Not really まさか
暗い、人気のない城の廊下を歩き回るのは楽しいとはいえなかった。 先生や監督生、ゴーストなどが二人ずつ組になって、不審な動きはないかとそこいら中に目を光らせていた。 正面玄関にたどり着き、樫の扉をそっと開けたとき、三人はやっとホッとした。 星の輝く明るい夜だった。 ハグリッドの小屋の灯りを目指し、三人は急いだ。 小屋のすぐ前に来たとき、初めて三人は「マント」を脱いだ。 戸を叩くと、すぐにハグリッドがバタンと戸を開けた。 真正面にヌッと現れたハグリッドは三人に石弓を突きつけていた。 ボアハウンド犬のファングが後ろの方で吠えたてている。
「おぉ」
ハグリッドは武器を下ろして、三人をまじまじと見た。
「三人ともこんなとこで何しとる?」
「それなんのためなの?」
三人は小屋に入りながら石弓を指差した。
「なんでもねぇ・・・・・なんでも」 ハグリッドがもごもご言った。
「ただ、もしかすると・・・・・うんにゃ・・・・・座れや・・・・・茶、入れるわい・・・・・」
ハグリッドは上の空だった。 やかんから水をこぼして、暖炉の火を危うく消しそうになったり、どでかい手を神経質に動かした弾みで、ポットをこなごなに割ったりした。 は呪文を唱え、割れたポットをもと通りにした。
「ありがとうな、
ハグリッドはからポットを受け取りながら言った。
「ハグリッド、どうしたの?」
ハリーが不審に思って問いかけた。
「ハーマイオニーのこと、聞いた?」
「あぁ、聞いた。たしかに」
ハグリッドの声の調子が少し変わった。 その間もチラッチラッと不安そうに窓の方を見ている。 それから三人にたっぷりと熱い湯を入れた大きなマグカップを差し出した。 分厚いフルーツケーキを皿に入れているとき、戸を叩く大きな音がした。 ハグリッドはフルーツケーキをポロリと取り落とし、三人はパニックになって顔を見合わせ、さっと「透明マント」を被って部屋の隅に引っ込んだ。 ハグリッドは三人がちゃんと隠れたことを見極め、石弓を引っ付かみ、もう一度バンと戸を開けた。
「こんばんは、ハグリッド」
ダンブルドアだった。 深刻そのものの顔で小屋に入って来た。 後ろからもう一人、とてもチンケな男が入ってきた。 見知らぬ男は背の低い恰幅のいい体にくしゃくしゃの白髪頭で、悩み事があるような顔をしていた。 奇妙な組み合わせの服装で、細縞のスーツ、真っ赤なネクタイ、黒い長いマントを着て先のとがった紫色のブーツを履いている。 ライムのような黄緑色の山高帽を小脇に抱えていた。
「パパのボスだ!」 ロンが囁いた。
「コーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ!」
ハリーがロンを肘で小突いて黙らせた。 ハグリッドは青ざめて汗をかきはじめた。 椅子にドッと座り込み、ダンブルドアの顔を見、それからコーネリウス・ファッジの顔を見た。
「状況はよくない。ハグリッド」
ファッジがぶっきらぼうに言った。
「すこぶるよくない。来ざるをえなかった。マグル出身が四人もやられた。もう始末に負えん。本省が何かしなくては」
「俺は、決して」
ハグリッドが、すがるようにダンブルドアを見た。
「ダンブルドア先生様、知ってなさるでしょう。俺は、決して・・・・・」
「コーネリウス、これだけはわかって欲しい。わしはハグリッドに全幅の信頼を置いておる」
ダンブルドアは眉をひそめてファッジを見た。
「しかし、アルバス」
ファッジは言いにくそうだった。
「ハグリッドには不利な前科がある。魔法省としても、何かしなければならん――学校の理事たちがうるさい」
「コーネリウス、もう一度言う。ハグリッドを連れていったところで、なんの役にも立たんじゃろう」
ダンブルドアのブルーの瞳に、これまで見たことがないような激しい炎が燃えている。
「わたしの身にもなってくれ」
ファッジは山高帽をもじもじいじりながら言った。
「プレッシャーをかけられてる。何か手を打ったという印象を与えないと。ハグリッドではないとわかれば、彼はここに戻り、なんの咎めもない。ハグリッドは連行せねば、どうしても。わたしにも立場というものが――」
「俺を連行?
ハグリッドは震えていた。
「どこへ?」
「ほんの短い間だけだ」
ファッジはハグリッドと目を合わせずに言った。
「罰ではない。ハグリッド。むしろ念のためだ。他の誰かが捕まれば、君は十分な謝罪の上、釈放される・・・・・」
「まさかアズカバンじゃ?」
ハグリッドの声がかすれた。 ファッジが答える前に、また激しく戸を叩く音がした。 ダンブルドアが戸を開けた。 の隣でハリーが大きく息を呑んだのではハリーの脇腹を小突いた。 ルシウス・マルフォイ氏がハグリッドの小屋に大股で入ってきた。 長い黒いマントに身を包み、冷たくほくそえんでいる。 ファングが引く唸り出した。
「もう来ていたのか。ファッジ」
マルフォイ氏は「よろしい、よろしい・・・・・」と満足げに言った。
「なんの用があるんだ?」
ハグリッドが激しい口調で言った。
「俺の家から出ていけ!」
「威勢がいいね。言われるまでもない。君の――あー――これを家と呼ぶのかね?その中にいるのは私とてまったく本意ではない」
ルシウス・マルフォイはせせら笑いながら狭い丸太小屋を見回した。
「ただ学校に立ち寄っただけなのだが、校長がここだと聞いたものでね」
「それでは、いったいわしになんの用があるというのかね?ルシウス?」
ダンブルドアの言葉は丁寧だったが、あの炎が、ブルーの瞳にまだメラメラと燃えている。
ひどいことだがね。ダンブルドア」
マルフォイ氏が、長い羊皮紙の巻紙を取り出しながら物憂げに言った。 はじっとマルフォイ氏の動作を眺めていくうちに腹が立った。 もちろんハグリッドがアズカバン送りというのも腹が立つが、今ここでマルフォイ氏の言葉を聞いている方が腹立たしいように思えてきた。
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ハグリッドのアズカバン送りにショックを隠しきれません。