Tom トム
二人は奥に向かって歩き、もう一つの曲がり角をそっと曲がった途端、遂に前方に固い壁が見えた。 二匹のヘビが絡み合った彫刻が施してあり、ヘビの目には輝く大粒のエメラルドがはめこんであった。
「またヘビだわ・・・・・」
がそう呟く横で、ハリーが蛇語だろうと思われる何かを二匹のヘビに言った。 すると、壁が二つに裂け、絡み合っていたヘビが分かれ、両側の壁がスルスルと滑るように見えなくなった。 はハリーと一緒に恐る恐る足を踏み出した。
二人は細長く奥へと延びる、薄明かりの部屋の端に立っていた。 またしてもヘビが絡み合う彫刻を施した石の柱が上へ上へとそびえ、暗闇に吸い込まれて見えない天井を支え、妖しい緑がかった幽明の中に、黒々とした影を落としていた。 ハリーとは杖を構えながら、左右一対になった蛇の柱の間を前進した。 最後の一対の柱のところまで来ると、部屋の天井に届くほど高くそびえる石像が、壁を背に立っているのが目に入った。 巨大な石像の顔は、年老いた猿のような顔だった。 そのまま目線を下げていくと、灰色の巨大な足の間に、燃えるような赤毛の、黒いローブの小さな姿が、うつぶせに横たわっていた。 が声をあげる前に、ハリーが先に動いた。
「ジニー!」
ハリーがそばに駆け寄り、膝をついて名を呼んだ。 ハリーが小声でジニーに語りかけているのを横目に、は柱の影に誰かがいるのを見つけた。 は頭をフル回転させ、その人物を認識しようとした。
「その子は目を覚ましはしない」
トム・リドルが優雅に柱にもたれかかって言った。
トム――トム・リドル?」
の方からトムが頷くのが分かった。
「目を覚まさないってどういうこと?」
ハリーが絶望的な声を出した。
「ジニーはまさか――まさか――?」
「その子はまだ生きている。しかし、かろうじてだ。――、君もそんなところにいないでこっちにおいで」
はゆっくりとハリーの方に歩いていった。
「そう、それでいい」
トムは満足そうな微笑みをもらした。 ハリーはまだ良くわからない、という顔をして、トムに訪ねた。
「君はゴーストなの?」
がハリーと並び、そこからリドルを見ると、確かに輪郭が奇妙にぼやけている。
「記憶だよ」 リドルが静かに言った。
「日記の中に、五十年間残されていた記憶だ」
リドルは、石像の巨大な足の指のあたりの床を指差した。 そのとき、突然が立っていた地面にポッカリと穴が空いて、は必死に手を伸ばし、ハリーがとっさに差し出してくれた手につかまった。
、君にはもう感心するばかりだった。僕が君の中に侵入出来たのも君の魔力が強かったお陰だ」
リドルがその様子を見て言った。 はどうにか穴からはいだし、リドルを見上げた。
「一体、どういうこと?なんでと君が・・・・・?」
ハリーは訳が分からない、と首を振ると杖を拾うため、辺りを見回したが、杖がない。
「君、知らないかな、僕の――」
「杖ならリドルが持っているわ」
がリドルから視線を外さずに言った。
「そう、トム、ありがとう」
ハリーは手を、杖の方に伸ばした。 リドルが口元をきゅっと上げて微笑んだ。 じっとハリーを見つめ続けたまま、所在なげに杖をクルクル回し続けている。
「聞いているのか」
ハリーは急き立てるように言った。
「ここを出なきゃいけないんだよ!もしもバジリスクが来たら・・・・・」
「呼ばれるまでは、来やしない」
リドルが落ち着き払って言った。
「なんだって?さあ、杖をよこしてよ。必要になるかもしれないんだ」
リドルの微笑みがますます広がった。
「君には必要にはならないよ」
「どういうこと?必要にはならないって?」
「ハリー、トム・リドルはまさしく私たちが相手にすべし敵なのよ」
はハリーとリドルの会話を断ち切った。
「え?」
ハリーが驚いてリドルから目を離し、に向けた。
「敵だなんて、酷いな。僕はいつも君の相談に乗ってあげた」
「あなたと会ったのはまだ三回よ」
がそう言うとリドルは肩をすくめ、ハリーの杖をポケットにしまった。
「さて、ハリー。僕はずっと君と話すチャンスを待っていた。ずっと待ち望んでいた」
「いい加減にしてくれ」 ハリーはイライラと言った。
「君には分かっていないようだ。今、僕たちは『秘密の部屋』の中にいるんだよ。話ならあとでできる。敵だろうが、なんだろうが、ここから出なきゃいけないんだ」
「ハリー、それは出来ない」
ハリーが驚いてリドルを見た。
「ハリー、敵ってことはね、つまり、リドルがこの事件の犯人なのよ」
ハリーは口を動かすだけで声が出なかった。 やっと切り出した言葉はジニーについてだった。
「ジニーはどうしてこんなふうになったの?」
「そう、それは面白い質問だ」 リドルが愛想よく言った。
「しかも話せば長くなる。ジニー・ウィーズリーがこんなふうになったほんとうの原因は、誰なのかわからない目に見えない人物に心を開き、自分の秘密を洗いざらい打ち明けたことだ」
「言っていることがわからないけど?」
「あの日記は、僕の日記だ。ジニーのおチビさんは何ヶ月も何ヶ月もその日記にバカバカしい心配事や悩みを書き続けた。兄さんたちがからかう、お下がりの本やローブで学校に行かなきゃならない、それに――」
リドルの目がキラッと光った。
「有名な、素敵な、偉大なハリー・ポッターが、自分のことを好いてくれることは絶対にないだろうとか、ハリー・ポッターはいつも・ブラックと一緒にいて付き合っているのだろうとか、美しく、麗しく、頭の良い・ブラックには自分はたちうちできないだろうとか・・・・・」
はジロジロと見るリドルの視線から顔をそらした。
「十一歳の小娘のたわいない悩み事を聞いてあげるのは、まったくうんざりだったよ」
リドルの話は続く。
「でも僕は辛抱強く返事を書いた。同情してあげたし、親切にもしてあげた。ジニーはもう夢中になった。『トム、あなたぐらい、あたしのことをわかってくれる人はいないわ・・・・・なんでも打ち明けられるこの日記があってどんなに嬉しいか・・・・・まるでポケットの中に入れて運べる友達がいるみたい・・・・・』」
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悪いやつ=トム・リドル?笑