Talon 鉤爪
ハグリッドにバックビークが背中に乗せてくれると思うぞ、と言われても、には不安が残るばかりだった。チラリとハリーを横目で見ると、彼も不安そうな顔をしていた。しかし、いくらかは空を飛ぶことに慣れている分、落ち着いていた。
「そっから、のぼれ。まずはハリーからだ。ほれ、翼の付け根んとっからだ。羽根を引っこ抜かねえよう気をつけろ。いやがるからな・・・・・」
ハリーがバックビークの翼の付け根に足をかけ、背中に飛び乗った。バックビークが立ち上がった。すると、ハグリッドはに声をかけた。
、おまえさんは俺が支えちょるから、ハリーの後ろに乗るんだ――ハリー、に手を貸してやっちょくれ」
ハグリッドはを軽々と抱き上げた。はびっくりしたが、ハリーの差し出してくれた手をしっかりと取り、ハリーの後ろにまたがった。そして、ハリーの腰にしがみつくと、周りを見渡した。意外に、バックビークの上は高い。
「そーれ行け!」ハグリッドがビックバークの尻をパシンと叩いた。
何の前触れもなしに、四メートルもの翼が左右に開き、羽ばたいた。バックビークの上はお世辞にも快適とはいえなかった。ただ、良かったのは、振り落とされるときはハリーも道連れに出来る、ということだけだった。は激しく揺れるバックビークの背中で、今にも振り落とされそうでヒヤヒヤしていた。そのため、無意識にハリーにギュッとしがみつき、周りの景色を楽しむ余裕など、微塵もない。ハリーは自分の腰に回された、かすかに震えているの手を感じていた。
二人を乗せ、バックビークは放牧場の上空を一周すると、地上を目指した。やがて、前後バラバラな四肢が、ドサッと着地する衝撃が伝わってきた。はやっと安心したのか、ハリーの腰にしがみついていた手を緩ませ、体の緊張を解き、前のめりにハリーに寄りかかった。
「よーくできた、ハリー、!」
ハグリッドは大声を出し、マルフォイ、クラッブ、ゴイル以外の全員が歓声をあげた。
「よーしと。ほかにやってみたいモンはおるか?」
二人の成功に励まされ、ほかの生徒も恐々放牧場に入ってきた。ハグリッドが一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、やがて放牧場のあちこちで、みんながおずおずとお辞儀をし始めた。ハリーとは未だにバックビークに乗ったままだった。がずっとハリーに寄りかかっていて、ハリーは降りたくても降りられないのだ。
、いつまでそうしてるの?」ハリーが呆れた声で言った。彼も、振り向けば、無理やりの体勢を起こせるのに、そうしないのは優しさからだった。
「ずーっと」がハリーの背中でつぶやいた。彼女に甘えられるのは昔から慣れていることで、嫌ではなかったが、ハリーとしては早くバックビークの背中から降りたかった。しかし、ハリーもには強く言えず、誰かが来るまでこのままだな、と覚悟したそのとき、救いの手はやってきた。
「ハリー、、一緒にやろー!」
ロンが放牧場の端っこで、二人を呼んだ。はハーマイオニーが手を振っているのを見て、むくっと起き上がり、バックビークから飛び降りた。しかし、飛び降りるには少し高すぎて、はしりもちをついた。
「痛い・・・・・」
幸い、無様な今のの姿を見ているのはハリーとロンとハーマイオニーしかいなかった。ロンとハーマイオニーはしりもちをついたを心配して、駆け寄ってきた。ハリーもの隣で綺麗に着地すると、に手を差し出した。
「無理するからだよ」ロンが呆れて言った。
「怪我はない?」
ハリーの手を握って立ち上がったに、ハーマイオニーは心配そうに聞いた。
「うん、大丈夫。ありがとう」は笑顔で答えた。
「それじゃあ、練習しよう」ハリーはそう言って、ハグリッドが解き放った栗毛のヒッポグリフにお辞儀をして、嘴をなでてやった。
