Confidential talk 内緒話
、君はシリウスに会っても逃げないんだね」彼は殺人犯だよ、ジェームズが静かに言った。
「パパはママを怪我させたりしないわ」
もう声は震えていなかった。自分でも単純にシリウスを信用するのはどうかと思ったが、殺されたと噂されるジェームズが生きているのだ、何か理由があるのだろう。
「お前は、私が殺人犯でないと信じているのか?」シリウスは信じられない、と呟いた。
「もちろんよ」は微笑んだ。そして立とうとすると、足に擦り傷があるのに気がついた。
「大丈夫かい?
ジェームズが手を差し延べた。
「さっきの黒い犬、どこに行ったの?こっちに来たはずじゃない?」はジェームズの手を掴んで立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回した。
「あぁ、それは――」
ポンッと音がして、シリウスがいたところにあの黒い犬がいた。
「――シリウスさ」ジェームズは犬の頭を撫でた。「動物もどきなんだ」
はキョトンとしてジェームズを見た。
「『動物もどき』って?」
「そのうち変身術で習うさ」シリウスがいつの間にか人間の姿に戻って言った。
「それより、お前に聞きたいことがある」
シリウスは真剣な顔をしていた。彼の表情から、今回の出来事についてなのだろうと見当がついた。
「その前に奥に行こう。、僕たちを信用してくれるなら、杖を貸してくれないかな」
は一瞬、躊躇したが、ジェームズの真っすぐな眼差しに曇りはなく、は自分の杖をジェームズに渡した。
彼は杖を受け取ると、まずに杖を向けた。は一瞬、彼に騙されたかと思ったが、傷口を手当てしてくれただけだった。
「怪我させて、悪かった」シリウスが謝った。
「ううん・・・・・」
ただ頭を下げるシリウスに、は何も出来なかった。どんな理由にしろ、彼の肩には重大な責任がのしかかっていた。
「さあ、シリウス、行こう。ここではゆっくり話が出来ない」
ジェームズが気を取り直すように言って、三人は歩き出した。いつの間にかの杖先は明るくなっていた。クルックシャンクスが三人の後ろをゆっくりとついてきた。
トンネルらしき道をどんどん進み、途中で上り坂になった。やがて道がねじまがり、小さな穴が見えた。明かりがもれている。部屋があった。雑然とした埃っぽい部屋だ。壁紙ははがれ、床は染みだらけで、家具という家具は破損していた。窓には全部板が打ち付けてある。
、そこに座っていいよ」
ジェームズはの杖で部屋の真ん中に椅子を三つ出して、向かい合って並べた。シリウスもジェームズもそれぞれ椅子に座るとしばらく沈黙があった。シリウスの膝元にクルックシャンクスが飛び乗った。
「元気だったか?」シリウスがなんだか緊張した面持ちで聞いた。思わずもジェームズも吹き出した。元気だったか、なんて言葉はシリウスに似合わない。
「元気だったよ」が答えた。「パパは?」
「見たままだ」シリウスが肩をすくめた。よく彼を見ると、少し痩せた気がする。ジェームズもだった。
「何があったの?」は単刀直入に聞いた。シリウスとジェームズはお互いに目配せすると、ゆっくりと口を開いた。
「まだ話せない。お前まで危険には巻き込みたくはない」シリウスが言った。
「もう巻き込んだじゃない。無理矢理、『暴れ柳』の下に連れて来たじゃない」が言い返した。彼女の言い分はもっともだったが、彼らは何も言わなかった。
「その件については悪いと思ってるよ、」ジェームズが静かに言った。
「だけど、それとこれとは話が別なんだ。下手をしたら君が殺されかねない」
「ここに連れて来たのは安否を確かめるためでもあるし、ハリーの安否を確かめるためでもある」シリウスがを見た。
「ハリーはリリーの妹家族に引き取られたか?」
「えぇ。でも、居心地は悪いみたい」が正直な感想をもらすと、ジェームズが愉快そうに笑った。
「あそこは相変わらずだ。事が済んだら一言礼を言おう」ジェームズの目がキラキラと輝いた。
「お前の方はリーマス・ルーピンだろう?」シリウスがズバリと言い切ると、が目を丸くした。「なんで知ってるの?」
シリウスとジェームズはの発言にアイコンタクトを交わした。
「リーマスは何もに言ってないようだね――こっちも相変わらずだ」ジェームズが呟いた。
「ねぇ、どういうこと?」が少し怒った口調で問い詰めた。しかし、彼らはなんとも思っていないようだった。
「リーマスが何も言っていないなら、私たちが出る幕ではない」シリウスが言った。
はシリウスの答えから、もうこれ以上の情報は仕入れられないと感じた。
「この猫は、賢いな」シリウスがクルックシャンクスを撫でた。
「ハーマイオニーの猫よ。でも、最近ロンのネズミを追い掛け回すからロンとハーマイオニーがケンカしてる」
ネズミ、という言葉にシリウスが微かに反応したが、は気付かなかった。
とリリーはまだ魔法省に保護されてる?」ジェームズが聞いた。
「保護されてるかは知らないけど、まだ入院してる。リリーは大丈夫らしいけど、ママは意識が時々しか戻らないの」
ジェームズが眉間にシワを寄せた。
「迷惑かけてすまない」シリウスが呟いた。
「大丈夫、気にしてない。本当にパパが犯人じゃないならそれでいい」はにっこり笑ってみせた。
、わかってると思うけど、僕たちに会ったことは誰にも言わないで」ジェームズが釘をさした。
「わかってるよ」
「――もし、会いたくなったら――」
「この猫と一瞬にまた来い」シリウスがジェームズをさえぎって言った。
「この猫が『暴れ柳』の動きを止めてくれる。私たちはいつもここにいるから」
は温かい微笑みを浮かべるシリウスとジェームズを見て、安心した。自分の場所が見つかったような気がする。
「今日はもうそろそろ帰らないと・・・・・」ジェームズが重い腰を上げた。
「『暴れ柳』の下まで送っていこう」シリウスも立ち上がり、来たときと同じように三人は引き返した。
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愛されてますね。笑