「あれ?じゃないか。ロンたちと一緒じゃないのか?」
フレッドが目を丸くしてを見た。
「ちょっと散歩」が肩をすくめた。
「そう。それじゃあ、少しゆっくりしていきなよ。僕の隣、空いてるし」
フレッドはを手招きした。その後ろからジョージが中に入り、コンパートメントのドアを閉めた。中には双子の親友のリー・ジョーダンもいた
汽車がさらに北へ進むと、雨も激しさを増した。窓の外は雨足がかすかに光るだけの灰色一色で、その色も墨色に変わり、やがて通路と荷物棚にポッとランプがともった。汽車はガタゴト揺れ、雨は激しく窓を打ち、風は唸りをあげた。
「もう着くころだ」
ジョージがもう真っ暗になっている窓の外を見た。汽車は速度を落とし始めた。
「でも、まだ着く時間じゃないだろ?」リーがいくぶかしげに言った。
汽車はますます速度を落とした。ピストンの音が弱くなり、窓を打つ雨風の音が一層激しく聞こえた。
一番ドアに近いところにいたフレッドが立ち上がって、通路の様子をうかがった。
汽車がガクンと止まった。どこか遠くの方から、ドサリ、ドシンと荷物棚からトランクが落ちる音が聞こえてきた。そして、なんの前触れもなく、明かりがいっせいに消え、あたりが急に真っ暗闇になった。
「おいおい、一体どうなってるんだ?」暗闇の中からジョージの声がして、コンパートメントの中が明るくなった。リーの杖先が光っていた。
「真っ暗じゃ何にも分かんないだろ?、大丈夫?」
三人は二歳と年の差があるを気づかった。
その時、コンパートメントのドアがガラリと開き、はビクッと反応し、立ち上がった。
「大丈夫だよ」フレッドが優しく言った。
「何の用だ?マルフォイ」
一方、フレッドはマルフォイには鋭い視線を投げた。しかし、マルフォイは蒼白な顔で、フレッドの質問にも答える余裕がなさそうだった。その時、またコンパートメントのドアが開いた。明るいコンパートメントの中で浮かび上がったその姿は恐怖の塊だった。マントを着た、天井までも届きそうな黒い影、忘れることも出来ない、紛れもなくあの吸魂鬼だった。
マルフォイは言葉にならない叫び声をあげ、コンパートメントの奥、四人の影に隠れた。
は自分の中で膨大な恐怖が沸き上がるのに気が付いた。誰かの高笑いと、悲鳴が遠くの方で聞こえた。そして、恐怖に負けじといつの間にか叫んでいた。
「エクスペクト・パトローナム!」
が吸魂鬼に向けた杖から銀色のものが現れて、吸魂鬼に直撃した。吸魂鬼は不意をつかれて驚いたのか、コンパートメントから出ていった。
はほっとため息をつくと、力が抜けたのか、その場にしゃがみこんだ。
「、大丈夫かい?」
ジョージが膝をついての背中を撫でた。それが、には安心出来るものであり、いつの間にか胸がいっぱいで、大粒の涙を流していた。
「怖かっ――」がしゃくりあげた。
「大丈夫だよ」
フレッドはマルフォイに出てけ、と命じながら、コンパートメントのドアをピシャリと閉めた。コンパートメントの中はリーの杖の光で明るい。
三人は泣き止みそうにないを迷惑がる様子もなく、そばにしゃがみこんで慰めた。未だ汽車は動かなかった。
「でも、なんで吸魂鬼が汽車にいるんだ?」ジョージがの背中を撫でる、という幸せな役をやりながらフレッドとリーを見た。
「さあ?でも、気まぐれってわけじゃなさそうだ。明らかにを襲おうとしてた」
フレッドの台詞にがビクッと肩を震わせた。
「あ、ごめん、」フレッドは罰の悪そうな顔をした。
「大丈――夫。ごめんね」は泣きながら笑おうとして失敗した。
「いや、こっちこそ・・・・・」リーが言った。
「の方がまだ年下なのに、かばえなくて」
「ううん・・・・・」
がボソリと呟いた。涙は止まったようだったが、手が、体が震えていた。
「とにかく、椅子に座ろう。そんなところじゃ冷たいだろ?」フレッドが手を差し出しを立たせた。
「ありがとう」
そう呟いたの手はとても小さく、冷たかった。はそのままフレッドの隣に座った。
「でも、どうなってるんだ?先生たちもいないのに、怪我人が出たりしたら・・・・・」
リーのその言葉に、はハッと顔をあげた。
「私、行かなきゃ――」と、が立ち上がったそのとき、汽車に明かりがともり、再び動きだした。はバランスを崩し、フレッドの方に倒れこんだ。
「おっと」
フレッドは反射的に立ち上がってを抱きとめた。
「大丈夫?」
いつものらしさが戻ってきたと、フレッドはクスクス笑った。
「ありがとう」は少し顔を赤らめた。
「あのね、私、嬉しかった」コンパートメントのドアの取っ手に手をかけながら、が振り向いた。
「新聞とかでたくさん言われてるのに、いつも通りに接してくれて嬉しかった。ありがとう」
はにっこり笑うと、ドアを開けて着た道を駆け足で戻り始めた。が通りすぎていくコンパートメントの中は怯えた生徒たちが固まって座っていた。
「」
そのとき、一番会いたかった人の姿が、見えた。
「、大丈夫かい?――あぁ、泣いたんだね?」
ルーピンは駆け足でよってきたの顔を見るなり言った。そして、優しくの頬を撫でた。
「一緒においで」ルーピンはが落ち着いているのが分かると、そう声をかけた。
「それで、術は成功したんだね?」
ルーピンはに歩調を合わせながら聞いた。は不思議そうな顔をしてルーピンを見つめた。
「どうして分かったの?」
「吸魂鬼を追い払うにはパトローナムしか効かない。それに、吸魂鬼にとって――こういう言い方は悪いが――君は絶好のエサだ。ともあれ、無事でよかった」ルーピンがホッとした声をあげた。
「怖かった――」がかき消されそうな小さな声で言った。しかし、また涙が出てきて、後を続けられなかった。
「もう、大丈夫」
ルーピンは再び泣き出したを呆れる様子もなく、の涙を優しく手で拭った。それが、どことなくシリウスを連想させ、は夏休み中ずっと溜まりに溜っていたものを爆発させるように、声をあげて泣いた。
ルーピン先生に会えてよかったね^^