ハグリッドの小屋に行っても、ちっとも楽しくなかったが、ロンとハーマイオニーが期待したような成果はあった。ハリーはシリウス・ブラックのことを忘れたわけではないが、それに関して何かを言うことはなくなったし、もシリウス・ブラックが無罪だとわざわざ自分から主張することもなくなった。二人は「危険生物処理委員会」でハグリッドが勝つ手助けをしたいと思っていたので、そうする時間がなかったのだ。
翌日、四人は一緒に図書館に向かった。がらんとした談話室にまた戻ってきたときには、バックビークの弁護に役立ちそうな本をどっさり抱えていた。威勢よく燃えさかる暖炉の前に四人で座り込み、動物による襲撃に関する有名な事件を書いた、埃っぽい書物のページを一枚一枚めくった。ときどき、何か関係のありそうなものが見つかると言葉を交わした。
そうこうする間に、城ではいつもの大掛かりなクリスマスの飾りつけが進んでいた。それを楽しむはずの生徒はほとんど学校に残っていなかったが。柊や宿り木を編みこんだ太いリボンが廊下にぐるりと張り巡らされ、鎧という鎧の中からは神秘的な灯りがきらめき、大広間には、金色輝く星を飾った十二本のクリスマス・ツリーが立ち並んだ。おいしそうな匂いが廊下中にたちこめ、クリスマス・イブにはそれが最高潮に達したので、あのスキャバーズでさえ、避難していたロンのポケットの中から鼻先を突き出して、ヒクヒクと期待を込めて匂いをかいだ。毎年家に帰っていたにとって、ホグワーツでのクリスマスは新鮮に感じられた。何より、ハリーやロン、ハーマイオニーと過ごせることが嬉しくて、しばらくの間はシリウスのことを忘れていた。
クリスマスの朝、が目覚めるとベッドの足元に小包が小さな山をつくっていた。隣を見ると、ハーマイオニーもついさっき起きたような様子で、「おはよう」と言った。
「まあ、。これ可愛いわ!ありがとう」
が着替え終わり最初のクリスマスプレゼントを開けようとしたら、ハーマイオニーがに抱きついて言った。ハーマイオニーの手にはティンセルのリボンが握られていた。
「クルックシャンクスにどうかな、って思って。あ、もちろんハーマイオニーが髪の毛を結ぶときに使っても可愛いと思ったのよ」は感激したようなハーマイオニーをクスクス笑いながら見上げた。
「ううん、クルックシャンクスにつけるわ。本当に嬉しい。ありがとう、」
ハーマイオニーはにこにこ顔でそう言うと、ハーマイオニーのベッドでまだ寝ているクルックシャンクスの首にリボンを巻きつけ、可愛く結んだ。どう考えても、がに股のクルックシャンクスには似合わないし、本人もリボンを結ばれてブスっとしていたが、それでもハーマイオニーは満足顔だった。
はハーマイオニーがプレゼントを開け始めたのを見て、自分もプレゼント開けに取り掛かった。今年もウィーズリーおばさんから胸のところにグリフィンドールのライオンを編みこんだ真紅のセーターと、お手製のミンスパイが一ダース届いていた。きっとハリーにも届いているだろう。そして、毎年のように届くドラコ・マルフォイからのプレゼントもあった。クリスマス・カードと共にキラキラと輝くイヤリングが添えられている。はハーマイオニーに気づかれないようにバッグの底にしまいこんだ。ハーマイオニーはが毎年マルフォイからプレゼントが届いていることを知ったら、ハリーやロンに言ってしまうだろう。またハリーやロンと一揉め起こすのはうんざりだった。
他には、ハリーやロン、ハーマイオニーやジニー、セドリックやフレッド、ジョージなど顔なじみのメンバーからのプレゼントが置いてあった。予想していたとはいえ、シリウスやジェームズ、、リリーからプレゼントはなく、ちょっと悲しくなった。しかし、その代わりなのか、ルーピンからプレゼントとしてチョコレートが置いてあった。カードも一緒で、もしにプレゼントをあげた事が他の人にバレてしまうと教師としての立場が悪くなるから、なるべくなら口外しないでほしい、とのことだった。もちろん、ルーピンが会ったときから大好きなにとって、ルーピンを苦しめるような行為は耐え難い。これまた、ハーマイオニーの目を盗んでバッグの底にしまいこんだ。
「!」
ハーマイオニーもプレゼントは開け終わったらしく、に声をかけた。
「ハリーとロンのところに行きましょ」
「ううん、ごめんなさい、ハーマイオニー。私――えーっと――図書館に行かなきゃ」がそういうと、ハーマイオニーは大して何も言わずにをほっといてくれた。はバッグに羊皮紙と羽ペンやら、入れると図書館に向かった。ルーピンにクリスマス・プレゼントのお礼を言いたかったのだ。しかし、ルーピンは旅行中。手紙を出すしかない。はがらんとした図書館の窓際に席を取ると羊皮紙を広げた。談話室で、ハリーやロン、ハーマイオニーが近くにいる場所でルーピンの手紙はかけなかった。
十分かそこらでルーピンへの手紙は書き終わった。は手紙を丸めて今度はふくろう小屋へ向かった。ハリーのふくろうを借りても良いのだが、何に使うのか、と聞かれたくなかったのだ。
「あなたにするわ」
ふくろう小屋のふくろうたちは相変わらず寝ているのもいれば、元気良く鳴いているのもいて、は微笑ましく思った。小屋に入ってすぐのところに元気良さそうな茶色いふくろうがいたので、はそのふくろうにルーピンへの手紙をくくりつけると、ふくろうはホーッと一鳴きして空に舞い上がった。すると、ふくろうは不思議なことに城の中に飛んでいった。
「どうして・・・・・」は眉をひそめた。ルーピンは確かに出かける、といってをホグワーツ内に残して行った。空を見上げると、有明月が浮かんでいる。
「みんな秘密を持ちたがるんだね」はため息をつくと自嘲的な笑みを浮かべ、談話室に戻っていった。
一方、談話室でも一騒ぎ起こっていた。ロンとハーマイオニーがまたペットのことでケンカしたらしい。そして、ハリーの手の中には見たことのない箒があった。
「ハーマイオニー、あれどうしたの?」
は談話室の隅で勉強道具を広げているハーマイオニーに話しかけた。
「ハリーに送られてきたのよ。多分シリウス・ブラックからだわ。カードもなにもついていないもの」ハーマイオニーが二人には聞こえないようにしているのが気にかかった。多分、あの二人には何を言っても無駄だろう、と自己完結しているに違いない。
「ハーマイオニー、パパは指名手配中よ――有罪かどうかは別にして。ダイアゴン横丁で箒なんか買えるはずないわ」も小声でそう言った。
「シリウス・ブラック本人が買ったとは言ってないわ」ハーマイオニーはツンツンしていて、もどう手をつけていいか、わからない。仕方ないのでしばらく一人にしておくことにした。それより、シリウスが買ったかどうかただの憶測だけでなく、きちんと確かめられる方法をどうやって実行するか計画しなければいけない。――直接、シリウスに確かめに行くのだ。
ちょっと忙しげなクリスマスの朝。