「あのね、パパが今年の『日刊予言者新聞・ガリオンくじグランプリ』を当てたんだ。だから、今年の夏休みはビルが働いているエジプトに行ったんだ。いいところだったな、エジプト。それに、新しい杖も買ってもらえた」
の顔に笑顔が広がった。ロンの杖は去年、とても酷い有様だった。
「わあ、すごいわ!良かったわね!」
「でも、今年、パーシーが首席なんだ」今度は残念そうな声を上げた。
「あら、選ばれたのだからそれだけの器はあるってことよ」
ハーマイオニーがことも何気に言いながら、なにかの籠を開けようとしていた。
「それ、何が――」
「そいつを出したらダメ!」
が言いかけた言葉は、ロンの叫び声でかき消された。
しかし、ロンが止めたのにも関わらず、ハーマイオニーが持っていた籠から何かが飛び出してきた。赤味がかったオレンジ色の毛がたっぷりとしてフワフワだったが、どうみてもちょっとガニマタだったし、気難しそうな顔がおかしな具合につぶれていた。
その生き物はロンの膝に飛び乗ったが、ロンはすぐさま払いのけた。
「どけよ!」
「ロン、やめて!」
ハーマイオニーが怒った。
ロンが言い返そうとしたそのとき、ルーピン先生がもぞもぞ動いた。四人ともぎくりとして先生を見たが、先生は頭を反対側に向けただけで、わずかに口を開けて眠り続けた。
「それ、ハーマイオニーの猫?」
はルーピン先生を起こさないように小さな声で聞いた。
「そうよ、素敵でしょう」
ハーマイオニーは自分の膝の上で丸まっている猫をなでながら言った。
「クルックシャンクスって言うの」
「そいつ、僕の頭の皮を剥ごうとした上に、スキャバーズを追い掛け回すんだ。こいつ、エジプトから帰ってきてどうも調子がおかしい。多分、エジプトの水が合わなかったんだろうけど。ペットショップに見せたら、『ネズミ栄養ドリンク』をくれた。安静にしてなきゃならないのに、こいつがいるせいで、落ち着くことが出来ない」
ロンがクルックシャンクスをにらみつけた。
ホグワーツ特急は順調に北へと走り、外には雲がだんだん厚く垂れ込め、車窓には、一段と暗く荒涼とした風景が広がっていった。コンパートメントの外側の通路では生徒たちが追いかけっこをして往ったり来たりしていた。
一時になると、丸っこい魔女が食べ物を積んだカートを押して、コンパートメントのドアの前にやってきた。
「この人を起こすべきかなぁ?」
ルーピン先生の方を顎で指し、ロンが戸惑いながら言った。
「何か食べた方がいいみたいに見えるけど」
ハーマイオニーがそっとルーピン先生のそばに行った。
「あの――先生?もしもし――先生?」
先生は身じろぎもしない。
「大丈夫よ、嬢ちゃん」
大きな魔女鍋スポンジケーキを一山ハリーに渡しながら、魔女が言った。
「目を覚ましたときお腹がすいているようなら、わたしは一番前の運転手のところにいますからね」
「この人、眠っているんだよね?」
魔女のおばさんがコンパートメントの引き戸を閉めたとき、ロンがこっそり言った。
「ない、ない。息をちゃんとしているわ」
はハリーからケーキを受け取りながら囁いた。
昼下がりになって、車窓から見える丘陵風景がかすむほどの雨が降り始めたとき、通路でまた足音がした。ドアを開けたのは四人が一番毛嫌いしている連中だった。ドラコ・マルフォイと、その両脇に腰巾着のビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイルだ。
「へえ、誰かと思えば」
コンパートメントのドアを開けながら、マルフォイはいつもの気取った口調で言った。
「か。君の父親が大変だな。君にも非難の目が痛いだろう。僕に任せれば、そんなことは――」
「出て行って」
は自分でも驚くような冷たい声で言った。マルフォイもこれには驚いたのか、あざ笑うような笑みが消えた。
「私がどうなろうと、あなたに関係ない。違う?」はマルフォイをあざ笑うかのように言った。
「『穢れた血』と関わっている時点で関係ないのは火を見るより明らかだ」
マルフォイも負けず劣らず、そう言った。
「マルフォイ、今、なんて言ったんだ?」
ロンが出し抜けに立ち上がった拍子に、クルックシャンクスの籠を床に叩き落してしまった。ルーピン先生がいびきをかいた。
「そいつは誰だ?」
ルーピンを見つけたとたん、マルフォイが無意識に一歩下がった。
「新しい先生だ」
ハリーも、ロンを引き止めるため、立ち上がった。
「あなたの顔なんか見たくない。出て行って」
はマルフォイを見上げた。
マルフォイは薄青い目を細めた。先生の鼻先で喧嘩を吹っかけるほど、バカではない。
「いくぞ」マルフォイは苦々しげにクラッブとゴイルに声をかけ、姿を消した。
汽車はさらに北に向かって進んだ。はずっと座っているのに飽きてきて、三人に外を歩いてくると告げた。
「一緒に行こうか?」
ハリーはに対する周りの非難の目を気にしてか、そう言った。
「大丈夫。どっちにしろ、学校に着いたらイヤでもそうなるんだから。今の内になれておかないと」
はそう言って、コンパートメントを後にした。
自分たちがいたコンパートメントは最後尾だったので、は先頭に向かって歩いていった。ハリーの心配通り、コンパートメントの中から、は痛いほど、視線を感じた。しかし、そんな痛みもすぐに終わった。
「?」
今さっき通り過ぎたコンパートメントから、自分の名前を呼ぶ、懐かしい声が聞こえた。
「ジョージ?」
振り向くと、笑顔で手を振るジョージがいた。
「どうしたんだい、こんなところで。ロンたちと一緒じゃないのかい?――暇なら、一緒に中に入らない?」
「少し、歩きたくて。お邪魔じゃないなら一緒に入りたいな。思ったより、視線が痛くて・・・・・」
は苦笑して言った。ジョージは少し、心配そうな顔をしたが、すぐに笑顔になって、を中に入れた。
まだまだ懐かしい面子は登場です。