The reason 理由
職員室のドアがバタンと開き、当惑した顔、おびえきった顔で先生方が次々と部屋に入ってくるのが見えた。 やがて、マクゴナガル先生がやってきた。
「とうとう起こりました」
シンと静まった職員室でマクゴナガル先生が話し出した。
「生徒が一人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』そのものの中へです」
フリットウィック先生が思わず悲鳴をあげた。 スプラウト先生は口を手で覆った。 スネイプは椅子の背をぎゅっと握り締め、「なぜそんなにはっきり言えるのかな?」と聞いた。
「『スリザリンの継承者』がまた伝言を書き残しました」
マクゴナガル先生は蒼白な顔で答えた。
「最初に残された文字のすぐ下にです。『彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう』と新たな書き込みがありました」
フリットウィック先生はワッと泣き出した。
「誰ですか?」
腰が抜けたように、椅子にへたり込んだマダム・フーチが聞いた。
「どの子ですか?」
「ジニー・ウィーズリー」
マクゴナガル先生が言った。 ロンが音もなくへなへなと崩れ落ちるのを感じた。
「全校生徒を明日、帰宅させなければなりません」 マクゴナガル先生だ。
「ホグワーツはこれでおしまいです。ダンブルドアはいつもおっしゃっていた・・・・・」
職員室のドアがもう一度バタンと開いた。 それは、ロックハートだった。 ニッコリ微笑んでいるではないか。
「大変失礼しました――ついウトウトと――何か聞き逃してしまいましたか?」
先生方が、どう見ても憎しみとしかいえない目つきで、ロックハートを見ていることにも気づかないらしい。 スネイプが一歩進みでた。
「なんと、適任者が」 スネイプが言った。
「まさに適任だ。ロックハート、女子学生が怪物に拉致された。『秘密の部屋』そのものに連れ去られた。いよいよあなたの出番が来ましたぞ」
ロックハートは血の気が引いた。
「その通りだわ、ギルデロイ」
スプラウト先生が口を挟んだ。
「昨夜でしたね、たしか、『秘密の部屋』への入り口がどこにあるのか、とっくに知っているとおっしゃっていたのは?」
「私は――その、私は――」
ロックハートはわけのわからない言葉を口走った。
「そうですとも。『部屋』の中に何がいるか知っていると、自信たっぷりにわたしに話しませんでしたか?」
フリットウィック先生が口を挟んだ。
「い、言いましたか?覚えていませんが・・・・・」
「我輩はたしかに覚えておりますぞ。ハグリッドが捕まる前に、自分が怪物と対決するチャンスがなかったのは、残念だとかおっしゃいましたな」 スネイプが言った。
「何もかも不手際だった、最初から、自分の好きなようにやらせてもらうべきだったとか?」
ロックハートは石のように非情な先生方の顔を見つめた。
「私は・・・・・何もそんな・・・・・あなたの誤解では・・・・・」
「それでは、ギルデロイ、あなたにお任せしましょう」 マクゴナガル先生が言った。
「今夜こそ絶好のチャンスでしょう。誰にもあなたの邪魔をさせはしませんとも。お一人で怪物と取り組むことができますよ。お望み通り、お好きなように」
ロックハートは絶望的な目で周りをジーッと見つめていたが、誰も助け舟を出さなかった。 今のロックハートはハンサムからは程遠かった。 唇はワナワナ震え、歯を輝かせたいつものニッコリが消えた顔は、うらなり瓢箪のようだった。
「よ、よろしい」 ロックハートが言った。
「へ、部屋に戻って、し――支度をします」
ロックハートが出て行った。
「さてと」
マクゴナガル先生は鼻の穴を膨らませて言った。
「これで厄介払いができました。寮監の先生方は寮に戻り、生徒に何が起こったかを知らせてください。明日一番のホグワーツ特急で生徒を帰宅させる、とおっしゃってください。他の先生方は、生徒が一人たりとも寮の外に残っていないよう見回ってください」
先生たちは立ち上がり、一人また一人と出て行った。

その日の午後、談話室はかつてないほどに静まりかえっていた。 日没近く、フレッドとジョージは、そこにじっとしていることがたまらなくなって、寝室に上がって行った。
「ジニーは何か知ってたんだよ」
職員室の洋服掛けに隠れて以来、初めてロンが口をきいた。
「だから連れて行かれたんだ。パーシーのバカバカしい何かの話じゃなかったんだ。何か『秘密の部屋』に関することを見付けたんだ。きっとそのせいでジニーは――」
ロンは激しく目をこすった。
「だって、ジニーは純血だ。他に理由があるはずがない」
「ねぇ・・・・・」
は痛々しいロンに同情しながら言った。
「もし、ジニーが生きているとしたら『秘密の部屋』に行く価値はあるはずだわ。それに、たとえ最悪の場合でも――」
は声をひそめた。
「リリーのように奇跡が起きるかもしれない」
ハリーとロンはまじまじとを見て頷いた。 が幼いころにしたと言われる行為はもしかしたら、嘘かもしれないが、とにかく何かをしたいという思いで三人は顔を寄せてロックハートと共に「秘密の部屋」に行くことにした。 グリフィンドール生はすっかり落ち込み、三人が談話室を横切って、肖像画の出入り口から出て行くのを、誰も止めはしなかった。 ロックハートの部屋に向かって歩くうちにあたりが闇に包まれはじめた。ロックハートの部屋の中は取り込み中らしい。 カリカリ、ゴツンゴツンに加えて慌ただしい足音が聞こえた。 ハリーがノックすると、中が急に静かになった。 それからドアがほんの少しだけ開き、ロックハートの目が覗いた。
「あぁ・・・・・ポッター君・・・・・ウィーズリー君・・・・・ブラックさん・・・・・」
ドアがまたほんのわずか開いた。
「私は今、少々取り込み中なので、急いでくれると・・・・・」
「先生、僕たち、お知らせしたいことがあるんです」とハリーが言った。
「先生のお役に立つと思うんです」
「あー――いや――今はあんまり都合が――」
やっと見える程度のロックハートの横顔が、非常に迷惑そうだった。
「つまり――いや――いいでしょう」
ロックハートはドアを開け、三人は中に入った。
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ロックハートの部屋に侵入です。