十一月の終わりに、レイブンクローがハッフルパフを負かしたことや、ルーピンが吸魂鬼防衛術を教えてくれる約束をしたこともあり、ハリーは着実に明るくなってきた。
学期が終わる二週間前、急に空が明るくなり、眩しい乳白色になったかと思うと、ある朝、泥んこの校庭がキラキラと光る霜柱に覆われていた。城の中はクリスマス・ムードで満ち溢れていた。
そんなある日、はルーピンに呼び出された。クリスマス休暇の話だろうと見当をつけていると、案の定その通りだった。
「、本当にすまないんだが、今年のクリスマス休暇はホグワーツに残ってもらうことになる」ルーピンはあくまで丁寧だった。
「そんな気がしてた」がにっこりと言った。「リーマスと一緒に過ごせる?」
すると、途端にルーピンの顔が曇った。
「すまない、。私は少し出かけなければいけなくてね――君を連れていけないんだ」が一緒に行く、と言い出しそうになるのをさえぎって、ルーピンはそう言った。
「君を外に出すわけにはいかない。ブラックがどこで君を狙っているか、わからないから」
はシリウスが自分を狙っていないことくらい、よくわかっていた。しかし、ルーピンの話をさえぎったりはしなかった。
「学校に残れば他の先生たちが目を光らせている。だから――」
「大丈夫、リーマス、わかったわ」は心配性のルーピンをさえぎった。「学校で大人しくしてる」
しかし、の頭の中では、すでにクリスマス休暇中にシリウスたちに会いに行く計画が練られていた。
一方、ハリーもダーズリーのところには戻りたくないようで、学校に残ることを早くから決めていた。ロンも「二週間もパーシーと一緒に過ごすんじゃかなわないからさ」と言ったし、ハーマイオニーはどうしても図書館を使う必要があるのだと言い張った。なにはともあれ、休暇中も四人でいられることがとっても嬉しかった。
学期の最後の週末にホグズミード行きが許され、ハリー以外のみんなは大喜びした。
「クリスマス・ショッピングが全部あそこですませられるわ!」ハーマイオニーが言った。
「パパもママも、ハニーデュークス店の『歯みがき糸楊枝型ミント菓子』がきっと気に入ると思うわ!」
今度ばかりはもホグズミードに行くことにした。ハリーはすでにみんながいない間にすることをみつけていたからだ。
ホグズミード行きの土曜の朝、マントやスカーフにすっぽりくるまり、玄関ホールでフィルチのチェックを通り抜けた。そのあと、はみんなと一緒に吸魂鬼のそばを通り過ぎ、ホグズミードに入った。吸魂鬼のそばを通るとき、寒気がしたが、どうにか歩き続けることが出来た。
「わあ!」
が感嘆した。茅葺屋根の小さな家や店がキラキラ光る雪にすっぽりと覆われ、戸口という戸口には柊のリースが飾られ、木々には魔法でキャンドルがくるくると巻き付けられていた。
「素敵ね」はうっとりと辺りを見渡した。
「雪が酷くならなきゃいいけど・・・・・」
ハーマイオニーは朝より確実に激しくなっている雪を心配した。
「さあ、行こうぜ。ハリーにお土産買って行かなきゃ」ロンが言った。
三人はハニーデュークス店へ向かった。ここならハリーが喜びそうなお菓子がたくさん売っている。店内に入ると、人でごったがいしていて、ゆっくりと見ることは出来なかった。三人は店の一番奥まったコーナーが空いていそうだったので、ハリーへのお土産をそこで撰ぶことにした。
「異常な味」と看板には書いてあった。確かに置いてあるのは変なものばかりだ。
「ウー、ダメ。ハリーはこんなものほしがらないわ。これって吸血鬼用だと思う」ハーマイオニーが血の味がするペロペロ・キャンディが入ったお盆を品定めしながら言った。
「じゃ、これは?」ロンが「ゴキブリ・ゴソゴソ豆板」の瓶をに手渡した。
「やだぁ。ほしがらないと思うわよ」
「うん、絶対イヤだ」
の声に重ねるようにして、確かにハリーの声が聞こえた。振り向くと、「ハリー」がいる。
「ハリー!」ハーマイオニーは、金切り声を上げた。
「どうしたの、こんなところで?ど――どうやってここに――?」
「ウワー!君、『姿現し術』が出来るようになったんだ!」ロンは感心した。
「まさか、違うよ」ハリーは声を落とした。
