「さて、ダンブルドア。理事たちは、あなたが退くときが来たと感じたようだ。ここに『退職命令』がある――十二人の理事が全員署名している。残念ながら、私ども理事は、あなたが現状を掌握できていないと感じておりましてな。これまでいったい何回襲われたというのかね?今日の午後にはまた二人。そうですな?この調子では、ホグワーツにはマグル出身者は一人もいなくなりますぞ。それが学校にとってはどんなに恐るべき損失か、我々すべてが承知しておる」
「おぉ、ちょっと待ってくれ、ルシウス」
ファッジが驚愕して言った。
「ダンブルドアが『停職』・・・・・ダメダメ・・・・・今という時期に、それは絶対困る・・・・・」
「校長の任命――それに停職も――理事会の決定事項ですぞ。ファッジ」
マルフォイはよどみなく答えた。
「それに、ダンブルドアは、今回の連続攻撃を食い止められなかったのであるから・・・・・」
「ルシウス、待ってくれ。ダンブルドアでさえ食い止められないなら――」
ファッジは鼻の頭に汗をかいていた。
「つまり、他に誰ができる?」
「それはやってみなければわからん」
マルフォイ氏がニタリと笑った。
「しかし、十二人全員が投票で・・・・・」
ハグリッドが勢い良く立ち上がり、ぼさぼさの黒髪が天井をこすった。
「そんで、いったいきさまは何人脅した?何人脅迫して賛成させた?えっ?マルフォイ」
「おぅ、おぅ。そういう君の気性がそのうち墓穴を掘るぞ、ハグリッド。アズカバンの看守にはそんなふうに怒鳴らないよう、ご忠告申し上げよう。あの連中の気に障るだろうからね」
「ダンブルドアをやめさせられるものなら、やってみろ!」
ハグリッドの怒声で、ボアハウンドのファングは寝床のバスケットの中ですくみ上がり、クィンクィン鳴いた。
「そんなことをしたら、マグル生まれの者はお終いだ!この次は『殺し』になる!」
「落ち着くんじゃ、ハグリッド」
ダンブルドアが厳しくたしなめた。
そして、ルシウス・マルフォイに言った。
「理事たちがわしの退陣を求めるなら、ルシウス、わしはもちろん退こう」
「しかし――」
ファッジが口ごもった。
「だめだ!」
ハグリッドが唸った。
ダンブルドアは明るいブルーの目でルシウス・マルフォイの冷たい灰色の目をじっと見据えたままだった。
「しかし」
ダンブルドアはゆっくりと明確に、その場にいる者が一言も聞き漏らさないように言葉を続けた。
「覚えておくがよい。わしがほんとうにこの学校を離れるのは、わしに忠実な者が、ここに一人もいなくなったときだけじゃ。覚えておくがよい。ホグワーツでは助けを求めるものには、必ずそれが与えられる」
一瞬、ダンブルドアの目が、ハリーとロンとが隠れている片隅に向けられた。
「あっぱれなご心境で」
マルフォイは頭を下げて敬礼した。
「アルバス、我々は、あなたの――あー――非常に個性的なやり方を懐かしく思うでしょうな。そして、後任者がその――えー――『殺し』を未然に防ぐのを望むばかりだ」
マルフォイは小屋の戸の方に大股で歩いていき、戸を開け、ダンブルドアに一礼して先に送り出した。
ファッジが山高帽をいじりながらハグリッドが先に出るのを待っていたが、ハグリッドは足を踏ん張り、深呼吸すると、言葉を選びながら言った。
「誰か何かを見っけたかったら、クモの跡を追っかけて行けばええ。そうすりゃちゃんと糸口がわかる。俺が言いてえのはそれだけだ」
ファッジはあっけに取られてハグリッドを見つめた。
「よし。今行く」
ハグリッドは厚手木綿のオーバーを着た。
ファッジのあとから外に出るとき、戸口でもう一度止まり、ハグリッドが大声で言った。
「それから、誰か俺のいねえ間、ファングに餌をやってくれ」
戸がバタンと閉まった。
ロンが「透明マント」を脱いだ。
「大変だ」
ロンがかすれ声で言った。
「ダンブルドアはいない。今夜にも学校を閉鎖した方がいい。ダンブルドアがいなけりゃ、一日一人は襲われるぜ」
ファングが、閉まった戸を掻きむしりながら、悲しげに鳴き始めた。
二人がいなくなって二週間ほど経った薬草学のクラスのとき、嬉しい事にアーニーがまた話しかけてくれた。
「ハリー、、僕は君たちを一度でも疑ったとこを、申し訳なく思っています。君たちがハーマイオニー・グレンジャーを決して襲ったりしない。僕が今まで言ったことをお詫びします。僕たちは今、みんな同じ運命にあるんだ。だから――」
アーニーは二人に手を差し出した。
ハリーとは交互に握手した。
アーニーとその友人のハンナが、ハリーとロンとの剪定していた無花果を、一緒に刈り込むためにやってきた。
「あのドラコ・マルフォイは、いったいどういう感覚してるんだろ」
アーニーが刈った小枝を折りながら言った。
「こんな状況になってるのを大いに楽しんでいるみたいじゃないか?ねぇ、僕、あいつがスリザリンの継承者じゃないかと思うんだ」
「まったく、いい勘してるよ、君は」
ロンは、ハリーたちほどたやすくアーニーを許してはいないようだった。
「ハリー、君は、マルフォイだと思うかい?」
アーニーが聞いた。
「いや」
ハリーがあんまりきっぱり言ったので、アーニーもハンナも目を見張った。
その直後、がハリーの足を踏んだのでハリーはに文句を言おうと振り向くとは口に指を当て、「静かに」と合図した。
「見て」
が指差す先には逃げて行くクモがガサゴソ這っていた。
「ロン」
ハリーは隣にいたロンのローブを引っ張り、クモを指差した。
「あぁ、ウン」
ロンは嬉しそうな顔をしようとして、やはりできないようだった。
「でも、今追いかけるわけにはいかないよ・・・・・」
アーニーもハンナも聞き耳を立てていた。
が静かに言った。
「どうやら『禁じられた森』の方に向かってる・・・・・」
そして、三人は次のクラスに向かいながら決心した。
今夜決行する。
しかし、残念なことには処罰で行けなくなってしまった。
廊下で出会ったマルフォイにハリーよりも、ロンよりも先に呪いをかけたのだ。
ハーマイオニーの悪口を言ったのだから当然の報いだとグリフィンドール生は感じたが、引率の先生が悪かった――スネイプだったのだ。
スネイプは一瞬にしてマルフォイにかけられた呪いをとくと、に言い放った。
「今夜九時から我輩の部屋で処罰だ、ブラック」
セブルスの処罰を心待ちにしています。