「少しショックを受けるかもしれませんが」
医務室近くまで来たとき、マクゴナガル先生が驚くほどの優しい声で言った。
「また襲われました・・・・・また二人一緒にです」
先生はドアを開けた。
しかし、は入ることが出来なかった。
「ブラック?」
先生が気遣うようにに呼び掛けた。
しかし、はただ首を振るだけだった。
「安心しなさい。ただ石になっているだけですから。それにマンドレイクも成熟し始めています。大丈夫ですよ」
マクゴナガル先生はの肩を抱いて中に入った。
マダム・ポンフリーが、長い巻き毛の五年生の上にかがみこんでいた。
「ハーマイオニー!」
ロンがうめき声をあげた。
ハーマイオニーは身動きもせず、見開いた目はガラス玉のようだった。
「二人は図書館の近くで発見されました」
マクゴナガル先生が言った。
「三人ともこれがなんだか説明できないでしょうね?二人のそばの床に落ちていたのですが・・・・・」
先生は小さな丸い鏡を手にしていた。
三人とも知らないと主張した。
はマクゴナガル先生がその鏡を机に置くのを見て、こっそりポケットに滑り込ませた。
幸いなことに誰も気付かなかった。
「グリフィンドール塔まであなたたちを送って行きましょう」
マクゴナガル先生は重苦しい口調で言った。
「私も、いずれにせよ生徒たちに説明しないとなりません」
「全校生徒は夕方六時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後は決して寮を出てはなりません。授業に行くときは、必ず先生が一人引率します。トイレに行くときは、必ず先生に付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も、すべて延期です。夕方は一切、クラブ活動をしてはなりません」
超満員の談話室で、グリフィンドール生は黙ってマクゴナガル先生の話を聞いた。
先生は羊皮紙を広げて読みあげた後で、紙をクルクル巻きながら、少し声を詰まらせた。
「言うまでもないことですが、私はこれほど落胆したことはありません。これまでの襲撃事件の犯人が捕まらないかぎり、学校が閉鎖される可能性もあります。犯人について何か心当たりがある生徒は申し出るよう強く望みます」
マクゴナガル先生は少しぎこちなく肖像画の裏の穴から出ていった。
途端にグリフィンドール生はしゃべり始めた。
「これでグリフィンドール生は二人やられた。寮付きのゴーストを別にしても。レイブンクローが一人、ハッフルパフが一人」
リー・ジョーダンが指を折って数え上げた。
「先生方はだーれも気付かないのかな?スリザリン生はみんな無事だ。今度のことは、全部スリザリンに関係してるって、誰にだってわかりそうなもんじゃないか?スリザリンの継承者、スリザリンの怪物――どうしてスリザリン生を全部追い出さないんだ?」
リーの大演説にみんな頷き、パラパラと拍手が起こった。
「どうしたらいいんだろう?」
ロンがハリーとに話しかけた。
「ハグリッドが疑われると思うかい?」
は最近の心配事や不安な事から自分でも思わなかったほど怒りを露にした。
「そんな馬鹿な話があるわけないでしょ!ハーマイオニーを襲うわけないじゃない!」
の大声はジョージたちのスリザリン侮辱論理の歓声で目立たなかった。
「、ロンに怒るのは間違ってるよ」
ハリーが静かに言った。
「ハーマイオニーが襲われたのよ!」
しかし、は逆にそれがカンに触った。
「!ハーマイオニーが襲われたから怒るのは分かるよ!だけど少し黙って僕の話を聞いてくれ!考えがあるんだ」
ハリーとが大声を出してもみな、それぞれの話をしていて気にとめる様子もなかった。
ロンは二人の姿を見比べて、居心地が悪そうだった。
しかし、二人は気にする様子もない。
昔からケンカなんかしょっちゅうで慣れっこになっていた。
ハリーはが少し落ち着いたのを見て言った。
「ハグリッドに会って話さなくちゃ。もちろん犯人はハグリッドじゃない」
ハリーはを見て慌てて付け足した。
「でも、前に怪物を解き放したのが彼だとすれば、どうやって『秘密の部屋』に入るのかを知ってるはずだ。それが糸口だ」
「だけど、マクゴナガルが、授業のとき以外は寮の塔から出るなって・・・・・」
ロンが珍しく消極的に言った。
「今こそ」
ハリーが一段と声をひそめた。
「父さんのあのマントをまた使うときだと思う」
ハリーとロンは透明マントを取りに行くために、一度、寝室に戻った。
は談話室で人が一人、また一人と寝室に上がっていくのを見ていた。
しかし、なかなかハリーたちは戻ってこない。
は不安になって寝室を覗こうかと思って思い止まった。
自分のせいで計画が台無しになるのは耐えられなかった――ハーマイオニー・・・・・。
はそう小さく呟いてこっそり持ってきたハーマイオニーの手鏡を取り出した。
「寂しいよ」
「大丈夫だよ。ハーマイオニーは石になっただけだから。すぐに元気になるさ」
いつの間にか、ハリーとロンが寝室に行く階段の前に立っていた。
「ハリー・・・・・」
はハリーを初めて会った人のようにまじまじと見た。
それから、ふと微笑んだ。
「もう子供じゃないのね」
はいつの間にかハリーが大きくなったのに気づいた。
「それはどういう意味だい?」
ロンが不思議そうにに聞いた。
「なんでもないよ」
すると、ハリーがの代わりに答えた。
「時々思うんだけど、君たち付き合ってるのかい?本当は相手が一番好きなんじゃないのか?」
ロンはハリーとを見比べた。
「だったらどうする?」
がニヤリと笑った。
「多分、の事が好きな男子が君に泣き付くと思うよ」
ロンがそう大真面目に言うのでは笑った。
久しぶりに笑った気がした。
ハリーもも肯定も否定もせずにロンと共に透明マントの中に入り込んだ。
ハーマイオニーがいなくなってかなりのショックのようです。