Words of abuse 悪口
それから数日間というもの、校内はシリウス・ブラックの話題でもちきりだった。どうやって城に入り込んだのか、話に尾ひれがついてどんどん大きくなった。
ハッフルパフのハンナ・アボットときたら、薬草学の時間中ずっと、話を聞いてくれる人を捕まえては、ブラックは花の咲く灌木に変身できるのだとしゃべりまくった。
切り刻まれた「太った婦人」の肖像画の代わりに「カドガン郷」の肖像画がかけられていた。これにはみんな大弱りだった。カドガン郷は誰かれかまわずに決闘を挑んでくるし、複雑な合言葉を一日二回は変えた。
「あの人、チョー狂ってるよ」シェーマスが頭にきてパーシーに訴えた。
「他に人はいないの?」
「どの絵もこの仕事を嫌ったんでね」パーシーが言った。「『太った婦人』にあんなことがあったから、みんな怖がって、名乗り出る勇気があったのはカドガン郷だけだったんだ。」
しかし、はカドガン卿を気にするどころではなかった。シリウスがホグワーツに乗り込んだことで、は何かしら理由をつけられて一人になることを許されなかった。ハリーも同じ状態だった。は父親たちの元へ行こうとしても、クルックシャンクスを連れて一人で「暴れ柳」に行けなかった。
ある日、ハリーがマクゴナガル先生に呼び出され、クィディッチ練習の時でさえも誰か一人、先生が――フーチ先生が監督をすることに約束させられた。
第一回のクィディッチ試合が近づくにつれて、天候はどんどん悪くなっていった。それでも、グリフィンドール・チームは以前よりも激しくなっている練習を続けた。そして、試合前、最後の練習が終わった後、はハリーから驚くような情報をもらった。
「次の試合相手はスリザリンじゃないって」
ハリーは練習で疲れたようで、ドサッとソファーに座り込んだ。
「ハッフルパフだって。マルフォイの腕がまだ治っていないことを理由に、試合を延期したんだ」
「マルフォイは悪いフリをしているだけじゃない!」が怒った。
「証明できないってウッドが言ってた。おまけに、ハッフルパフのキャプテンは新しくなったみたいで、セドリック・ディゴリーっていうんだ。ポジションはシーカーだって。僕と同じ――」
の顔がちょっとだけニヤけた。ハリーが眉をひそめる。
「知ってるの?」
「知ってるわ」
はサラリと言った。とたんにハリーの顔が険しくなった。
「でも、セドリックは応援しない。ハリーを応援するから大丈夫よ」ハリーの表情を見て、が慌てて言った。しかし、それでもハリーの表情は厳しかった。
「いつ知り合ったの?」
「――内緒!」
はそう言って、逃げるが勝ちとばかりに寝室に駆け上がっていった。

試合前日、やはり天候は最悪で、風は唸りを上げ、雨も一層激しく降り続った。廊下も教室も真っ暗で、たいまつや蝋燭の数を増やしたほどだった。
ウッドはよっぽど明日の試合が心配なようで、授業の合間にやってきては、ハリーに指示を与えた。「闇の魔術に対する防衛術」のクラスの前、たちは諦めてハリーをウッドに預けていくことにした。
たちがクラスに着くと、そこにいたのはルーピンではなく、スネイプだった。生徒たちは何かの間違いではないかと、疑っていたが、誰もスネイプに聞けなかった。仕方なく、は教壇に近づき、スネイプの名前を呼んだ。
「スネイプ先生、ルーピン先生はどうされたのですか?」スネイプはジロリとを見た。
「今日は具合が悪く、教えられないとのことだ。命に別状はない」
そのとき、始まりのベルが鳴った。は有無を言わせぬスネイプの答えに、返す言葉が見当たらなかった。大人しくハーマイオニーの隣に座ると、スネイプがクラスを見渡して言った。
「これまでにルーピン先生が諸君に教えていた内容を記録していないからして、こういう場合に他の教員が困ることになる。彼の頭に記録されていても、我輩にはまったくわからん。であるからして――」
「遅れてすみません。ルーピン先生、僕――」
ハリーは授業が始まってから、十分ほど経って現れた。
「授業は十分前に始まったぞ、ポッター。であるからグリフィンドールは十点減点する。座れ」
しかし、ハリーは動かなかった。
「ルーピン先生は?」
「今日は気分が悪く、教えられないとのことだ」スネイプの口元に歪んだ笑いが浮かんだ。
「座れてと言ったはずだが?」
「どうなさったのですか?」
スネイプはギラリと暗い目を光らせた。
「命に別状はない。グリフィンドール、さらに五点減点。もう一度我輩に『座れ』と言わせたら、五十点減点する。」
ハリーはのろのろとの隣に腰掛けた。スネイプはクラス全員をズイと見回した。
「ポッターが邪魔をする前に話していたことであるが、ルーピン先生はこれまでどのような内容を教えたのか、まったく記録に残していないからして――」
「先生、これまでやったのは、まね妖怪、赤帽鬼、河童、水魔です」ハーマイオニーが一気に答えた。
「これからやる予定だったのは――」
「黙れ」スネイプが冷たく言った。「教えてくれと言ったわけではない。我輩はただ、ルーピン先生のだらしなさを指摘しただけである」
「ルーピン先生はこれまでの『闇の魔術に対する防衛術』の先生の中で一番よい先生です。」
ディーンの勇敢な発言を、クラス中がガヤガヤと支持した。スネイプの顔が一層威嚇的になった。
「点の甘いことよ。ルーピンは諸君に対して著しく厳しさに欠ける――赤帽鬼や水魔など、一年坊主でもできることだろう。我々が今日学ぶのは――」
が教科書をめくるスネイプを見ていると、なにやら意図があっての行為のように見えた。意地悪い表情をしている。
「――人狼である」スネイプが言った。
「でも、先生」ハーマイオニーは我慢できずに発言した。
「まだ狼人間までやる予定はありません。これからやる予定なのは、ヒンキーパンクで――」
「ミス・グレンジャー」スネイプの声は恐ろしく静かだった。
「この授業は我輩が教えているのであり、君ではないはずだが。その我輩が、諸君に三九四ページをめくるようにと言っているのだ」
スネイプはもう一度ズイとクラスを見回した。
全員!いますぐだ!
