Hinkypunk ヒンキーパンク
ハリーはマダム・ポンフリーの言い付けで、週末いっぱい病棟で安静になることとなった。日曜日、はロンとハーマイオニーと一緒に夜までずっとハリーに付き添っていた。しかし、それでもハリーはふさぎ込んだままで、どうすることも出来なかった。
月曜日になり、ハリーが戻ってきた。少し元気がなかったがほとんど元のハリーに戻っていた。
マルフォイはグリフィンドールが負けたことで、有頂天だった。ついに包帯も取り去り、両手が完全に使えるようになったことを祝って、ハリーが箒から落ちる様子を嬉々としてまねした。次の魔法薬の授業中はほとんどずっと、マルフォイは地下牢教室のむこうで吸魂鬼のまねをしていた。ロンはついにキレて、ヌメヌメした大きなワニの心臓をマルフォイめがけて投げ付け、それがマルフォイの顔を直撃し、スネイプはグリフィンドールから五十点減点した。
「『闇の魔術に対する防衛術』を教えているのがスネイプなら、僕、病欠するからね」
昼食後にルーピンのクラスに向かいながら、ロンが言った。
「ハーマイオニー、後ろに誰がいるのか、チェックしてくれないか」
ハーマイオニーは教室のドアから覗き込んだ。
「大丈夫よ」
ルーピン先生が復帰していた。本当に病気だったように見えた。くたびれたローブが前よりもダラリと垂れ下がり、目の下にクマができていた。は夏休みからルーピンが病気なのを知っているが、ここまで深刻だとは思っていなかった。今まで見た中で一番酷い。は心配そうにルーピンを見たが、ルーピンは大丈夫という表情でニコリと微笑んだだけだった。生徒が席につくと、先生はみんなに微笑みかけた。するとみんないっせいに、ルーピンが病気の間スネイプがどんな態度を取ったか、不平不満をぶちまけた。
「フェアじゃないよ。代理だったのに、どうして宿題を出すんですか?」
「僕たち、狼人間についてなんにも知らないのに――」
「――羊皮紙二巻だなんて!」
「君たち、スネイプ先生に、まだそこは習っていないって、そう言わなかったのかい?」
ルーピンは少し顔をしかめてみんなに聞いた。
クラス中がまたいっせいにしゃべった。
「言いました。でもスネイプ先生は、僕たちがとっても遅れてるっておっしゃって――」
「――耳をかさないんです」
「――羊皮紙二巻なんです!」
全員がプリプリ怒っているのを見ながら、リーマスはニッコリした。
「よろしい。私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」
「そんなぁ」ハーマイオニーはがっかりした顔をした。「私もう書いちゃったのに!」
授業は楽しかった。ルーピン先生はガラス箱に入った「おいでおいで妖精」を持ってきていた。一本足で、鬼火のように幽かで、はかなげで、害のない生き物に見えた。
「これは旅人を迷わせて沼地に誘う」
ルーピン先生の説明を、みんなノートに書き取った。
「手にカンテラをぶら下げているのがわかるかね?目の前をピョンピョン跳ぶ――人がそれについていく――すると――」
「おいでおいで妖精」はガラスにぶつかってガボガボと音をたてた。
終業のベルが鳴り、みんな荷物をまとめて出口に向かった。ハリーもはみんなと一緒だったが、
「ハリー、ちょっと残ってくれないか」ルーピンが声をかけた。「話があるんだ」
たちは教室に戻るハリーを見送ると、談話室に向かった。後からハリーは追い付くだろう。案の定、ハリーは二十分後くらいに現れた。なんだか嬉しそうな顔をしている。久しぶりに見る笑顔だった。ハリーは宿題をしているハーマイオニーとロンから少し離れたところにいるに近づいてきた。
「ルーピン先生が吸魂鬼防衛術を教えてくれる約束をしてくれた」ハリーは本当に嬉しそうだ。も思わず微笑んだ。
「それで、出来たらにも付き合ってほしいっていう伝言を貰ったんだ」
「私にも?別にいいけど・・・・・なんでかしらね?」が首をかしげると、ハリーも理由を知らないのか、同じく首をかしげた。
「でも、よかった。ハリーが元気になれそうで」
がにこにこと言うと、ハリーは「気付いてたんだ」と呟いた。
「もちろん。何年一緒にいると思ってる?試合に負けたのより、吸魂鬼のことで何か悩んでるのはわかってた。でも、ハリーが話したくないんだったらいいかな、ってほっといたの」が悪気のない、可愛らしい笑顔でクスクス笑った。「話してくれるなら何だって聞くよ」
ハリーは自分が話したいのか、話したくないのか、わからなかったが何故か気付いたときはに話していた。
「吸魂鬼に会って気絶するのは僕だけだ。それに、両親の死ぬ間際の声が頭の中で鳴り響くんだ――」
「ジェームズもリリーも死んでないわ」が眉をひそめた。
「それは君が助けたからだ。君がいなかったら二人は死んでた」は黙ってしまった。確かにその通りだった。幼すぎてあの時、何が起こったのか全く覚えていないが、ハリーの言った通りの証言をジェームズもリリーもしていた。
「それに、理由はまだあるんだ。僕がダーズリーのところから逃げたあの日、黒い犬を見たって話したよね?本当はあのあと、『夜の騎士バス』にひかれそうになったんだ」
「なんですって?」が素っ頓狂な声を上げた。
「それに、この間の試合中、巨大な毛むくじゃらの黒い犬が一番上の誰もいない席にじっとしているのを見たんだ。でも、もう一度スタンドを見たらいなくなってたけど・・・・・」
は、シリウスが黒い犬に変身できることを思い出していた。二度目はシリウスだった可能性が高いが、一度目はどうだろうか。
?」
難しい顔をして黙ったをハリーは覗き込んだ。はっとしてハリーを見ると、ハリーは微笑んでいた。
「君が悩むことじゃないよ。僕自身の問題なんだ」
「でも――」は何か言おうと口を開いたが、何も出て来なかった。
「聞いてくれただけで嬉しいからいいよ。もう元気だから」
にそう言うと、ハリーもロンやハーマイオニーに混じって宿題を始めた。は宿題が終わっている。もう少し、この件について考える時間はあった。
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黒い犬の謎はまだ解けません。