次にがお辞儀をすると、ヒッポグリフはすぐにお辞儀を返してくれた。二人に勇気付けられ、ロンもハーマイオニーもどうにか、ヒッポグリフに触れるようになった。
「バックビークの乗り心地はどうだったんだい?」ロンが、栗毛のヒッポグリフをなでながら聞いた。ハリーとは近くで見ているだけだった。
「怖かったわ。いつ振り落とされるかわかったもんじゃないもの」が思い出したのか、身震いした。
「でも、一人で振り落とされるのはシャクだったから、ハリーにギュッとしがみついてたの」
「僕には本当に怖くてしがみついているように見えたけど?」ハリーが突っ込むと、は図星だったらしくそっぽを向いてしまった。
「簡単じゃあないか」
突然、マルフォイの得意げな声が聞こえ、四人はそっちに目を向けた。マルフォイはハリーへの対抗心からか、バックビークの嘴をなでていた。
「ポッターに出来るんだ、簡単に違いないと思ったよ・・・・・おまえ、全然危険なんかじゃないよなぁ?」
マルフォイはヒッポグリフに話しかけた。
「そうだろう?醜いデカブツの野獣君」
一瞬、鋼色の鉤爪が光った。マルフォイがヒッーと悲鳴をあげ、次の瞬間、ハグリッドがバックビークに首輪をつけようと格闘していた。バックビークはマルフォイを襲おうともがき、マルフォイの方はローブが見る見る血に染まり、草の上で身を丸めていた。
「死んじゃう!」マルフォイが喚いた。クラス中がパニックに陥っていた。
「僕、死んじゃう。見てよ!あいつ、僕を殺した!」
「死にゃせん!」ハグリッドは蒼白になっていた。
「誰か、手伝ってくれ――この子をこっから連れださにゃー」
ハグリッドがマルフォイを軽々と抱え上げ、ハーマイオニーが走っていってゲートを開けた。マルフォイの腕に深々と長い裂け目があるのが見えた。血が草地に点々と飛び散った。ハグリッドはマルフォイを抱え、城に向かって坂を駆け上がっていった。
「魔法生物飼育学」の生徒たちは大ショックを受けてそのあとをついていった。スリザリン生は全員ハグリッドを罵倒していた。
「すぐクビにすべきよ!」パンジーが泣きながら言った。
「マルフォイが悪いんだ!」ディーンがきっぱり言った。
クラッブとゴイルが脅すように力こぶを作って腕を曲げ伸ばしにしたが、が素早く杖を二人に向けたので、事態は悪化しなかった。魔力でには敵わない、と二人も学習しているようだった。
石段を上り、全員ががらんとした玄関ホールに入った。
「大丈夫かどうか、わたし見てくる!」パンジーはそういうと、みんなが見守る中、大理石の階段を駆け上がっていった。スリザリン生はハグリッドのことをまだブツブツ言いながら、地下牢にある自分たちの寮の談話室に向かっていった。ハリー、ロン、、ハーマイオニーはグリフィンドール塔に向かって階段を上った。
「マルフォイは大丈夫かしら?」ハーマイオニーが心配そうに言った。
「そりゃ、大丈夫さ。マダム・ポンフリーは切り傷なんかあっという間に治せるよ」
ハリーはもっと酷い傷を、校医に魔法で治してもらったことがある。
「だけど、ハグリッドの最初の授業であんなことが起こったのは、まずいよな?」ロンも心配そうだった。「マルフォイのやつ、やっぱり引っ掻き回してくれたよな・・・・・」
夕食のとき、ハグリッドの顔が見たくて四人は真っ先に大広間に行った。ハグリッドはいなかった。
「ハグリッドをクビにしたりしないわよね?」
ハーマイオニーはステーキ・キドニー・パイのご馳走にも手をつけず、不安そうに言った。
「そんなことしないといいけど」ロンも何も食べていなかった。
「まあね、休み明けの初日としちゃぁ、なかなか波乱に富んだ一日だったと言えなくもないよな」
「波乱に富まなくていいわよ」
が冷静にロンに突っ込んだ。
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ハリーさんたちチョイ良い雰囲気だったり?
マルフォイの怪我が心配です。