを見て、ダンブルドアがに微笑んだ。
「大丈夫じゃよ、。ルーピン先生はそんな危険な状態ではあるまい。セブルス、ルーピン先生にまた薬を造ってさし上げたのじゃろう?」
「はい、校長」スネイプが答えた。しかし、は薬を造っているのがスネイプだという時点でルーピンの命の心配をしていた。安心もしなかったが、新たに心配することもなかった。
「結構。それなれば、ルーピン先生はすぐによくなって出ていらっしゃるじゃろう・・・・・。デレク、チポラータ・ソーセージを食べてみたかね?おいしいよ」
一年坊主が、ダンブルドア校長に直接声をかけられて見る見る真っ赤になり、震える手でソーセージの大皿を取った。
トレローニー先生は、二時間後にクリスマス・ディナーが終わるまで、ほとんど普通に振る舞った。ご馳走ではちきれそうになり、クラッカーから出てきた帽子をかぶったまま、ハリーとロンがまず最初に立ち上がった。トレローニー先生が大きな悲鳴をあげた。
「あなたたち!どちらが先に席を離れましたの?どちらが?」
「わかんない」ロンが困ったようにハリーを見た。
「どちらでも大して変わりはないでしょう」マクゴナガル先生が冷たく言った。
「扉の外に斧を持った極悪人が待ち構えていて、玄関ホールに最初に足を踏み入れた者を殺すとでもいうなら別ですが」
これにはロンでさえ笑った。トレローニー先生はいたく侮辱されたという顔をした。
「二人とも来る?」ハリーがとハーマイオニーに声をかけた。
「ううん」ハーマイオニーは呟くように言った。「私、マクゴナガル先生にちょっとお話があるの」
「は?」ハリーがを見た。
「もうちょっとしたら行くわ。先に行ってて」
がそう言うと、ハリーは軽く頷いてロンと二人で大広間から出て行った。は二人が扉を閉めると、ハーマイオニーを見た。
「ハリーの箒のこと、言うつもりね?」
ハーマイオニーはの目を明らかに避けていた。はこの後きっと一騒ぎ起きるな、と苦笑した。
「ハーマイオニー、私、先に行くよ」
はそう言って一人、席を立った。シリウスの信憑性がないからハーマイオニーが疑うのは当たり前だし、でもハリーとロンだって新しい箒を手放したくはないはず。はまた苦笑いした。早くクルックシャンクスを連れてシリウスとジェームズに会いに行こう。そしたらきっともう少し気持ちが晴れる。