Hagrid teaches ハグリッドの授業
昼食のあと、次の授業はハグリッドの「魔法生物飼育学」だった。野外の授業で、快晴とはいかなかったが、それでも上った雨の雫が残る芝生の上を踏みしめながら、はハリーたちと一緒にハグリッドの小屋を目指した。
ロンとハーマイオニーは互いに口を聞かない。先ほどもがハリーと話している最中に二人は口げんかをしたらしく、横一列の両端でそっぽを向いたままだ。はこの雰囲気でハリーにも話しかけることが出来ず、ただ黙って禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋を目指して、芝生を下っていた。
ハグリッドが小屋の外で生徒を待っていた。厚手木綿のオーバーを着込み、足元にボアハウンド犬のファングを従え、早く始めたくてうずうずしている様子で立っていた。
「さあ、急げ。早く来いや!」生徒が近づくとハグリッドが声をかけた。
「さぁ!今日はみんなにいいもんがあるぞ!物凄いもんだ!みんな集まったか?よーし、じゃあこっちに来いや!」
ハグリッドは森の縁に沿ってどんどん歩き、五分後にみんなを放牧場のようなところに連れてきた。そこには何もいなかった。
「みんな、この柵の周りに集まれ!」ハグリッドが号令をかけた。
「さぁて、そうだな、みんなもうちょいこっちに来てくれや。イッチ番最初にやるこたぁ教科書を開けるこった――」
「どうやって?」ドラコ・マルフォイの冷たい気取った声だ。
「あぁ?」ハグリッドだ。
「どうやって教科書を開けばいいんです?」
マルフォイが繰り返した。マルフォイは「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でぐるぐる巻きに縛ってあった。ほかの生徒も本を取り出した。のは皮バンドでしっかりと縛ってある。きっちりした袋に押し込んだり、大きなクリップで挟んでいる生徒もいた。
「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?」ハグリッドはガックリきたようだった。
クラス全員がこっくりした。
「お前さんたち、撫ぜりゃーよかったんだ」ハグリッドは、当たり前のことなのに、とでも言いたげだった。
ハグリッドはハーマイオニーの持っていた教科書を取りあげ、本を縛りつけていたスペロテープをビリリと剥がした。本は噛みつこうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背表紙を一撫でされると、ブルッと震えてパタンと開き、ハグリッドの手の中でおとなしくなった。
「ああ、僕たちって、みんな、なんて愚かだったんだろう!」マルフォイが鼻先で笑った。
「撫ぜりゃーよかったんだ!どうして思い付かなかったのかねぇ!」
「おれは・・・・・こいつらが愉快なヤツだとおもったんだが・・・・・」
ハグリッドが自信なさそうにハーマイオニーに言った。
「ああ、そうでしょう、恐ろしく愉快な奴らだ!僕らの手を噛み切ろうとする本なんてね!」マルフォイが言った。
「黙れ、マルフォイ」
ハリーが静かににらみつけた。ハグリッドはうなだれていた。
「えーと、そんじゃ」ハグリッドは何を言うつもりだったか忘れてしまったらしい。
「そんで・・・・・えーと、教科書はある、と。そいで・・・・・えーと・・・・・こんだぁ、魔法生物が必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ・・・・・」
ハグリッドは大股で森へと入り、姿が見えなくなった。
「まったく、この学校はどうなってるんだろうね」マルフォイが声を張り上げた。
「あんなウドの大木みたいなやつに授業を任せるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ・・・・・」
「黙れ、マルフォイ」
「あなたの父親より、ダンブルドアの判断の方が正しいわ」ハリーももマルフォイをにらみつけた。
「ポッター、気をつけろ、吸魂鬼が・・・・・」
しかし、マルフォイはの発言を無視して、ハリーをからかおうとしたが、ラベンダーが甲高い声を出したので、マルフォイの言葉に耳を傾ける者はいなくなった。みんなラベンダーの指差す方を見ている。
見たこともないような奇妙なキテレツな生き物が十数頭、早足でこちらに向かってくる。胴体、後ろ足、尻尾は馬で、前足と羽根、そして頭部は巨大な鳥のように見えた。鋼色の残忍な嘴と、大きくギラギラしたオレンジ色の目が、鷲そっくりだ。前足の鉤爪は十五、六センチもあろうか、見るからに殺傷力がありそうだ。それぞれ分厚い革の首輪をつけ、それをつなぐ長い鎖の端をハグリッドの大きな手が全部まとめて握っていた。ハグリッドは怪獣の後ろから駆け足で放牧場に入ってきた。
