それから四日間、スネイプは毎日来た。その四日間のうち、がシリウスたちの話やリーマスの家に泊まる理由を聞く日は一日もなかった。そして、五日目の朝、がルーピンと朝食をとり終った直後、スネイプが家を訪ねてきた。
「やあ、セブルス。待ってたよ――、準備は出来てるんだろう?」ルーピンは振り向いて言った。ルーピンの思惑通り、は興味からルーピンの後にくっついて来ていた。
「出来てるけど、リーマスと一緒に行くんじゃないの?」は目を丸くした。
「ごめんね、まだ少し気分がすぐれなくてね・・・・・セブルスと一緒に行ってくれるかい?」
ルーピンが申し訳なさそうな顔をしてを見た。そんなルーピンの頼みを断れるはずはない。
「・・・・・うん」
スネイプはニコリともせず、ジッとを見つめた。
はルーピンに急かされながら自分の部屋から荷物を取ってきた。
「じゃあ、気を付けて」
ルーピンはわざわざ家の外まで見送ってくれた。
「いってきます」
は少し沈んだ気持ちで家を出発した。
スネイプはに何も言わずさっさと先を歩いていく。は少し早足でついていった。
「歩いて行くんですか?」
マグルたちがちらほら見える通りに出たとき、はたまらず聞いた。
「そうだ」スネイプは面倒くさそうに、前を向いたまま言った。
「あっそうですか」はボソリと不機嫌に言った。それでもスネイプは何も言わず、黙って歩いた。
はマグルが自分たちを不思議そうな目で見ているのに気付いた。スネイプが真っ黒いマントを相変わらずまとっているからだろうか。
そのまましばらく歩くと、赤レンガの、流行遅れの大きなデパートの前に立ち止まった。「パージ・アンド・ダウズ商会」と書いてある。は一年前、ジェームズに背負われて来たことがある。
「・ブラックならびにリリー・ポッターに面会に来た」
スネイプはガラス越しに醜いマネキンに話しかけた。次の瞬間、マネキンは小さく頷き、節に継ぎ目のある指で手招きした。
ガラスを突き抜けると込み合った受付に出た。小さな子供から老人までたくさんの人々がいた。
「ついてこい」
スネイプはにそう告げると、長いマントをひるがえして歩いた。
二人は階段で五階まで上がった。踊り場に「呪文性損傷」という札がかかっていた。そして、廊下の入り口に、小さな窓がついた両開きのドアがあり、癒者が出てきた。
「あら、お見舞いですか?一体、どなたに?」
その癒者は髪にティンセルの花輪を飾った、母親のような顔つきだった。
「・ブラックにだ」
スネイプはそっけなくそういうと、スタスタと中に入って行った。まるで、何回も来たことのあるような雰囲気だった。は置いてかれまい、と小走りでスネイプに追い付いた。
スネイプは一番奥のベッドで立ち止まると、カーテンをそっと開けた。はスネイプの脇からベッドを覗きこんだ。
「ママ?」
まるで眠っているようだった。
「生きているんですか?」
「死んではいない」
スネイプは意外に柔らかい声で答えた。
「リリーはどこにいるんですか?」はをジッと観察しながら言った。
「別の階だ」スネイプはリリーのところにはさらさら行く気がなさそうだった。
「会えないんですか?」
「さあな」スネイプはさっき出会った癒者に声をかけた。
「今日、ここに泊まることになっている・ブラックだが、預けてよろしいかな?」
スネイプは意外にも丁寧な口調で言った。癒者はあらかじめ伝えられていたのか、「良いですよ」と言った。
スネイプは癒者がそう言ったのを聞くと、挨拶なしに、部屋から出ていった。
「あの、私、どうすれば良いのですか?」
は優しそうな癒者に話しかけた。
「ここにいてもらって構いませんよ。他の患者さんを見舞わっても良いですし」癒者はにっこり笑った。
はしばらくを見ていたが、何も変化が起きそうにないので、ふと顔をあげた。すると、たった今入ってきた人物と目が合った。
「ネビル?」
は何故ネビルがここにいるのか、一瞬忘れていた。しかし、二年前、ネビル自身が両親は入院している、と言っていたのを思い出した。
「」
ネビルは少し顔が青ざめた。隣にいる人をチラチラと見ている。長い緑のドレスに、虫食いだらけの狐の毛皮を纏い、とがった三角帽子には紛れもなく本物のハゲタカの剥製がノッテイル帽子をかぶっていた。
「ネビル、お友達かえ?」その人は丁寧な口調で聞いた。そして、の顔をまじまじと見て、誰だかわかったようだった。
「あなたがどんな方だかは、もちろん存じていますよ。ネビルがあなたに何度か大変お世話になったようで。この子は良い子ですよ」ミセス・ロングボトムは、骨ばった鼻の上から、厳しく評価するような目でネビルを見下ろした。
「でも、この子は、口惜しいことに、父親の才能を受け継ぎませんでした」そして、奥の二つのベッドのほうにぐいと顔を向けた。
「『死喰い人』に拷問されたと聞きました」ネビルのお祖母さまは誇り高く頷いた。
「そうです。二人とも『闇祓い』だったのです」
はこのまま話しているのもどうかと思い、喫茶店に行くことにした。お昼を食べていなかった。
がお昼を食べて帰ってきたときにはネビルたちの姿はもうなかった。はのベッドの脇にあった椅子に座った。
「・ブラックさん、夕食が済みましたら、声をおかけ下さいね。隣にもう一台ベッドを出しますので」
振り向くとさっきの優しそうな癒者だった。は頷くと、グルッと部屋を見回した。意外に広いことが今分かった。
はまた母親に視線を戻した。しかし、彼女に何か変化があったとは思えなかった。
「心配でしょうが、大丈夫ですよ。つい、先日も意識が少し戻りましたから」
後ろから癒者が声をかけた。は母親の頬に少し触れた。
「ありがとうございます」
はボソリとそう言った。
セブルスはママの看病しかしたくない様子。笑