ハロウィーンの朝、はいつもどおりにハーマイオニーと談話室に降り、大広間で朝食を食べた。
「ハニーデュークスからお菓子をたくさん持ってきてあげるわ」ハーマイオニーが心底気の毒な顔をしながら言った。
「ウン、たーくさん」ロンも言った。二人は、ハリーの落胆振りに、クルックシャンクス論争を水に流したようだ。
一方、というと別に行けないことを残念には思ってないらしく、ニコニコしながらみんなの話を聞いていた。それが、まわりから見るとなんとも気の毒で、逆にみんなの同情を集めていた。きっと、にホグズミートの話をしたグリフィンドールの生徒たちは、皆、思い思いににお土産を買ってくるに違いない。
は朝食を食べ終わると。二人をハリーと一緒に玄関ホールまで見送りにいった。管理人のフィルチが、ドアのすぐ内側に立ち、長いリストを手に名前をチェックしていた。一人ひとり、疑わしそうに顔を覗き込み、行ってはいけない者が抜け出さないよう、念入りに調べていた。
「居残りか、ポッター?」クラッブとゴイルを従えて並んでいたマルフォイが大声で言った。
「吸魂鬼のそばを通るのが怖いのか?」
「あら、マルフォイ。あなた、ホグズミートに男だけで行くの?むさ苦しいわね」
が見せ付けるようにハリーに自分の腕を絡ませた。それがとても気に障ったのか、マルフォイはハリーに絡むのをやめた。
はハリーと一緒に大理石の階段を引き返し、少し遠回りしながらグリフィンドールの談話室に向かった。
「、腕、恥ずかしいよ」
誰もいないはずの廊下なのに、ハリーは誰かに見られているような感じがして、に言った。
「あぁ、ごめん、ハリー」
はテヘヘと愛らしく笑い、腕を放した。
「久しぶりだね、二人だけなの」はにこにこと笑った。
「あ、うん」ハリーはホグズミートに行けなかったことを気にしていたのか、心ここにあらずだった。
「ハリーはこれからどうする?」
「特に・・・・・は?」ハリーはを見た。
「私?私はちょっと出掛けようかなって。校内でじっとしてるのは私の性じゃないから」クスクスと笑うの顔には、明らかにこれから暴れてきます、と書いてある。
ハリーはあまり気分に乗らなくて「そう」と小さく呟いただけだった。今のを止めようとする方が無駄骨だ。
「じゃあ、ハリー、また後でね」
は突然にハリーと別れると、ハリーの返事も待たずに走り去った。
「さてと」
はハリーの姿が見えなくなると、一度立ち止まり、周りを見渡した。
「リーマスに会いに行こう」
はそう呟いて闇の魔術に対する防衛術のクラスに向かった。よくよく考えると、約二ヶ月くらいルーピンとまともに話していない。
「ルーピン先生、いらっしゃいますか?」
は教室のドアをノックした。すぐに中からルーピンが出てきて、柔和な微笑みを浮かべ、を招き入れた。
「やあ、。他の子たちはどうしたんだい?すまないね、今、ティーバッグしかないんだ」
ルーピンはに椅子を勧めるとティーバッグを取り出した。
「ホグズミートよ。ティーバッグでいい。お茶の葉は見飽きた」
「は行かないのかい?」そうかと呟いて、ルーピンはと向かい合って座った。
「うん、ハリーが許可証をもらってないの。私だけ行ったら不公平だわ――リーマスがハリーの分の許可証を書いたら行けるんだけどな」
無理だと思っていても、はルーピンに精一杯甘えてみせた。
「ダメだよ、。私は君の保護者だが、ハリーの保護者ではない」ルーピンはスパッと言い切った。
「言ってみただけ」はふくれてみせた。
「ごめんね、」ルーピンはポンポンとの頭を撫でた。
「別にいいよ、リーマスならなんでも許しちゃう」
がおどけてみせると、ルーピンはクスクスと笑った。約三十分ほど二人は話し込んで、は「闇の魔術に対する防衛術」の教室から出て行った。特にどこに行く、というあてもなく、はブラブラと学校中を歩き回った。運よく誰とも会わずにすんだ。ふと窓の外を見ると前に見た黒い犬がいた。こちらを見上げているようだ。はちょっと興味をひかれ、急いで校庭に飛び出した。
「え?」
の隣を勢いよく駆け抜けた黒い陰、クルックシャンクスだった。
「クルックシャンクス、どこ行くの?」
は慌ててクルックシャンクスを追い掛けた。彼女の目の前には「暴れ柳」があった。
「そっちは危ないわ!戻って!」はクルックシャンクスに呼びかけたが、猫は聞く耳を持たなかった。しかし、クルックシャンクスはがついてこないとわかるとピタリと立ち止まった。
「クルックシャンクス、おいで」は手を叩いて注意を引き付けるが上手くいかない。そのとき、突然低い唸り声が聞こえたかと思うと、振り向けば三度目に見る黒い犬である。どこか、怒っているように見える。は恐怖を感じた。犬はに飛び付こうとしたが、上手い具合に体を避けてのローブをくわえた。は足を踏ん張って、犬の力に耐えたが、その抵抗も虚しく、犬に引きずられることとなった。
「離して!」
目の前には「暴れ柳」、絶体絶命のピンチだった。は体を強張らせ、柳の攻撃に備えたが、いつまでたっても攻撃はなかった。そして、いきなり周りが暗くなり、はどこかの傾斜を底まで滑り降りた。
「シリウス!に怪我させちゃだめだってあれほど言ったじゃない」
「馬鹿言え!かすり傷で済んだんだ。俺の腕前を誉めろ」
は懐かしい声が頭に響く中、恐る恐る目を開いた。
「、乱暴してごめんね。シリウスが」
「手伝わなかったくせにお前が言うな」
上から微かに光が差し込んで目を凝らすとやっと周りが見える。は目の前にいる二人が信じられなかった。
「あ・・・・・」は自分の声が震えているのがわかった。それは、恐怖からのものなのか。
「パパ?ジェームズ?」二人は満足気に笑った。
目の前にいるのはシリウスとジェームズです。