「ドウ、ドウ!」
ハグリッドが大きくかけ声をかけ、鎖を振るって生き物を生徒たちの立っている柵のほうへ追いやった。ハグリッドが生徒のところへやってきて、怪獣を柵につないだときは、みんながジワッとあとずさりした。
「ヒッポグリフだ!」
みんなに手を振りながら、ハグリッドが嬉しそうに大声を出した。
「美しかろう、え?」
確かにハグリッドにしては良い趣味だった。半鳥半馬の生き物を見た最初のショックを乗り越えさえすれば、ヒッポグリフの輝くような毛並みが羽から毛へと滑らかに変わっていく様は、見ごたえがあった。それぞれ色が違い、嵐の空のような灰色、赤銅色、赤ゴマの入った褐色、つやつやした栗毛、漆黒など、とりどりだ。
「そんじゃ」
ハグリッドは両手を揉みながら、みんなにうれしそうに笑いかけた。
「もうちっと、こっちゃこいや・・・・・」
誰も行きたがらない。ハリー、ロン、、ハーマイオニーだけは、恐々柵に近づいた。
「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねえことは、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんなことをしてみろ、それがお前さんたちの最後の仕業になるかもしんねぇぞ」
マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、聞いてもいなかった。なにやらヒソヒソ話している。どうやったらうまく授業をぶち壊しにできるか企んでいるのでは、と嫌な予感がした。
「かならず、ヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ」ハグリッドの話は続く。
「それが礼儀ってもんだろう。な?こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀をする。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、すばやく離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな」
「よーし――誰が一番乗りだ?」
答える代わりに、ほとんどの生徒がますますあとずさりした。ハリー、ロン、、ハーマイオニーでさえ、うまくいかないのではと思った。ヒッポグリフは猛々しい首を振りたて、たくましい羽根をばたつかせていた。繋がれているのが気に入らない様子だ。
「誰もおらんのか?」ハグリッドがすがるような目をした。
「僕、やるよ」
「私、やるわ」
ハリーとは同時に手を上げた。
「ハリー、ダメよ。お茶の葉を忘れたの!」後ろでラベンダーとパーバティが囁いた。
「そんじゃあ、お前さんたち、二人でやってみよう。イッチ番最初だしな――バックビークとやってみよう」
しかし、ハグリッドは放牧場の柵を乗り越えてきたハリーとを歓迎した。そして、鎖を一本ほどき、灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輪を外した。放牧場の柵の向こう側ではクラス全員が息を止めているかのようだった。マルフォイは意地悪く目を細めていた。
「さあ、落ち着け、二人とも」ハグリッドが静かに言った。
「目をそらすなよ。なるべく瞬きするな――ヒッポグリフは目をしょぼしょぼさせるやつを信用せんからな・・・・・」
たちまち目が潤んできたが、二人は瞬きしなかった。バックビークは巨大な、鋭い頭を二人のほうに向け、猛々しいオレンジ色の目で睨んでいた。
「そーだ」ハグリッドが声をかけた。「ハリー、、それでええ・・・・・それ、お辞儀だ・・・・・」
はお辞儀したとたん襲われる自分を想像して怖くなったが、隣にいるハリーがお辞儀したのでつられて恐る恐るお辞儀した。目を上げると、ヒッポグリフはまだ気位高く二人を見据えていた。動かない。
「あー」ハグリッドの声が心配そうだった。「よーし――さがって、ゆっくりだ――」
しかし、そのときだ。驚いたことに、突然ヒッポグリフが、うろこに覆われた前脚を折り、どう見てもお辞儀だと思われる格好をしたのだ。
「やったぞ、ハリー、!」ハグリッドが狂喜した。「よーし――触ってもええぞ!嘴をなでてやれ、ほれ!」
何度が嘴をなでると、ヒッポグリフはそれを楽しむかのようにトロリと目を閉じた。
クラス全員が拍手した。マルフォイ、クラッブ、ゴイルだけは、ひどくがっかりしたようだった。
「よーし、そんじゃ、ハリー、、こいつはおまえさんたちを背中に乗せてくれると思うぞ」
これは計画外だった――。
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中途半歩に終わってすみません。
二人とも注目の的です。