Basilisk バジリスク
リドルはフォークスと「組み分け帽子」をからかうように、チラッと見てその場を離れた。 そして、一対の高い柱の間で立ち止まり、ずっと上の方に、半分暗闇に覆われているスリザリンの石像の顔を見上げた。 横に大きく口を開くと、シューシューという音が漏れた――多分ヘビ語だろうとは見当をつけた。
「ハリー、リドルは何て?」
は小声で話しかけた。
「『スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。われに話したまえ』って」
ハリーは向きを変えて石像を見上げた。 スリザリンの巨大な石の顔が動いている。 恐怖に打ちのめされながら、二人は石像の口がだんだん広がって行き、ついに大きな黒い穴になるのを見ていた。 何かが、石像の口の中でうごめいていた。 何かが、奥の方からズルズルと這い出してきた。
「目を閉じるんだ!」
がその言葉に反応する前に、の目はハリーの手によって覆われていた。 そのとき、リドルの低い、シューッという声が聞こえてきた。
「リドルはなんて?」
が不安になって聞いた。
「『あいつらを殺せ』と」
そうハリーが言ったとき、バジリスクが二人に近づいてきたのを感じた。 二人の前上で破裂するようなシャーッシャーッという大きな音がした。 何か重いものがハリーにぶつかったらしく、鈍い音がした。 その後、狂ったようなシューシューという音と、何かがんのた打ち回って、柱を叩きつけている音が聞こえた。 は目を開けようとしたが、未だハリーの手が邪魔で見えない。 唸り声や、悲鳴や、何かがぶつかる音などを聞きながら、はハリーの手が退かされるのを待った。 そのとき、またリドルが蛇語を話すのが聞こえた。
、逃げるんだ!」
そして、いきなりハリーの手がはずされたかと思うと、はハリーに突き飛ばされた。 間一髪、の元いた場所はバジリスクの尾でへこんでいた。 はそのままバジリスクの顔の部分に視線を変えると、バジリスクの目からおびただしい血が流れているのに気が付いた。
、何か、何か方法を考えないと!」
はハリーにそう叫ばれて、自分の手の中にあるものをハリーに投げた、
「ハリー、組分け帽子を被るのよ!バジリスクは出来るだけ引き付けるわ」
そう言って、はバンッと大きな音を出し、バジリスクの注意を引き付けた。 そのとき、チラリとハリーが剣を持っているのを見た。
「ハリー、お願い、早く!」
危うくバジリスクの攻撃を避けながら、は叫んだ。 フォークスも応戦していた。 の頭はパニックで、逃げることも精一杯だった。 そのとき、またリドルが蛇語で何か言うのが聞こえ、はリドルの方に注意を向けてしまった。 それが間違いだった。 盲目とは言え、バジリスクはバジリスクだ。 油断したを見逃すはずもなく、に噛みついてきた。 は慌てて逃げようとしたが、ふくらはぎに焼けつくような痛みが走った。
!」
霞む視界の中で、ハリーが剣をバジリスクに差したのを見た。 バジリスクはドッと横様に床に倒れ、ヒクヒクと痙攣した。
!」
遠くでハリーが自分の名前を呼ぶのを聞きながら、は倒れていた。
・ブラック。まずは一人、死んだ」
リドルの声が頭の中で冷たく響いた。
「死んだ。ダンブルドアの鳥にさえそれがわかるらしい。鳥が何をしているか、分かるかい?泣いているよ」
はリドルの言葉に何も反応しなかった。 とにかく体が熱い。 それに、何故だか意識もはっきりしていた。
そして、ハリーの息をのむ音が妙にはっきりと聞こえた。
「そうか、忘れていた。、君は起死回生が出来た・・・・・」
突然、リドルの声がした。 は恐る恐る目を開けてみると、自分の体が光っているのに気が付いた。
「ハリー?」
はゆっくりとハリーの手に触れた。 ハリーの手にはのふくらはぎに刺さっていたと思われる、バジリスクの毒牙の破片が握られていた。

ハリーはひとまず安心したようだった。
「まあ、良い。一人も二人もあまり変わらない」
リドルが不敵な笑みを浮かべながら近付いてきた。 すると、激しい羽音とともに、フォークスが頭上に舞い戻って、ハリーの足元に何かをポトリと落とした――日記だ。 ほんの一瞬、ハリーもリドルもも日記を見つめた。 そして、ハリーは手に持っていたバジリスクの牙を、日記帳の真芯にズブリと突き立てた。 恐ろしい、耳をつんざくような悲鳴が長々と響いた。 日記帳からインクが激流のようにほとばしり、ハリーの手の上を流れ、床を浸した。 リドルは身をよじり、悶え、悲鳴をあげながらのたうち回って・・・・・消えた。 ハリーの杖が床に落ちてカタカタと音をたて、そして静寂が訪れた。 インクが日記帳からしみ出し、ポタッポタッと落ち続ける音だけが静けさを破っていた。 バジリスクの猛毒が、日記帳の真ん中を貫いて、ジュウジュウと焼けただれた穴を残していた。
「ハリー、剣は持って帰りましょう」
が静かにそう言うと、ハリーは軽く頷き、バジリスクの首から眩い剣を引き抜いた。
、大丈夫?」
ハリーは杖と「組分け帽子」と剣を持って、の隣に座った。
「うん」
は静かにそう答えた。
「秘密の部屋」の隅の方から微かなうめき声が聞こえてきた。 ジニーの声だ。 ハリーが駆け寄って行った。 はクイッと首だけ動かして、ジニーを見た。 ジニーは身を起こすと、トロンとした目で、バジリスクの巨大な死骸を見、ハリーを見、血に染まったローブをはおって倒れているに目をやった。 そして、ハリーの手にある日記を見た。 途端にジニーは身震いして大きく息を呑んだ。 それから涙がどっと溢れた。
「あぁ――あたし、朝食のときにあなたたちに打ち明けようとしたの。でも、パーシーの前では、い、言えなかった。ハリー、あたしがやったの――でも、あたし――そ、そんなつもりじゃなかった。う、嘘じゃないわ――リ、リドルがやらせたの。――あたしに乗り移ったの――そして――いったいどうやってあれをやっつけたの――あんなすごいものを?リドルはど、どこ?リドルが日記帳から出てきて、そのあとのことは、お、覚えてないわ――」
「もう大丈夫だよ」
から、ハリーが日記を持ち上げてジニーに見せているのが見えた。
「リドルはおしまいだ。見てごらん!リドル、それにバジリスクもだ。おいで、ジニー。早くここを出よう――」
「あたし、退学になるわ!」
「大丈夫よ」
の静かな声はジニーの涙を少しだけ止まらせた。
「ダンブルドア先生は分かってくださるわ。犯人はジニー、あなたじゃなくリドルよ」
はハリーに支えられて立ち上がった。 少しだけ、刺された所が痛んだ。
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戦いが終わりました^^