Shrinking Potion 縮み薬
マルフォイは木曜日の昼近くまで現れず、スリザリンとグリフィンドール合同の魔法薬学の授業が半分ほど終わったころに姿を見せた。包帯を巻いた右腕を吊り、踏ん反り返って地下牢教室に入ってくるさまは、まるで恐ろしい戦いに生き残った英雄気取りだ。
「ドラコ、どう?」
パンジーが取って付けた様な笑顔で言った。
「ひどく痛むの?」
「ああ」
マルフォイは勇敢に耐えているようなしかめっつらをした。しかし、パンジーがむこうを向いたとたん、マルフォイがクラッブとゴイルにウィンクしたのをは見た。
「座りたまえ、さあ」スネイプは気楽に言った。
今日は新しい薬で「縮み薬」を作っていたが、マルフォイはの後ろ、ハリーとロンのすぐ隣に自分の鍋を据えた。ハリーとロンとマルフォイは同じテーブルで材料を準備することになった。
「先生」マルフォイが呼んだ。「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので――」
「ウィーズリー、マルフォイの根を切ってやりたまえ」
スネイプはこっちを見もせずに言った。ロンが赤レンガ色になった。
「お前の腕はどこも悪くないんだ」ロンが歯を食いしばってマルフォイに言った。
マルフォイはテーブルのむこうでニヤリとした。
「ウィーズリー、スネイプ先生がおっしゃったことが聞こえただろう。根を刻めよ」
ロンはナイフをつかみ、マルフォイの分の根を引き寄せ、めった切りにした。根は大小不揃いに切れた。
「せんせーい」マルフォイが気取った声を出した。
「ウィーズリーが僕の根をめった切りにしました」
スネイプがのテーブルを通り過ぎ、後ろで止まる音が聞こえた。
「ウィーズリー、君の根とマルフォイのとを取り替えたまえ」
「先生、そんな――!」
ロンは十五分もかけて、慎重に自分の根をきっちり同じに揃えて刻んだばかりだった。
「いますぐだ」
スネイプは独特の危険極まりない声で言った。
ロンは見事に切り揃えた根をテーブルのむこう側のマルフォイへグイと押しやり、再びナイフを掴んだ。はちらっと後ろを振り返り、スネイプがいなくなったのを確認すると、ロンの雛菊の根を見た。
「ロン、めった切りにしたやつ貸して」
はロンの返事を待たずに素早く根を自分のテーブルに移した。
、どうするんだい?」斜め後ろのハリーが囁いた。
「揃えてあげる」はにっこり笑うと慎重にナイフを入れた。数分後、ロンの根はの手で見事に揃った。
「ありがとう、」ロンが助かったとホッと息をついた。
すると、それを見ていたマルフォイが意地悪い目でを見た。
「おい、。感謝しろよ。誰のおかげでここにいられるのか。誰のおかげで虐められないで済むのか」
「誰のおかげでもないわ。私の人望よ」
はマルフォイを見据えた。
「本当にそう思ってるのか?父上は力があるんだ。実際、君のご友人のハグリッドを近ごろ見かけたかい?」
がマルフォイを思い切り睨んだ。しかし、マルフォイは何とも思わないようで後を続けた。
「気の毒に、先生でいられるのも、もう長いことじゃあないだろうな」マルフォイは悲しむふりが見え見えの口調だ。「父上は僕の怪我のことを快く思っていらっしゃらないし――」
「良い気になるなよ、マルフォイ。じゃないとほんとうに怪我させてやる」ロンが言った。
「――父上は学校の理事会に訴えた。それに、魔法省にも。どういうことだかわかるよねえ。それに、こんなに長引く傷だし――」
マルフォイはわざと大きなため息をついてみせた。
「汚いわよ、マルフォイ!」が怒った。
「なんとでも言え、。もし、君が僕に頭を下げるなら考え直してもいいけど」マルフォイが底意地の悪い笑顔でを見た。
「そんな汚い手をつかってまでハグリッドを辞めさせたいのか」
ハリーも怒りで手が奮え、手元が狂って、死んだイモムシの頭を切り落としてしまった。
「そうだねぇ」
マルフォイは声を落とし、ヒソヒソ囁いた。
「ポッター、それもあるけど。でも、ほかにもいろいろといいことがあってね」
