明日になれば、自分たちが何もしなくても、すべての謎がとけるだろうと思われたが、三人は何かをしないではいられなかった。
しかし、先生の目が光っている中でマートルに会うのは不可能だった。
午前の授業もなかば終わり、次の「魔法史」の教室まで引率していたのがギルデロイ・ロックハートだった。
「私の言うことをよく聞いておきなさい」
生徒を廊下の曲がり角まで引率してきたロックハートが言った。
「哀れにも石にされた人たちが最初に口にする言葉は『ハグリッドだった』です。まったく、マクゴナガル先生が、まだこんな警戒措置が必要だと考えていらっしゃるのには驚きますね」
「その通りです、先生」
ハリーがそう言ったので、ロンは驚いて教科書を取り落とし、はあんぐりと口を開けてハリーを見た。
「どうも、ハリー」
ハッフルパフ生が、長い列を作って通り過ぎるのをやり過ごしながら、ロックハートが優雅に言った。
「つまり、私たち、先生というものは、いろいろやらなければならないことがありましてね。生徒を送ってクラスに連れて行ったり、一晩中見張りに立ったりしなくたって手一杯ですよ」
「その通りですね、先生」
はハリーの企みが分かり、ニヤリと笑ってロックハートに相槌した。
「先生、引率はここまでにしてはいかがですか。あと一つだけ廊下を渡ればいいんですから」
ロンがピンときてうまくつないだ。
「実は、ウィーズリー君、私もそうしようかと思う。戻って次の授業の準備をしないといけないんでね」
そしてロックハートは足早に行ってしまった。
「授業の準備が聞いてあきれる」
ロンがフンと言った。
「髪をカールしに、どうせそんなとこだ」
グリフィンドール生を先に行かせ、三人は脇の通路を駆け下り、「嘆きのマートル」のトイレへと急いだ。
しかし、そんなにうまくはいかなかった。
「ポッター!ウィーズリー!ブラック!何をしているのですか?」
マクゴナガル先生が、これ以上固くは結べまいと思うほど固く唇を真一文字に結んで立っていた。
「あの、先生、すみません――どうしてもハーマイオニーに会いたくて、それで、マンドレイクがもうすぐ採れるから、心配しないようにって、そう言おうと思ったんです」
は出来るだけ、心からそう思っている感じを出そうと頑張った。
マクゴナガル先生はから目を離さなかった。
一瞬、は先生の雷が落ちるかと思ったが、先生の声は奇妙にかすれていた。
「そうでしょうとも」
は先生のビーズのような目に、涙がキラリと光るのを見つけた。
「そうでしょうとも。襲われた人たちの友達が、一番辛い思いをしてきたことでしょう・・・・・よくわかりました。ブラック、もちろん、いいですとも。ミス・グレンジャーのお見舞いを許可します。ビンズ先生には、私からあなたたちの欠席の事をお知らせしておきましょう。マダム・ポンフリーには、私から許可が出たと言いなさい」
三人は罰則を与えられなかったことが、半信半疑のままその場を立ち去った。
「あれは、君の作り話の中でも最高傑作だったぜ」
ロンが熱を込めて言った。
こうなれば、医務室に行って、マダム・ポンフリーに「マクゴナガル先生から許可をもらって、ハーマイオニーの見舞いにきた」と言うほかはない。
マダム・ポンフリーは三人を中に入れたが渋々だった。
「でも、バジリスクが襲ったなんて誰が信じてくれる?秘密の部屋の入り口だってわからないのに」
さっきの話の続きのようにロンがハーマイオニーを見ながら言った。
しかし、ハリーはロンの話は聞いているものの、ハーマイオニーの右手に興味を持ったようだった。
くしゃくしゃになった紙切れを握り締めている。
三人はマダム・ポンフリーに気付かれないようにハーマイオニーの手から紙切れを取り出した。
が探し出したバジリスクについて載っていた本の中の破れたページはハーマイオニーの手の中にあった。
そして、脇の余白にハーマイオニーの筆跡で「パイプ」と書かれていた。
「パイプだ」
ハリーが言った。
「パイプだよ、やつは配管を使ってたんだ。僕はやつの蛇語を壁の外から聞いていたんだ」
ロンは突如ハリーの腕をつかんだ。
「『秘密の部屋』への入り口だ!」
ロンの声がかすれている。
「もしトイレの中だったら?もし、あの――」
「――『嘆きのマートル』のトイレだったら!」
が続けた。
信じられないような話だった。
身体中を興奮が走り、三人はじっと座っていた。
「・・・・・ということは」
「この学校で蛇語を話せるのは、僕だけじゃないはずだ。『スリザリンの継承者』も話せる。そうやってバジリスクを操ってきたんだ」
「これからどうする?」
は意気揚々と言った。
「すぐにマクゴナガル先生のところへ行く?」
「職員室へ行こう」
ハリーが弾けるように立ち上がった。
「あと十分で、マクゴナガル先生が戻ってくるはずだ。まもなく休憩時間だ」
三人は階段を下りた。
どこかの廊下でぐずぐずしているところを、また見つかったりしないよう、まっすぐに誰もいない職員室に行った。
広い壁を羽目板飾りにした部屋には、黒っぽい木の椅子がたくさんあった。
ハリーとロンとは興奮で座る気になれず、室内を往ったり来たりして待った。
ところが休憩時間のベルが鳴らない。かわりに、マクゴナガル先生の声が魔法で拡声され、廊下に響きわたった。
「生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まり下さい」
ハリーがクルッと振り向き、ロンとを見比べた。
「また襲われたのか?今になって?」
「どうしよう?」
が心配そうに言った。
「寮に戻るの?」
「いや」
ハリーは素早く辺りを見回し、左側にやぼったい洋服掛けがあって、先生方のマントがぎっしり詰まっていた。
「さあ、この中に。いったい何が起こったのか聞こう。それから僕たちの発見した事を話そう」
三人はその中に隠れて、頭の上を何百人という人が、ガタガタ移動する音を聞いていた。
すべての謎が解けました!