あちこちで苦々しげに目配せが交わされ、ブツブツ文句を言う生徒もいたが、全員が教科書を開いた。
「人狼と真の狼とをどうやって見分けるか、分かるものはいるか?」スネイプが聞いた。
みんなシーンと身動きもせず座り込んだままだった。ハーマイオニーだけが、いつものように勢い良く手をあげた。
「誰かいるか?」スネイプはハーマイオニーを無視した。口元にはいつもの薄ら笑いが戻っている。
「すると、何かね。ルーピン先生は諸君に、基本的な両者の区別さえまだ教えていないと――」
「お話したはずです」パーバティが突然口をきいた。
「わたしたち、まだ狼人間までいってません。いまはまだ――」
「黙れ!」スネイプの唇がめくり上がった。
「さて、さて、さて、三年生にもなって、人狼に出会っても見分けもつかない生徒にお目にかかろうとは、我輩は考えてもみなかった。諸君の学習がどんなに遅れているか、ダンブルドア校長にしっかりお伝えしておこう」
「先生」ハーマイオニーはまだしっかり手を上げていた。
「狼人間はいくつか細かいところで本当の狼と違っています。狼人間の鼻面は――」
「勝手にしゃしゃり出てきたのはこれで二度目だ。ミス・グレンジャー。鼻持ちならない知ったかぶりで、グリフィンドールからさらに五点減点する」
ハーマイオニーは真っ赤になって手を下ろし、目に涙をいっぱい浮かべてじっとうつむいた。クラスの誰もが、少なくとも一度はハーマイオニーを「知ったぶり」と呼んでいる。それなのに、みんながスネイプを睨みつけた。クラス中の生徒がスネイプに対する嫌悪感を募らせたのだ。ロンは少なくとも週に二回はハーマイオニーに面と向かって「知ったかぶり」と言うくせに、大声でこう言った。
「先生はクラスに質問を出したじゃないですか。ハーマイオニーが答えを知ってたんだ!答えてほしくないんなら、なんで質問したんですか?」
言いすぎた、とみんながとっさにそう思った。クラス中が息をひそめる中、スネイプはじりじりとロンに近づいた。
「処罰だ。ウィーズリー」スネイプは顔をロンにくっつけるようにして、スルリと言い放った。
「さらに、我輩の教え方を君が批判するのが、再び我輩の耳に入った暁には、君は非常に後悔することになるだろう」
それからあとは、物音をたてる者もいなかった。机に座って教科書から狼人間に関して写し書きをした。スネイプは机の間を往ったり来たりして、ルーピン先生が何を教えていたかを調べて回った。
「実に下手な説明だ・・・・・これはまちがいだ。河童はむしろ蒙古によく見られる・・・・・ルーピン先生はこれで十点満点中八点も?我輩なら三点もやれん・・・・・」
やっとベルが鳴ったとき、スネイプはみんなを引き止めた。
「各自レポートを書き、我輩に提出するよう。人狼の見分け方と殺し方についてだ。羊皮紙二巻き、月曜の朝までに提出したまえ。このクラスは、そろそろ誰かが締めてかからねばならん。ウィーズリーは残りたまえ。処罰の仕方を決めねばならん」
ハリーととハーマイオニーは、クラスのみんなと外に出た。教室まで声が届かないところまでくると、みんな堰を切ったように、スネイプ攻撃をぶちまけた。
「いくらあの授業の先生になりたいからといって、スネイプはほかの『闇の魔術に対する防衛術』の先生にあんなふうだったことはないよ。いったいルーピンになんの恨みがあるんだろう?例の『まね妖怪』のせいだと思うかい?」ハリーが言った。
「まね妖怪のせいなら、スネイプは本当に短気よ。それだけの理由であんなふうにするなんて。他の理由があるんだと思うけど」がハリーに言った。今度、シリウスたちに会いに行ったとき、スネイプとルーピンの間になにがあったのか聞こうと思った。シリウスたちはスネイプを知っているし、ルーピンはシリウスを知っていた。
「でも、ほんとに、早くルーピン先生がお元気になってほしい・・・・・」ハーマイオニーが沈んだ口調で言った。
五分後にロンが追いついてきた。
「聞いてくれよ。あのスネイプが僕に何をさせると思う?医務室のおまるを磨かせられるんだ。魔法なしだぜ!」ロンはこぶしを握り締め、息を深く吸い込んだ。
「ブラックがスネイプの研究室に隠れてたらなぁ。な?そしたらスネイプを始末してくれてたかもしれないよ!」
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恐ろしや、セブルス・スネイプ教授。