Spider 蜘蛛
夜、九時、はスネイプに連れられ、彼の教室に入った。
「処罰は何をするのでしょうか」
はぶっきらぼうにそう言った。 スネイプにつかまったら、ハリーたちがクモの跡を追跡し始める時間には間に合わないのは分かりきったことだ。
「大鍋を磨きたまえ。魔法はなしだ。道具はそこにおいてある」
スネイプはそっけなくそういって、自分は教壇の机でレポートの採点を始めた。 はスネイプの方を見ないように黙々と作業を進めた。 考えることはたくさんある。 しかし、が思った以上に沈黙は続かなかった。
「『秘密の部屋』についてこれ以上、首を突っ込むのはやめたまえ」
スネイプから話しかけてきた。 はむっとして言った。
「首など突っ込んでいませんが」
は採点から顔を上げたスネイプと目が合った。 スネイプは不可思議な表情でには計り知れなかった。
「作業を続けたまえ」
はそれ以降、スネイプと話すことはなかった。 作業が終わったのは十二時を回った頃だった。 スネイプはまたを引き連れてマクゴナガル先生を呼びに言った。 マクゴナガル先生は別にうっとうしがる様子もなく、スネイプからを引き渡された後、グリフィンドール塔まで一緒について来た。
「おやすみなさい」
は先生に頭を下げて談話室に通じるドアを閉めた。 談話室を見回すと、人気はなく、ハリーとロンはもう行ってしまったことがわかった。 は談話室で待っているかどうか考えた後、寝室に引き上げることにした。 ハリーたちがいつ帰ってくるかなど、わかるはずがない。
翌日、いつもより少し早めに起きて、は談話室でハリーとロンが出てくるのを待った。 案の定、ハリーとロンは普段より少し遅めに起きてきた。
「おはよう、二人とも」
が声をかけた。
「何かわかった?」
がそういうと、ハリーとロンは大広間に向かいながら少し声をひそめて話し始めた。
「森の中でアラゴグっていう大きな蜘蛛にハグリッドは会わせたかったみたい。彼は五十年前、トイレで女の子が見つかったって言ってた」 ハリーが言った。
「それで、アラゴグはハグリッドに育てられ、ハグリッドのお陰で妻を見つけ、ハグリッドのお陰で大家族になった」
はため息をついた。
「ハグリッドらしいわ・・・・・でも彼は『秘密の部屋』に住む怪物ではないんでしょう?」
「そうさ。だけど、僕たちを食べようとしたんだ!」
はびっくりしてロンを見た。
「食べようとしたの?」
「したさ!」
ロンはまだコンプレックスのようで、それ以降、口を閉じてしまった。
「気にしないで、。昨日からあんな感じだし。それと、アラゴグは『秘密の部屋』に住む怪物についても教えてくれた」
は目を輝かしてハリーを見た。
「蜘蛛の仲間が何よりも恐れる、太古の生き物だ」
「それで?」
は先を急かしたが、ハリーは肩をすくめただけだった。
「教えてくれなかった。ハグリッドにも教えたことがないらしい」
は少し落胆したが、気をとりなおして言った。
「少し、調べてみるわ」
「君がいて助かるよ」
ハリーはホッとした表情だ。
「それで、僕たち帰って来てから考えたんだ。もし、五十年前に死んだ女の子が、それから一度もトイレを離れなかったとしたら?まだそこにいるとしたら――」
「まさか、『嘆きのマートル』のことを言っているの?」
は大きく目を見開いた。
「そうさ。他にトイレに住み着く物好きなんていないだろ?」
ロンが嫌味ったらしく言った。 三人はいつの間にか大広間に着いていた。 そして、グリフィンドールの席に着くとロンが言った。
「僕たち、あのトイレに何度も入ってたんだぜ。その間、マートルはたった小部屋三つしか離れていなかったんだ。あのときなら聞けたのに、今じゃなぁ・・・・・」
先生の目を盗んで、マートルと話すなど、不可能だった。 ところが、その日最初の授業「変身術」で起きた出来事のおかげで、数週間ぶりに「秘密の部屋」など頭から吹っ飛んだ。 授業が始まって十分もたったころ、マクゴナガル先生が、一週間後の六月一日から期末試験が始まると発表したのだ。
試験?
シェーマス・フィネガンが叫んだ。
「こんなときにまだ試験があるんですか?」
そのとき、大きなおとが鳴り響いた。 ネビル・ロングボトムが杖を取り落とし、自分の机の脚を一本消してしまった音だった。 マクゴナガル先生は、杖の一振りで脚を元通りにし、シェーマスの方に向き直ってしかめっ面をした。
「こんなときでさえ学校を閉鎖しないのは、みなさんが教育を受けるためです」 先生は厳しく言った。
「ですから、試験はいつものように行います。みなさん、しっかり復習なさっていることと思いますが」
教室中が時不満たらたらの声で溢れ、マクゴナガル先生はますます恐いしかめっ面をした。
「ダンブルドア校長のお言いつけです。学校はできるだけ普通通りにやって行きます。つまり、私が指摘するまでもありませんが、この一年間に、みなさんがどれだけ学んだのかを確かめるということです」
その後の授業は以外、誰一人として課題である二羽の白ウサギをスリッパに変えることは出来なかった。 はきっちり十点をグリフィンドール寮に加算すると、ハリーとロンに小声で言った。
「魔法史以外なら勉強は手伝ってあげる。落第点を取らないようにポイントだけでも勉強しましょ」
ハリーとロンはホッとした表情でに感謝した。
「ありがとう。君に足を向けて寝られないよ」
ロンが大真面目にそう言った。 はクスリと笑うと、また真面目な顔になって言った。
「ハリー、それでお願いがあるの。パパたちにアラゴグが恐れた太古の生き物について聞いてほしいの。太古の生き物について載っている本は見つけたんだけど、どうしてかページが破けているのよ。バジリスクという生き物のページが。だから教科書に載っていたんだけどよくわからない、って感じで聞いてくれないかしら?朝に見た感じでは他の本には載ってないのよ。だから、ね?お願い」
ハリーもロンも正直言っての太古生物についての本を見つけたスピードには驚いた。 しかし、余計なことは言わず、ハリーがのお願いを承諾した。 「秘密の部屋」に生きる怪物の正体を知るのはアラゴグしかいないから、ジェームズやシリウスに聞いても大丈夫だと思ったのだ。
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学年末テストは余裕ですか!?