Anger 怒り
リドルは声をあげて笑った。 似つかわしくない、冷たい甲高い笑いだった。
「自分で言うのもどうかと思うけど、僕は必要となれば、いつでも誰でも惹き付けることができた。だからジニーは、僕に心を打ち明けることで、自分の魂を僕に注ぎこんだ。ジニーの魂、それこそ僕の欲しいものだった。僕はジニーの心の深層の恐れ、暗い秘密を餌食にして、だんだん強くなった。おチビちゃんとは比較にならないぐらい強力になった。十分に力が満ちたとき、僕の秘密をウィーズリーのチビに少しだけ与え、僕の魂をおチビちゃんに注ぎ込み始めた・・・・・」
「それはどういうこと?」 ハリーが聞いた。
「つまりね、ジニーが『秘密の部屋』を開けたのよ。ハグリッドの雄鶏を殺したのも、壁に脅迫の文字を書いたのも、『スリザリンの蛇』をハーマイオニーたちに仕掛けたのも、すべてジニーがトムに操られて行ったのよ」
「まさか」
ハリーがに向かって激しく首を振った。
「そのまさかさ」
すると、リドルが二人の会話に入ってきた。
「ただし、一点だけ補足しよう、。ジニーは初めのうちは、自分がやっていることをまったく自覚していなかった。おかげで、なかなか面白かった。しばらくして、日記に何を書き始めたか、君たちに読ませてやりたかったよ・・・・・前よりずっと面白くなった・・・・・。親愛なるトム――」
は腹立たしく、悔しいので、トムをにらみつけるだけでは満足出来なかった。 それでもリドルはそしらぬ顔で、ジニーの書きこみを読みあげ始めた。
あたし、記憶喪失になったみたい。ローブが鶏の羽だらけなのに、どうしてそうなったのかわからないの。ねえ、トム・ハロウィーンの夜、自分が何をしたか覚えてないの。でも、猫が襲われて、あたしのローブの前にペンキがベットリついてたの。ねえ、トム、パーシーがあたしの顔色が良くないって、なんだか様子がおかしいって、しょっちゅうそう言うの。きっとあたしを疑ってるんだわ・・・・・。今日もまた一人襲われたのに、あたし、自分がどこにいたか覚えてないの。トム、どうしたらいいの?あたし、気が狂ったんじゃないかしら・・・・・。トム、きっとみんなを襲ってるのは、あたしなんだわ!
隣のハリーから怒りのオーラが出ているのを感じた。
「バカなジニーのチビが、日記を信用しなくなるまでにずいぶん時間がかかった。しかし、とうとう変だと疑い始め、捨てようとした。そこへ、ハリー、、君たちが登場した。僕はが日記に触れて、その上君の魔力が強かったおかげで君と実際に出会うことが出来た。そして君もジニーと同じようにこの日記を他の人に渡した。しかし、僕は日記を手放されても君の中にいることが出来た。そう、そうしてハリー、日記は君の手に渡った。僕は君に興味を持っていた・・・・・」
「それじゃ、どうして僕に興味を持っていたんだ?」 ハリーが荒々しく言った。
「そうだな。ジニーがハリー、君のことをいろいろ聞かせてくれたからね。君の素晴らしい経歴をだ」
リドルの目がハリーの額にある稲妻形の傷を舐めるように見た。
「もちろん、僕はにも興味を持っていた。しかし、ジニーは恋敵ののことはあまり話したがらなかった。それに僕はに接触することが出来た。そう、だから僕のターゲットは自然とハリー、君に決まった。僕は君を信用させるため、あのウドの大木のハグリッドを捕まえた有名な場面を見せてやろうと決めた」
「ハグリッドは僕の友達だ」
ハリーはわなわなと震えた。
「それなのに、君はハグリッドをはめたんだ。そうだろう?僕は君が勘違いしただけだと思っていたのに・・・・・」
リドルはまた甲高い笑い声をあげた。
「ハリー、僕の言うことを信じるか、ハグリッドのを信じるか、二つに一つだ。アーマンド・ディペットじいさんが、それをどういう風にとったか、わかるだろう。一人はトム・リドルという、貧しいが優秀な生徒。孤児だが勇敢そのものの模範生。もう一人は、図体ばかりでかくて、ドジなハグリッド。一週間おきに問題を起こす生徒だ。狼人間の仔をベッドの下で育てようとしたり、こっそり抜け出して『禁じられた森』に行ってトロールと相撲を取ったり。しかし、あんまり計画通りに運んだので、張本人の僕が驚いたことは認めるよ。誰か一人くらい、ハグリッドが『スリザリンの継承者』ではありえない、と気づくに違いないと思っていた。この僕でさえ『秘密の部屋』について、できるかぎりのことを探りだし、秘密の部屋の入り口を発見するまでに五年もかかったんだ・・・・・ハグリッドに、そんな脳みそがあるか!そんな力があるか!」
