夕食の後、混み合ったグリフィンドールの談話室で、マクゴナガル先生の宿題を始めたものの、四人ともしばしば中断しては、塔の窓からチラチラと外を見るのだった。
「ハグリッドの小屋に明かりが見える」突然ハリーが言った。
ロンが腕時計を見た。
「急げば、ハグリッドに会いにいけるかもしれない。まだ時間も早いし・・・・・」
「それはどうかしら」
ハーマイオニーがゆっくりそう言いながら、チラリとハリーを見た。
「僕、校内を歩くのは許されてるんだ」ハリーはむきになった。
「シリウス・ブラックはここではまだ吸魂鬼を出し抜いてないだろ?」
シリウスの名前にがピクンと反応したが、聞こえなかったフリをした。
四人は宿題を片付け、肖像画の抜け穴から外に出た。
まだ湿り気を帯びたままの芝生が、黄昏の中でほとんど真っ黒に見えた。ハグリッドの小屋にたどり着き、ドアをノックすると、中から「入ってくれ」と呻くような声がした。
ハグリッドはシャツ姿で、洗い込まれた白木のテーブルの前に座っていた。ボアハウンド犬のファングがハグリッドの膝に頭を乗せている。一目見ただけでハグリッドが相当深酒していたことがわかる。バケツほどもある錫製のジョッキを前に、ハグリッドは焦点の合わない目つきで四人を見た。
「こいつぁ新記録だ」四人が誰かわかったらしく、ハグリッドがどんよりと言った。
「一日しかもたねえ先生なんざ、これまでいなかったろう」
「ハグリッド、まさか、クビになったんじゃ!」ハーマイオニーが息を呑んだ。
「まーだだ」ハグリッドはしょげきって、何が入っているやら、大ジョッキをグイと傾けた。
「だけんど、時間の問題だわ、な、マルフォイのことで・・・・・」
「あいつ、どんな具合?」四人とも腰掛けながら、ロンが聞いた。「たいしたことないんだろ?」
「マダム・ポンフリーができるだけの手当てをした」ハグリッドがぼんやりと答えた。「だけんど、マルフォイはまだ疼くと言っとる・・・・・包帯ぐるぐる巻きで・・・・・呻いとる・・・・・」
「ふりしてるだけよ。マルフォイがやりそうなことだわ」が即座に言った。
「そうさ。マダム・ポンフリーならなんでも治せる。去年なんか、僕の片腕の骨を再生させたんだよ。マルフォイは汚い手を使って、怪我を最大限に利用しようとしてるんだ」
「学校の理事たちに知らせがいった、当然な」ハグリッドは萎れきっている。
「俺が初めっから飛ばし過ぎたって、理事たちが言うとる。ヒッポグリフはもっとあとにすべきだった・・・・・レタス食い虫かなんかっから始めていりゃ・・・・・イッチ番の授業にはあいつが最高だと思ったんだがな・・・・・みんな俺が悪い・・・・・」
「ハグリッド、悪いのはマルフォイの方よ!」ハーマイオニーが真剣に言った。
「僕たちが証人だ」ハリーが言った。
「侮辱したりするとヒッポグリフが攻撃するって、ハグリッドはそう言った。聞いてなかったマルフォイか悪いんだ。ダンブルドアに何が起こったのかちゃんと話すよ」
「そうだよ。ハグリッド、心配しないで。僕たちがついてる」ロンが言った。
「一人じゃないわ。四人もいるのよ?きっと大丈夫」がVサインした。
ハグリッドの真っ黒なコガネムシのような目の目尻のシワから、涙がポロポロこぼれ落ちた。ハリーとロンをグイと引き寄せ、ハグリッドは二人を骨も砕けるほど抱きしめた。
「ハグリッド、もう十分飲んだと思うわ」ハーマイオニーは厳しくそう言うと、テーブルからジョッキを取り上げ、中身を捨てに外に出た。
「あぁ、あの子の言う通りだな」ハグリッドはハリーとロンを放した。二人とも胸を摩り、よろよろと離れた。ハグリッドはよいしょと立ち上がり、ふらふらとハーマイオニーのあとから外に出た。水の撥ねる大きな音が聞こえてきた。
「ハグリッド、何をしてるの?」ハーマイオニーが空のジョッキを持って戻ってきたので、が心配そうに聞いた。
「水の入った樽に頭を突っ込んでいたわ」ハーマイオニーがジョッキを元に戻した。
長い髪と髭をびしょ濡れにして、目を拭いながら、ハグリッドが戻ってきた。
「さっぱりした」ハグリッドは犬のように頭をブルブルッと振るい、四人もびしょ濡れになった。
「なあ、会いにきてくれて、ありがとうよ。ほんとに俺――」
ハグリッドは急に立ち止まり、まるでハリーがいるのに初めて気付いたようにじっと見つめた。
「おまえたち、いったいなにしちょる。えっ?」
ハグリッドがあまりに急に大声を出したので、四人とも三十センチも跳び上がった。
「ハリー、暗くなってからウロウロしちゃいかん!おまえさんたち!三人とも!ハリーを出しちゃいかん!!特におまえさんは真っ先に疑われる!」
ハグリッドはのっしのっしとハリーに近づき、腕を捕まえ、ドアまで引っ張っていった。
「来るんだ!」ハグリッドは怒ったように言った。
「俺が学校まで送っていく。もう二度と、暗くなってから歩いて俺に会いにきたりするんじゃねえ。俺にはそんな価値はねえ」
ハグリッドがハリーを半ば、引きずるようにして歩き、三人はその後ろを黙って歩いた。ふと、が誰かの視線を感じ、振り向くと前にあったあの犬と鹿がぼんやりと浮かび上がっていた。
「あっ・・・・・」
は思わず二匹に駆け寄ろうとしたがハーマイオニーに腕を掴まれた。
「なにしてるのよ」
何歩か先でロンが止まってこっちを見ていた。その数歩先ではハリーとハグリッドが止まってこっちを見ている。
「ほら、あそこ。私が前に見た鹿と犬がいるの」
しかし、が指差した先には闇があるだけで、動物は見当たらなかった。
「本当にいたの」が怒ったように言った。
「何も言ってないわ」ハーマイオニーが冷静にそう返した。
「今は寮に戻る方が先よ、」
ハーマイオニーはの手を掴んで歩いた。
「ハグリッド!」
が数歩先を歩くハグリッドを呼んだ。
「禁じられた森にはいろんな生き物がいるんでしょう?犬や鹿もいるよね?」
ハグリッドは少し考えると「いるかもしれねえ」と答えた。はその答えを聞くと、ほらね、とロンを見た。昼ご飯のときに否定されたのをまだ根に持っていたらしい。
ハグリッドにも会って、犬と鹿にも再会^^