「フレッドとジョージが僕に『忍びの地図』をくれたんだ。『忍びの地図』っていうのは一見古ぼけたボロボロの羊皮紙に見えるけど、本当はホグワーツ城と学校の敷地全体の詳しい地図なんだ。おまけに、地図上には動く小さな点があって、誰がどこにいるかわかる。そして地図には抜け道が記されていて、僕はその中の一つを通って来たんだ」
ハリーはご機嫌な様子だったが、ロンは憤慨した。
「フレッドもジョージも何てこれまで僕にくれなかったんだ!弟じゃないか!」
「でも、ハリーはこのまま地図を持ってたりしないわ!」ハーマイオニーはそんなバカげたことはないと言わんばかりだ。
「マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」
「僕、渡さない!」ハリーが言った。
「気は確かか?こんないいものが渡せるか?」ロンが目をむいてハーマイオニーを見た。「こんないいものが渡せるか?」
「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わないといけない!フレッドとジョージがちょろまかしたってことがフィルチに知れてしまうじゃないか!」ハリーが反論した。もその意見には賛成だった。
「ハリーの言う通りよ。フレッドとジョージに迷惑がかかるわ」
「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?」ハーマイオニーが口を尖らせた。はまたシリウスの話か、とうんざりした。
「この地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ!先生方はそのことを知らないといけないわ!」
「ブラックが抜け道から入り込むはずがない」ハリーがすぐに言い返した。
「この地図には七つのトンネルが書いてある。いいかい?フレッドとジョージの考えでは、そのうち四つはフィルチがもう知っている。残りは三本だ――一つは崩れているから誰も通り抜けられない。もう一本は出入口の真上に『暴れ柳』が植わってるから、出られやしない。三本目は僕がいま通ってきた道――ウン――出入口はここの地下室にあって、なかなか見つかりゃしない――出入口がそこにあるって知ってれば別だけど――」
ハリーはちょっと口ごもった。ロンが意味ありげに咳払いして、店の出入り口のドアに貼り付けてある掲示を指差した。
魔法省よりのお達し
お客様へ
先般お知らせいたしましたように、日没後、ホグズミードの街路には毎晩ディメンターのパトロールが入ります。この措置はホグズミード住人の安全のためにとられたものであり、シリウス・ブラックが逮捕されるまで続きます。お客様におかれましては、買い物を暗くならないうちにお済ませくださいますようお勧めいたします。
メリー・クリスマス!
「ね?」ロンがそっと言った。「吸魂鬼がこの村にわんさか集まるんだぜ。ブラックがハニーデュークス店に押し入ったりするのを拝見したいもんだ。それに、ハーマイオニー、ハニデュークスのオーナーが物音に気づくだろう?だってみんな店の上に住んでるんだ!」
「そりゃそうだけど――でも――」ハーマイオニーはなんとかほかの理由を考えているようだった。
「ねぇ、ハリーはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらってないんだから!誰かにみつかったら、それこそ大変よ!それに、まだ暗くなってないし――今日シリウス・ブラックが現れたらどうするの?たったいま?」
「こんなときにハリーを見つけるのは大仕事だろうさ」
格子窓の向こうで吹き荒れる大雪を顎でしゃくりながら、ロンが言った。結局、はシリウスの話に一言も加わらないまま話は流れた。
「いいじゃないか、ハーマイオニー、クリスマスだぜ。ハリーだって楽しまなきゃ」
ハーマイオニーは、心配でたまらないという顔で、唇を噛んだ。
「僕のこと、言い付ける?」ハリーがニヤッと笑ってハーマイオニーを見た。
「まあ――そんなことしないわよ――でも、ねえ、ハリー――」
「ハリー、フィフィ・フィズビーを見たかい?」
ロンはハリーの腕をつかんで樽の方に引っ張っていった。
ロンととハーマイオニーはお菓子の代金を払い、四人はハニーデュークス店をあとにし、吹雪の中を歩き出した。
初めてのホグズミード行きです^^