小人たちは一日中教室に乱入し、バレンタイン・カードを配って、先生たちをうんざりさせた。
グリフィンドール寮生で一番多く貰うのはだった。
マクゴナガル先生の授業中、はくたくたで珍しく宿題を出された。
また、もっと酷いのはスネイプの授業中だった。
突如現れた小人には無理矢理チョコレートを食べさせられそうになった。
はとっさに食べてはいけない、と感じた。
「いや!やめて!」
必死になって抵抗したし、ハリーもロンもハーマイオニーもに助っ人した。
しかし、小人の力にはかなわない。
スリザリン生は大笑いだし、ほかのグリフィンドール生もを取り囲んでいた。
スネイプが迷惑そうにその一団を見た。
そのとき、ちょうど終りのベルが鳴った。
「ブラック以外は全員直ちに教室から出ていくのだ」
スリザリンは教室から出て行っても笑っているらしく、笑い声が聞こえた。
しかし、グリフィンドール生は出て行かなかった。
全員で小人を押さえ付けていた。
「グリフィンドール五点減点。直ちに出ていくのだ」
スネイプはそういってを杖でたたいた。
すると不思議なことにの姿は跡形もなく消え去った。
グリフィンドール生も小人も驚いた顔をしている。
「我輩に何度言わせるつもりだ」
グリフィンドール生は渋々立ち上がり、荷物をまとめて教室から出ていった。
ハリーは出て行く際、小人がキョロキョロとを探しているのを見た。
スネイプは教室に小人だけしかいなくなったのを確認すると、教室のドアを閉めた。
スネイプは独り言のように言った。
「多分、君が思っているように惚れ薬が仕込んであるだろう。しかし、ここは魔法薬が揃っている。多少面倒だが、直ぐ様元に戻してやろう。いいかね、食べるのだ」
スネイプはそういっての方向に杖を向けた。
すると不思議なことに頭の先からの姿が現れた。
「・ブラックにチョコレートのプレゼントが届いております!」
は小人から逃げ回った。
するとスネイプが業を煮やしたようにに告げた。
「こいつはお前が食べるまで追いかけ続けるだろう。人前で惚れ薬入りのチョコレートを食べたいのならこの教室から出て行くがいい」
はその言葉にピタリと足を止め、スネイプを見て、小人と向き合った。
「食べて暴走してもこの教室から出さないと誓っていただけますか?」
スネイプはうんさくさそうにを見たのち、早く食べろとばかりに顎をしゃくった。
は意を決してそのチョコレートを食べた。
何も考えられなくなった。
の頭の中は一人の人物のことで支配されてしまった。
の意思とは別に体が勝手に彼を追い求めようとしていた。
しかし、素早くスネイプがにゴブレットに入った魔法薬を飲ませたため、醜態を人前でさらす羽目にはならなかった――スネイプを除いて。
フラフラとその場にしゃがみ込むとはスネイプに礼を言った。
「ありがとうございます」
「気分は?」
スネイプがそっけなく聞いた。
「あんまり。朝から疲れてますので」
スネイプは考え深げにを見た。
自分の中で何かと戦っているようだった。
「学生時代、お前の父親もバレンタインには贈り物で囲まれていた。自分がかっこいいと自惚れていた」
は顔には出さなかったが、その通りだと思った。
「しかし、お前の母親は違った。贈り物が迷惑であるにも関わらず、全て嬉しそうにもらっていた。それが仇となったのだ。誤って惚れ薬入りのチョコレートを食べてしまった」
はだんだん頭が混乱してきた――一体、スネイプはどうしてこんな話をするのだろう。
「彼女の周りの友人ら、特にブラックは慌てて解毒剤を作ろうとしたが、あいつらは結局、解毒剤をつくれなかった」
「先生が作ったんですか?」
が思わず口を挟んだ。
スネイプは気に止める様子もなく、後を続けた。
「見るに見かねて作ったのだ。危ういところだった。ブラックがなんでも出来るという言葉は嘘である。あいつは妙な輩が作った惚れ薬の解毒剤さえ作れん」
はスネイプの悪口に耳を塞ぎたかった。
しかし、解毒剤を作ってくれたので失礼だと思い、一生懸命聞き流していた。
「ブラック、これを飲みたまえ。ロックハート教授が漏らしていた――バレンタイン・カードの人気はお前がダントツで一番だそうだ」
スネイプがニヤリと笑った。
「午後もバレンタイン・カードが届くであろう。だから飲みたまえ。今日、半日は大丈夫だ」
スネイプはの手に薄ピンク色の魔法薬が入ったゴブレットを握らせた。
は黙ってゴブレットの中身を飲み干した。
「あ、おいしい」
はそんな感想をもらした。
「砂糖を混ぜても問題ない薬なのでな」
そのスネイプの言葉を聞きながら、は微かに微笑みをもらした。
「ありがとうございます」
「礼にはおよばん」
スネイプはサラリと流した。
「!」
大広間に行くとハリーとロンとハーマイオニーが暖かく迎えてくれた。
「大丈夫?あれ、惚れ薬入りのチョコレートだったんでしょう?」
ハーマイオニーがズバリとそう言った。
「えぇ、食べたわ」
「食べたの?」
ハリーが唖然として聞き返した。
「うん、だけど解毒剤を飲んだから大丈夫よ」
はにっこり笑った。
「だけどスネイプが作ったんだろ?毒薬を入れたかも・・・・・」
「そうしたら今頃生きてないわよ」
がロンに言った。
「それに、君、ベルが鳴ったあと、スネイプの杖が触れたら消えたじゃないか。あれは一体、なんだったんだい?」
「だから、ハリー、言ったでしょう?あれは『目くらまし術』なのよ」
ハーマイオニーはお見通しのようだった。
「でも、なんでにそれをかけるんだい?どっちにしろ食べたんだろ、チョコレートは」
ロンが言った。
「惚れ薬入りのチョコレートを食べたら、私、正気じゃなくなるわ。わざわざそれをあなたたちに見せないようにしてくれたのよ。だから、あなたたちを教室から追い出したの」
がそう言っても、ハリーとロンはまだ疑っているようだった。
なぜかやさしいスネイプ先生。