次の日、はロンとハーマイオニーと一緒に朝ごはんを食べに行った。すでにハリーは大広間に向かったらしく、いなかった。三人はオートミールをたっぷりと食べ、競技場に向かった。
「こんな天気でも試合は、やるのね」
が窓の外を憂鬱そうに見た。
「嵐だろうが、雷だろうが、そんな些細なことでクィディッチは中止されないよ」ロンが言った。
荒れ狂う風に向かって頭を低く下げ、競技場までの芝生を駆け抜けたが、傘は途中でもぎ取られるように吹き飛ばされた。三人は観客席に座り、試合の開始を待った。は不本意ながら、一分一秒でも早く試合が始まってほしいと思ったし、一分一秒でも早く試合が終わってほしいと思った。
フーチ先生のホイッスルが競技場に鳴り響くと、選手達が一斉に宙へ浮き、ポジションについた。選手達が箒で飛んでいても悪天候の所為で何も見えなかった。解説者の声も明確には聞き取れない。はハリーが早くスニッチを取るように祈った。もう、試合経過は気にしてなかった。
しばらくして、フーチ先生の笛が鳴り響いた。選手達がグラウンドにおりてくる。
「ハリー、早くスニッチ取ってよ」が呟いた。
「きっと、眼鏡が邪魔なんだわ!」
ハーマイオニーはハッとしたようにそう言って、グラウンドに向かった。
「何するつもりだ?」
「さあ?」
ロンとは顔を見合わせた。
しばらくすると、ハーマイオニーが帰ってきた。ロンが聞いた。
「何してきたんだ?」
「眼鏡に防水魔法をかけてきたの。これでスニッチは見えるはずよ」
ハーマイオニーはニコニコとご機嫌だった。
試合は、終わらないかと思われたが、そのとき、セドリックが何かにめがて猛スピードで飛んでいる。
「スニッチを見つけたんだわ!」が叫んだ。それと同時には寒気立った。すぐにその理由はわかった。
「あれ!吸魂鬼だわ!」
誰かが叫んだ。灰色の中にぼんやりと浮かぶ黒い物体。
「ハリー!」
は声の限りに叫んだ。そしてハリーは真っ逆さまに落ちていった。
ハリーはそのまま医務室に運ばれた。もハーマイオニーもロンも真っ青だったが、取り乱すことなく医務室に向かった。医務室では選手と、ロン、ハーマイオニーと一緒にハリーのベッドの脇に立っていた。
ハリーは、しばらくして目を覚ました。緊張した空気が少しほどける
「ハリー!」泥まみれの真っ青な顔でフレッドが声をかけた。「気分はどうだ?」
ハリーは、何が起こったのか自分の中で整理しているようだったが、いきなり、ガバっと勢いよく起き上がった。
「どうなったの?」ハリーが聞いた。
「君、落ちたんだよ」フレッドが答えた。「ざっと・・・・・そう・・・・・二十メートルかな?」
「みんな、あなたが死んだと思ったわ。」アリシアは震えていた。
ハーマイオニーはヒクッと声をあげた。目は真っ赤に充血していた。
「でも、試合は・・・・・試合はどうなったの?やり直しなの?」ハリーが聞いた。
誰もなんにも言わない。あんな怖い体験をした上に、更に残酷な事実を突き付けることなど出来なかった。
「僕たち、まさか・・・・・負けた?」
「ディゴリーがスニッチを取った」ジョージが言った。「君が落ちた直後にね。何が起こったのか、あいつは気がつかなかったんだ。振り返って君が地面に落ちているのを見て、ディゴリーは試合中止にしようとした。やり直しを望んだんだ。でも、むこうが勝ったんだ。フェアにクリーンに・・・・・ウッドでさえ認めたよ」
「ウッドはどこ?」ハリーが沈んだように言った。
「まだシャワー室の中さ」フレッドが答えた。「きっと溺死するつもりだぜ」
ハリーは顔を膝に埋め、髪をギュッと握った。フレッドはハリーの肩をつかんで乱暴に揺すった。
「落ち込むなよ、ハリー。これまで一度だってスニッチを逃したことはないんだ」
「一度ぐらい取れないことがあって当然さ」ジョージが続けた。
「これでおしまいってわけじゃない」フレッドが言った。
「僕たちは一00点差で負けた。いいか?だから、ハッフルパフがレイブンクローに負けて、僕たちがレイブンクローとスリザリンを破れば・・・・・」
「ハッフルパフは少なくとも二00点差で負けないといけない」ジョージだ。
「もし、ハッフルパフがレイブンクローを破ったら・・・・・」
「ありえない。レイブンクローが強すぎる。しかし、スリザリンがハッフルパフに負けたら・・・・・」
「どっちにしても点差の問題だな・・・・・一00点差が決め手になる」
ハリーは横になったまま黙りこくっていた。は声をかけることが出来ない。これほどハリーが沈んだ姿は見たことがなかった。
十分ほどたったころ、校医のマダム・ポンフリーがやってきて、ハリーの安静のため、チーム全員に出ていけと命じた。
「また見舞いにくるからな」フレッドが言った。「ハリー、自分を責めるなよ。君はいまでもチーム始まって以来の最高のシーカーさ」
選手たちは泥の筋を残しながら、ぞろぞろと部屋を出ていった。マダム・ポンフリーはまったくしょうがないという顔つきでドアを閉めた。
とロンとハーマイオニーはベッドに近づいた。
「ダンブルドアは本気で怒ってたわ」ハーマイオニーが震え声で言った。「あんなに怒っていらっしゃるのを見たことがない。あなたが、落ちたとき、競技場に駆け込んで、杖を振って、そしたら、あなたが地面にぶつかる前に、少しスピードが遅くなったのよ。それからダンブルドアは吸魂鬼に向けて回したの。あいつらに向って何か銀色のものが飛び出したのわ。あいつら、すぐに競技場を出ていった・・・・・ダンブルドアはあいつらが学校の敷地内に入ってきたことでカンカンだったわ。そういってるのが聞こえた――」
「それからダンブルドアは魔法で担架を出して君を乗せた」ロンが言った。
「浮かぶ担架に付き添って、ダンブルドアが学校まで君を運んだんだ。みんな君が・・・・・」
ロンの声が弱々しく途中できえた。しかし、ハリーはいつの間にか何かを考え込んでいるようで、険しい顔をしていた。はハリーを心配そうに覗き込んだ。すると、ハリーはようやっと気付いたのか三人に向かって口を開いた。
「誰か僕のニンバス捕まえてくれた?」
これまた残酷な事実をハリーに伝えなくてはいけない。三人はチラッと顔を見合わせた。
「あの――」
「どうしたの?」ハリーは三人の顔を交互に見た。
「あの・・・・・あなたが落ちたとき、ニンバスは吹き飛んだの」が言いにくそうに言った。
「それで?」
「それで、ぶつかったの――ぶつかったのよ――ああ、ハリー――あの暴れ柳にぶつかったの」は泣きそうになった。何故、彼だけがこんなに辛いことを体験しなくてはならないのか。
「――それで?」ハリーの声が震えた。
「ほら、やっぱり暴れ柳のことだから」ロンが言った。「あれって、ぶつかられるのが嫌いだろ」
「フリットウィック先生が、あなたが気がつくちょっと前に持ってきてくださったわ」
ハーマイオニーが消え入るような声でそう言いった。
は足元にあったバッグを取り上げ、逆さまにして、中身をベッドの上に空けた。粉々になった木の切れ端が、小枝が、散らばり出た。ハリーのあの忠実な、そしてついに敗北して散った、ニンバスの亡きがらだった。
初めての敗北・・・