数個先の鍋で、ネビルが問題を引き起こしていた。明るい黄緑色になるはずだった水薬が、オレンジ色になっていた。
「オレンジ色。君、教えていただきたいものだが、君の分厚い頭蓋骨を突き抜けて入っていくものがあるのかね?我輩ははっきり言ったはずだ。ネズミの脾臓は一つでいいと。聞こえなかったのか?ヒルの汁はほんの少しでいいと、明確に申し上げたつもりだが?ロングボトム、いったい我輩はどうすれば君に理解していただけるのかな?」
ネビルは赤くなって小刻みに震えている。今にも涙をこぼしそうだった。
「ロングボトム、このクラスの最後に、この薬を君のヒキガエルに数滴飲ませて、どうなるか見てみることにする。そうすれば、たぶん君もまともにやろうという気になるだろう」
スネイプは、恐怖で息もできないネビルを残し、その場を去った。
「助けてよ!」ネビルがハーマイオニーに呻くように頼んだ。
数分後、スネイプが終了の合図を告げた。
「材料はもう全部加えたはずだ。この薬は服用する前に煮込まねばならぬ。グツグツ煮えている間、後片付けをしておけ。あとでロングボトムの薬を試すことにする・・・・・」
はハーマイオニーがスネイプに気付かれないようにネビルに指示を与えているのを見た。残った材料を片付け、隅の方にある石の水盤のところまで行って手と杓を洗った。
まもなくクラスが終わるというとき、スネイプが大鍋のそばで縮こまっているネビルの方へ大股で近づいた。
「諸君、ここに集まりたまえ」スネイプが暗い目をギラギラさせた。
「ロングボトムのヒキガエルがどうなるかよく見たまえ。もし薬が出来上がっていれば、ヒキガエルはオタマジャクシになる」
グリフィンドール生は恐々見守り、スリザリン生は嬉々として見物していた。スネイプがヒキガエルのトレバーを左手でつまみあげ、小さいスプーンをネビルの鍋に突っ込み、今は緑色に変わっている水薬を、二、三滴トレバーの喉に流し込んだ。
トレバーがゴクリと飲むと、ポンと軽い音がして、オタマジャクシのトレバーがスネイプの手の中でクネクネしていた。
「グリフィンドール、五点減点」スネイプがおもしろくないという顔でローブのポケットから小瓶を取り出し、二、三滴トレバーに落とした。するとトレバーは突然元のカエルの姿に戻った。
「お節介はするな、ミス・グレンジャー。授業終了」
四人は玄関ホールへの階段を上った。
「ネビルが自分でやりましたって、言えばよかったのに!」ロンはさっきのことでまだ腹を立てているらしかった。しかし、ハーマイオニーの返事がないので振り返った。
「どこに行っちゃったんだ?」
さっきまですぐ後ろにいたハーマイオニーがいない。
「すぐ後ろにいたわよね?」が不安そうに言うと、ハリーが階段の下の方を指差した。
「いたよ、ハーマイオニー」
ハーマイオニーが少し息を弾ませて階段を上ってきた。片手にカバンを抱え、もう一方の手で何かをローブの前に押し込んでいる。
「どうやったんだい?」ロンが聞いた。
「何を?」ハーマイオニーが聞き返した。
「君、さっきは僕らの後ろにいたのに、次の瞬間、階段の一番下に戻ってた」
「え?」ハーマイオニーはちょっと混乱したようだった。
「ああ――私、忘れ物を取りに戻ったの。アッ、あーあ・・・・・」
ハーマイオニーのカバンの縫い目が破れていた。カバンの中には大きな重そうな本がたくさん入っているように見えた。
「どうしてこんなにいっぱい持ち歩いてるんだ?」ロンが聞いた。
「私がどんなにたくさんの学科をとってるか、知ってるわよね」
ハーマイオニーは息を切らしている。
「お昼においしいものがあるといいわ。お腹ペコペコ」そう言うなり、ハーマイオニーは大広間へとキビキビ歩いて行った。
「ハーマイオニー、なんかおかしいわよね?」はハリーとロンと顔を見合わせた。
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次はDADAですね^^