フォークスが入り口の上を浮かぶように飛んで、三人を待っていた。
ハリーはジニーを促して歩かせ、を支えながら、死んで動かなくなったバジリスクのとぐろを乗り越え、薄暗がりに足音を響かせ、トンネルへと戻ってきた。背後で石の扉が、シューッと低い音をたてて閉じるのが聞こえた。
暗いトンネルを数分歩くと、遠くの方からゆっくりと岩がずれ動く音が聞こえてきた。
「ロン!」
ハリーがジニーの頭ごしに叫んだ。
「ジニーは無事だ!ここにいるよ!」
ロンが、胸の詰まったような歓声をあげるのが聞こえた。三人は次の角を曲がった。崩れ落ちた岩の間に、ロンが作った、かなりおおきな隙間のむこうから、待ちきれないようなロンの顔が覗いていた。
「ジニー!」ロンが隙間から腕を突きだして、最初にジニーを引っ張った。
「生きてたのか!夢じゃないだろうな!いったい何があったんだ?」
ロンが抱きしめようとすると、ジニーはしゃくりあげ、ロンを寄せ付けなかった。
「でも、ジニー、もう大丈夫だよ」ロンがニッコリ笑いかけた。
「もう終わったんだよ、もう――あの鳥はどっから来たんだい?」
フォークスがジニーのあとから隙間をスイーッとくぐって現れた。
「ダンブルドアの鳥だ――ロン、を支えてくれないか?」ハリーはが隙間を楽に通れるように手助けした。
「!その傷は一体、どうしたんだい?それに、ハリー、どうして剣なんか持ってるんだ?」
ロンは隙間をくぐり抜けてきたハリーの手にした眩い武器をまじまじと見つめた。
「ここを出てから説明するよ」ハリーはジニーの方をチラッと横目で見ながら言った。
「でも――」
「あとにして」ハリーが急いで言った。
「の足をマダム・ポンフリーに見せないと――ロックハートはどこ?」
「あっちの方だ」
ロンはニヤッとして、トンネルからパイプへと向かう道筋を顎でしゃくった。
「調子が悪くてね。来て見てごらん」
フォークスの広い真紅の翼が闇に放つ、柔らかな金色の光に導かれ、四人はパイプの出口のところまで引き返した。ギルデロイ・ロックハートが一人でおとなしく鼻歌を歌いながらそこに座っていた。
「記憶をなくしてる。『忘却術』が逆噴射して、僕たちでなく自分にかかっちゃったんだ。自分が誰なのか、今どこにいるのか、ぼくたちが誰なのか、チンプンカンプンさ。ここに来て待ってるように言ったんだ。この状態で一人で放っておくと、怪我したりして危ないからね」
ロックハートは人のよさそうな顔で、闇を透かすようにして四人を見上げた。
「やあ、なんだか変わったところだね。ここに住んでいるの?」ロックハートが聞いた。
「いや」ロンはハリーの方にちょっと眉を上げて目配せした。
ハリーはかがんで、上に伸びる長く暗いパイプを見上げた。
「どうやって上まで戻るか、考えてた?」ハリーが聞いた。
「フォークスが私たちをダンブルドアの元へ連れていってくれるわ。前にダンブルドアが言っていたでしょう?不死鳥は忠実なのよ」
がそう言うとフォークスはスーッと四人の前に出て、羽をパタパタいわせた。
「つかまれって言っているようにみえるけど・・・・・」ロンが当惑した顔をした。
「フォークスは普通の鳥じゃない」ハリーはハッとしてみんなに言った。
「みんなで手をつながなきゃ――、僕につかまって。『組分け帽子』を持ってね。それで、の手にロンがつかまって、ジニーがロンの手につかまる。ロックハート先生は――」
「君のことだよ」ロンが強い口調でロックハートに言った。
「先生は、ジニーの空いている方の手につかまって」
ハリーは剣をベルトに挟んだ。はちょうどハリーに抱きつくような格好で、ハリーの肩につかまり、ハリーは手を伸ばして、フォークスの不思議に熱い尾羽をしっかりつかんだ。
全身が異常に軽くなったような気がして、次の瞬間、ヒューッと風を切り、五人はパイプの中を上に向かって飛んでいった。下の方にぶら下がっているロックハートが、「すごい!すごい!まるで魔法のようだ!」と驚く声が聞こえてきた。
「つらい?」
ハリーが少し痙攣しているようなに聞いた。
「少しだけ。でも、大丈夫。まだ我慢できる」
「我慢って・・・・・」ハリーは少し腹立たしげに言ったあと、押し黙った。
五人は「嘆きのマートル」のトイレの湿った床に着地した。ロックハートが帽子をまっすぐにかぶり直している間にパイプを覆い隠していた手洗い台がスルスルと元の位置に戻った。
マートルがじろじろと五人を見た。
「生きてるの」マートルはポカンとしてハリーに言った。
「そんなにがっかりした声を出さなくてもいいじゃないか」
ハリーは、メガネについたベトベトを拭いながら、真顔で言った。
「あぁ・・・・・わたし、ちょうど考えてたの。もしあんたが死んだら、わたしのトイレに一緒に住んでもらったら嬉しいって」
マートルは頬をポッと銀色に染めた。
「ウヘー!」トイレから出て、暗い人気のない廊下に立ったとき、ロンが言った。
「ハリー、マートルは君に熱を上げてるぜ!ジニー、ライバルだ!」
しかし、ジニーは声もたてずに、まだボロボロ涙を流していた。
「、歩けるかい?」
ハリーがだんだん歩きに遅れをとってきたに言った。
「大丈夫」
はそれだけ言って壁伝えに追い付いた。
「どこが?明らかに変じゃないか。顔色が悪いように見える」
ハリーの追及は厳しかったが、が返事をしないと、ハリーも何も言わなくなった。
「さあ、どこへ行く?」
ロンがとりなおすように、ジニーを心配そうに見ながら、言った。ハリーは無言で指で示した。
フォークスが金色の光を放って、廊下を先導していた。四人は急ぎ足で――は結局、ハリーに背負われながら――フォークスに従った。間もなくマクゴナガル先生の部屋の前に出た。
ロンがノックして、ドアを押し開いた。
怪我を負いながらも帰ってきました。