◆◆◆Valentine's Day バレンタインデー
二月の初めに、やっといつもどおりになったハーマイオニーが戻ってきた。
グリフィンドール塔に帰ってきたその夜、ハリーはT・M・リドルの日記の話をハーマイオニーにした。
は寝室から持ってきた日記をハーマイオニーに見せた。
「もしかしたら、何か隠れた魔力があるのかもしれないわ!」
ハーマイオニーは興味津々で、日記を手にとって、詳細に調べた。
「魔力を隠しているとしたら、完璧に隠し切ってるよ。恥ずかしがり屋かな。、そんなもの、なんで捨ててしまわないのか、僕にはわからないな」
「どうして誰かがこれを捨てようとしたのか、それが知りたいのよ」が言った。
「リドルがどうして、『ホグワーツ特別功労賞』をもらったかも知りたいし」
「そんなの何でもありさ。どうでもいいじゃないか。たかが日記だろう?もしかしたらマートルを死なせて賞を取ったのかも」
ロンは笑い話で言ったつもりだろうが、他の三人はそうは受け止めなかった。
「なんだよ?」
ロンは怒っていると勘違いしたのか、三人の顔を交互に見た。
「ほら、『秘密の部屋』は五十年前に開けられただろう?」
ハリーが言った。
「マルフォイがそう言ってたし、シリウスもそう言っていたんだろう」
「ウーン・・・・・」
ロンはまだ飲み込めていない。
「そして、この日記は五十年前の物なのよ」
ハーマイオニーが興奮してトントンと日記を叩いた。
「それが?」
「もう、じれったいわね!」
がぴしゃりと言った。
「いい、ロン。『秘密の部屋』を開けた人が五十年前に学校から追放されたことは知ってるでしょう。T・M・リドルが五十年前『特別功労賞』をもらったことも知ってるでしょう。それなら、もしリドルがスリザリンの継承者を捕まえたことで、賞をもらったとしたらどう?この日記はすべてを語ってくれるかもしれないわ。『部屋』がどこにあるのか、どうやって開けるのか、その中にどんな生き物が住んでいるのか。今回の襲撃事件の背後にいる人物にとっては、日記がその辺に転がっていたら困るでしょう?」
「そいつは素晴らしい論理だよ、」
ロンが混ぜっ返した。
「だけど、ほんのちょっと、ちっちゃな穴がある。日記にはなーんも書かれていなーい」
しかし、そのときハーマイオニーが鞄の中から杖を取り出した。
「透明インクかもしれない──アパレシウム!」
『現わし呪文』の効果はなかった。
しかし、ハーマイオニーはめげることなく、鞄の中をごそごそ漁って、真っ赤な消しゴムのようなものを取り出した。
「なに?それ」
ハリーが尋ねると、ハーマイオニーは赤い消しゴムで日記帳の表面をゴシゴシやりながら答えた。
「『現れゴム』よ。ダイアゴン横丁で買ったの」
力を込めて一月一日の白紙のページを擦ってみたが、一文字も現れる気配はなかった。
「だから言ってるじゃないか。何も見つかるはずないよ」ロンが言った。
「リドルはクリスマスに日記帳をもらったけど、何も書く気がしなかったんだ」
は肩をすくめてハリーに日記を渡した。
「私、この間、リドルの夢を見た気がしたの。パーバティとラベンダーが途中で起こしてくれたんだけど、うなされていたって言われたわ。だから、ハリー、あなたにあげるわ、日記。そもそも私のじゃないけどね」
はそういって三人が何か言う前に、寝室に上がって行った。
おそらくスリザリンの継承者は腰砕けになってしまったらしい、という噂が流れ始めた。
原因はジャスティンとニックが石にされて以来、誰も石になってはいなかったからだ。
そして蘇生の材料のマンドレイクも順調に育っていっていた。
スリザリンの継承者がどうあれ、現在の校内の様子はかなり緊迫しているものだった。
部屋を開けるには困難な状況になってきているはずだ。
そういう見方が多くなってきてはいたが、アーニーは未だにハリーかがジャスティンを襲ったものと考えているらしい。
また、ピーブズは状況を悪くする一方だった。
ハリーの前に出ては歌うし踊るしで、なかなか話を下火にさせてくれなかった。
挙句の果てにロックハートは自分が追い払ったものと考えていたらしい。
ロックハートがマクゴナガル先生にそう言っているのをチラリと耳にした。
「ミネルバ、もう厄介なことはないと思いますよ」
わけしり顔にトントンと自分の鼻を叩き、ウインクしながらロックハートが言った。
「そう、今、学校に必要なのは気分を盛り上げることですよ。先学期の嫌な思い出を一掃しましょう!今はこれ以上申し上げられませんけどね。まさに、これだ、という考えがあるんですよ・・・・・」
ロックハートはもう一度鼻を叩いて、スタスタ歩き去った。
ロックハートの言う気分を盛り上げが何か、二月十四日の朝食時に明らかになった。
朝、朝食を摂るために大広間に行くと、大広間はピンクの花で覆われていた。
大広間に入っていく人は皆「何だこれは」という表情だった。
ハート型の紙ふぶきが天井から止め処なく降ってきていた。
「やだぁ、なにこれ」
があきれた様子で大広間を見回した。
「ロックハートの言っていた盛り上げってこれのこと?逆に盛り下げてるよ」
ロンがぶつぶつとふてくされた様子で席に着いた。
しかし、ハーマイオニーだけは少し楽しそうに、クスクス笑いを抑えきれない様子だった。
しばらくすると、ハリーがやってきた。
「これ、何事?」
ハリーは席につき、ベーコンから紙吹雪を払いのけながら三人に聞いた。
「あっち」
は職員テーブルを指差した。
部屋の飾りにマッチした、けばけばしいピンクのローブを着たロックハートが、手を上げて「静粛に」と合図しているところだった。
ロックハートの両側に並ぶ先生は、石のように無表情だった。
は少し興味本位でマクゴナガル先生とスネイプを見た。
マクゴナガル先生は頬がヒクヒク痙攣していて、スネイプときたら、憎憎しく大広間を見渡していた。
「バレンタインおめでとう!」
ロックハートが叫んだ。
「今までのところ四十六人の皆さんが私にカードをくださいました!ありがとう!そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました!――しかも、これがすべてではありませんよ!」
ロックハートの手がポン、と軽い音を鳴らした。
無愛想な小人がぞろぞろと大広間へと入ってきた。
その小人たちは一人ひとりが金の翼をつけ、ハープを持っていた。
「私の愛すべき配達キューピッドです!」
「はっきり言ってしもべ妖精の方が可愛い気がする」
はボソリと呟いた。
「今日は学校中を巡回して、皆さんのバレンタイン・カードを配達します。そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いのムードにはまりたいと思っていらっしゃるはずです!さあ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方をみせてもらってはどうです!ついでに、フリットウィック先生ですが、『魅惑の呪文』について、私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。そ知らぬ顔して憎いですね!」
フリットウィック先生はあまりのことに両手で顔を覆い、スネイプの方は「『愛の妙薬』をもらいにきた最初のやつには毒薬を無理やり飲ませてやる」という顔をしていた。
「ハーマイオニー、頼むよ。君、まさか、その四十六人に入ってないだろうな?」
大広間から最初の授業に向かうとき、ロンが聞いた。
ハーマイオニーは急に時間割はどこかしら、と鞄の中を夢中になって探し始め、答えようとしなかった。