「たった一人、変身術のダンブルドア先生だけが、ハグリッドは無実だと考えたらしい。ハグリッドを学校に置き、家畜番、森番として訓練するようにディペットを説得した。そう、たぶんダンブルドアには察しがついていたんだ。他の先生方はみな僕がお気に入りだったが、ダンブルドアだけは違っていたようだ」
「きっとダンブルドアは、君のことをとっくにお見通しだったんだ」 ハリーが唸った。
「そうだな。ハグリッドが退学になってから、ダンブルドアは、たしかに僕をしつこく監視するようになった」
リドルはこともなにげに言った。
「僕の在学中に『秘密の部屋』を再び開けることは危険だと、僕には分かっていた。 しかし、探索に費やした長い年月をむだにするつもりはない。日記を残して、十六歳の自分をその中に保存しようと決意した。いつか、時が巡ってくれば、誰かに僕の足跡を追わせて、サラザール・スリザリンの、崇高な仕事を成し遂げることができるだろうと」
「君はそれを成し遂げてはいないじゃないか」
ハリーが勝ち誇ったように言った。
「今度は誰も死んではいない。猫一匹たりとも。あと数時間もすればマンドレイク薬が出来上がり、石にされたのもは、みんな無事、元に戻るんだ」
「まだ言ってなかったかな?」 リドルが静かに言った。
「『穢れた血』の連中を殺すことは、もう僕にとってはどうでもいいことだって。この数ヶ月間、僕の新しい狙いは――君たちだった
は空恐ろしくなり、ギュッとハリーの手を握った。
「それからしばらくして、僕の日記をまた開いて書き込んだのが、君ではなくジニーだった。僕はどんなに怒ったか。ジニーは君が日記を持っているのを見て、パニック状態になった――君が日記の使い方を見つけてしまったら?僕が君に、ジニーの秘密を全部しゃべってしまうかもしれない。もっと悪いことに、もし僕が君に、鶏を絞め殺した犯人を教えたらどうしよう?――そこで、バカな小娘は、君たちの寝室に誰もいなくなるのを見計らって、日記を取り戻しに言った。しかし、僕には自分が何をすべきかがわかっていた。君がスリザリンの継承者の足跡を確実に追跡していると、僕にははっきりわかっていた。ジニーから君の事をいろいろ聞かされていたから、どんなことをしてでも君は謎を解くだろうと僕にはわかっていた――君の仲良しの一人が襲われたのだからなおさらだ。それに、君が蛇語を話すというので、学校中が大騒ぎだと、ジニーが教えてくれた・・・・・」
はだんだんとリドルの体が濃くなっていくのに気づいた――興奮のせいなのか。
「そこで僕は、ジニーに自分の遺書を壁に書かせ、ここに降りてきて待つように仕向けた。ジニーは泣いたり喚いたりして、とても退屈だったよ。しかし、この子の命はもうあまり残されていない。あまりにも日記に注ぎ込んでしまった。つまりこの僕に。僕は、おかげでついに日記を抜けだせるようにまでなった。僕とジニーとで、君たちが現れるのを待っていた。君たちが来ることはわかっていたよ。さて、ハリー・ポッター、僕は君にいろいろ聞きたいことがある」
「何を?」
の手を握ったハリーの手に力が入った。
「そうだな」
リドルは愛想よく微笑しながら言った。
「これといって特別な魔力も持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った?ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君のほうは、たったの一つの傷痕だけで逃れたのは何故か?」
「僕がなぜ逃れたのか、どうして君が気にするんだ?」 ハリーは慎重に言った。
「ヴォルデモート卿は君よりあとに出てきた人だろう」
「ヴォルデモートは」リドルの声は静かだ。
「僕の過去であり、現在であり、未来なのだ・・・・・、ハリー・ポッターよ」
Back Top Next
二人ともリドルに怒り心頭です。