「やぁ、」
トムはにこやかに笑いかけた。
そして、何故か一歩も動けないのおでこに指をくっつけると、優しく言った。
「君は僕が秘密の部屋の犯人を追放したことを知ったようだね。それに・・・・・」
トムはおでこから指を話すとの髪を撫でた。
「悩んでる。自分が誰のことを好きなのかわからない、ってわけだろう」
は得体の知れない恐怖に襲われた。
「怖がらないで」
トムはの髪をもて遊びながら言った。
「私に触らないで」
は震えながら言った。
「ほら、言ってるそばから怖がってる」
トムはクスリと笑うと、指をパチンと鳴らした。
すると、不思議なことに今まで動かなかったの体がヘナヘナと地面に座り込んだ。
「僕は君の味方だ。君が望むならなんでも叶えよう」
はトムの整った顔をまじまじと見つめた。
「そんなこと不可能に決まってるじゃない」
の声は震えていなかった。
「僕には出来る」
「あなたを信じていいのか分からない」
は静かに言った。
二人は無言で見つめあった。
「僕を信じるかは君次第だ。だけど、今、秘密の部屋が開けられているんだろう?僕の言葉を信じた方が良いとは勧めておくよ。――さぁ、もうすぐ目覚める時間だ」
トムはをジッと見つめると指をパチンと鳴らした。
は沼地の近くではなく、ちゃんとベッドの上に横になっていた。
「、おはよう」
ハーマイオニーが隣からにこやかに笑いかけた。
「おはよう」
にはそう声をかけるだけで精一杯だった。
復活祭の休暇中に、二年生は新しい課題を与えられた。
三年生で選択する科目を決める時期が来たのだ。
少なくともハーマイオニーにとっては、これは非常に深刻な問題だった。
「わたしたちの将来に全面的に影響するかもしれないのよ」
四人で新しい科目のリストに舐めるように目を通し、選択科目にチェックを入れながら、ハーマイオニーが三人に言い聞かせた。
「僕、魔法薬をやめたかったな」
ハリーが憂鬱そうに言った。
「は何を選択するんだい?」
「私は出来ればみんなが選択する科目が良いなって思ってる」
が肩をすくめた。
「父さんたちからは手紙とか来てないよね?」
ハリーが恐る恐る問いかけた。
「えぇ、まだ来てないわ。いずれ来るわよ、きっと」
そうが宣言した通り、次の日の朝食時にそれぞれ手紙が届いた。
しかし、の手紙には選択科目以外のことも書かれていた。
親愛なる
まず、選択科目のことだが、好きなものを取りなさい。
特に無理いじりはしないから。
本題に入るが、が惚れ薬入りのチョコを食べたのは事実だし、解毒剤を作ったのがスネイプなのも事実だ。
だが、私たちがわざわざ作らなかったわけではない。
当時、ジェームズとリリーは付き合っていて、私は――言い方は悪いが――山ほど来るバレンタイン・カードから逃げていたのだ。
だからが惚れ薬入りのチョコを食べたことなど知るよしもなかった。
今思えば迂濶だったが、は賢かったので一人にしても大丈夫だと思ったのだ。
また何かあったら知らせてくれ。
シリウス
は少し気が楽になった。
「、君はどの科目を選択するんだい?」
突然ハリーが聞いてきた。
「え、決まってないけど・・・・・まさか、ジェームズが私と同じ科目をとれって言ったんじゃないでしょうね?」
その「まさか」は正解だった。
「そうだよ。おまけにとらなきゃ一生後悔するって書いてある」
は頭を抱えこんだ。
しかし、そう言いながらもハリーもロンもも三人揃って同じ科目を選択した。
もうすぐクィディッチの試合が行われる。
グリフィンドールの次の対戦相手はハッフルパフだった。
試合の前日、とハーマイオニーが二人で話していると、ハリーが血相をかえてロンと一緒に来た。
「どうしたの?」
が不思議そうに二人を見た。
「僕の荷物が荒らされて、リドルの日記がなくなってるんだ」
ハリーが言った。
「でも、――グリフィンドール生しか盗めないはずでしょ――他の人は誰もここの合言葉を知らないんだもの・・・・・」
「そうだよ」
ロンが呟いた。
翌朝、目を覚ますと、太陽がキラキラと輝き、さわやかなそよ風が吹いていた。
朝食を食べた後、はロンとハーマイオニーと一緒にハリーの箒を取りに戻る用事に付き合った。
そして、が大理石の階段をのぼろうとした瞬間、ハリーが叫び声をあげた。
はびっくりしてハーマイオニーの腕にしがみついた。
「あの声だ!」
ハリーが振り返った。
「また聞こえた――君たちは?」
ロンが目を見開いたまま首を横に振った。
もロンと同じく首を振ったが、ハーマイオニーはハッとしたように額に手を当てて言った。
「ハリー――わたし、たった今、思い付いたことがあるの!図書館に行かなくちゃ!」
そして、ハーマイオニーは風のように階段を駆け上がって行った。
「一体、何を思い付いたのかしら」
が言った。
「計り知れないね」
ロンが首を振り振り言った。
「だけど、どうして図書館なんかに行かなくちゃならないんだろう?」とハリー。
「ハーマイオニー流のやり方だよ」
ロンが肩をすくめて、しょうがないだろ、という仕草をした。
「何はともあれ、まず図書館ってわけさ」
はロンに反論しようかと思ったが、時計を見て思い直した。
「もう行った方がいいわ」
がまた声を聞こうとしているハリーに声をかけた。
「もうすぐ十一時になる――試合よ」
ハリーは急いで階段を駆け上がって行った。
はロンと一緒に観客席に向かった。
しかし、試合が始まることはなかった。
マクゴナガル先生が巨大な紫色のメガフォンを手に持って、グラウンドのむこうから行進歩調で腕を大きく振りながら、半ば走るようにやってきた。
「この試合は中止です」
先生は満員のスタジアムに向かってメガフォンでアナウンスした。
「全生徒はそれぞれの寮の談話室に戻りなさい。そこで寮監から詳しい話があります。みなさん、出来るだけ急いで!ポッター、ブラックは私のところへいらっしゃい」
はロンと一緒に観客席から移動していたが、自分の名前が呼ばれたので周りの目が突き刺さるのを感じた。
「でも、今回ばかりはを疑えるわけないじゃないか。みんなと一緒に観客席にいたんだから。僕もマクゴナガルに抗議する」
ロンは試合が中止になったせいでとても怒っていた。
グラウンドに行くとハリーとマクゴナガル先生が一緒にいた。
ロンが抗議する前に、先生が言った。
「ブラック、私と一緒にいらっしゃい」
驚いたことに、マクゴナガル先生はロンが一緒でも反対しなかった。
「そう、ウィーズリー、あなたも一緒に来た方がよいでしょう」
ロンは抗議するのも忘れてハリーとと一緒にただ先生についていくだけだった。
トムに再会してまた一段と恐怖が湧いたようです;;