Tom Marvolo Riddle T・M・リドル
新学期が始まり、毎日ハーマイオニーの見舞いに四人は行っていた。 ただ、ハーマイオニーがどうして医務室にいるのかを知らない人たちは、襲われたと思っていたらしい。 医務室のドアの前に人だかりができていた。 中に入ってもまだある人だかりを分けながら四人はハーマイオニーのベッドへ向かった。 宿題は毎日出てくるため、教科書と本と共に持っていかなければならなかった。 帰りにはハーマイオニーが一日で仕上げたレポートを持つことになっていた。
「ひげが生えてきたりしたら、僕なら勉強は休むけどなぁ」
ある夜、ロンはハーマイオニーのベッドの脇机に、本を一抱えドサドサと落としながら言った。
「バカなこと言わないでよ、ロン。遅れないようにしなくちゃ」元気な答えだ。
「ハーマイオニーらしいや」 がクスリと笑った。
「何か新しい手がかりはないの?」
マダム・ポンフリーに聞こえないようにハーマイオニーが声をひそめた。
「なんにも」
ハリーが憂鬱な声をだした。
「絶対マルフォイだと思ったのになぁ」
ロンはその言葉をもう百回は繰り返していた。
「それなぁに?」
ハーマイオニーの枕の下から何か金色のものがはみ出しているのを見つけてハリーがたずねた。
「ただのお見舞いカードよ」
ハーマイオニーが慌てて押し込もうとしたが、ロンがそれより素早く引っ張り出し、サッと広げて声をだして読んだ。

ミス・グレンジャーへ、早くよくなるようお祈りしています。
 貴方のことを心配しているギルデロイ・ロックハート教授より
  勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、
   『週刊魔女』五回連続チャーミング・スマイル賞受賞


ロンがあきれ果ててハーマイオニーを見た。
「君、こんなものを枕の下に入れて寝ているのか?」
しかし、マダム・ポンフリーが夜の薬を持って威勢よく入ってきたので、ハーマイオニーは言い逃れをせずにすんだ。
「ロックハーットって、おべんちゃらの最低なやつ!だよな?」
医務室を出て、グリフィンドール塔へ向かう階段を上りながら、ロンがハリーに言った。
「あれはフィルチだ」とハリーが呟いた。
三人は階段を駆け上がり、立ち止まって身を隠し、じっと耳をすませた。
「・・・・・また余計な仕事ができた!一晩中モップをかけるなんて。これでもまだ働き足りんとでもいうのか。たくさんだ!!堪忍袋の緒が切れた。ダンブルドアのところにいくぞ・・・・・」
足音がだんだん小さくなり、遠くの方でドアが閉まる音がした。 三人は廊下の曲がり角から首を突き出した。 おびただしい水が、廊下の半分を水浸しにし、その上、「嘆きのマートル」のトイレのドアの下からまだあふれ出しているようだった。 フィルチの叫び声が聞こえなくなったので、今度はマートルの泣き叫ぶ声がトイレの壁にこだましているのが聞こえた。
「マートルにいったい何があったんだろう?」ロンが言った。
「行ってみよう」
ハリーとロンはズボンをたくし上げ、は裸足になって、水でぐしょぐしょの廊下を横切り、トイレの「故障中」の掲示をいつものように無視して、ドアを開け、中へ入っていった。 すると、マートルの大きな泣き声が耳を貫いた。
「どうしたの?マートル?」
が声をかけた。
「誰なの?」
マートルは哀れっぽくゴボゴボと言った。
「また何か、私に投げつけにきたの?」
はハリーとロンに支えられながら滑らないように奥の小部屋まで行き、マートルに話しかけた。
「どうして私たちがあなたに何かを投げつけたりすると思うの?」
「私に聞かないでよ」
マートルはそう叫ぶと、またもや大量の水をこぼしながら姿を現した。 水浸しの床がさらに水をかぶった。
「私、ここで誰にも迷惑をかけずに過ごしているのに、本をぶつけて面白がる人がいるのよ・・・・・」
「だけど、君は何も感じないだろう?だって、通り抜けちゃうんだから・・・・・」 ロンが理屈に合ったことを言った。
しかし、マートルには逆効果だった。
「さあ、マートルに本をぶつけよう!腹に命中すれば十点!頭にぶつければ五十点!あいつは何にも感じないんだから!愉快な的あてゲームだ!──どこが愉快なのよ!
はいきなり近づいてきたマートルにびっくりしてしりもちをついた。
「いったい誰が投げつけたの?」
ハリーがを助け起こしながら、尋ねた。
「私がU字溝に座って死について考えていたら、これが頭のてっぺんを通って落ちてきたのよ。洗い出してやったわ・・・・・」
マートルは三人をにらみつけた。
「そこにあるわ。私、流しだしてやった」
マートルが指差した先に、黒い本が落ちていた。 が恐る恐る本を拾い上げようとすると、ハリーがの手を押さえた。
「なに?」
「危険かもしれない」
「どこが危険なの?ただの黒い本じゃない」
がハリーの止める行為を無視して手を伸ばすと、今度はロンが止めた。
「みかけによらないんだ」
ロンは、不審げに本を見ていた。
「魔法省が没収した本の中には――パパが話してくれたんだけど――読むと目を焼いてしまう本だとか、死ぬまでバカバカしい詩の口調でしかしゃべれなくなっちゃう本だとか、読みだしたら最後まで休まずに読み続けなきゃならなくなる本だとか。それから――」
「もういいわよ、わかったから」
はロンを見た。
「二人が警戒してるのはわかるけど、見てみなきゃわからないじゃない?危険かどうか、なんて」
ハリーもロンも何かを言おうとしたが、が本を拾い上げたことのほうがショックで、口をあんぐり開けた。 それは日記だった。表紙の文字は消えかけているが、五十年前の物だとわかる。 はすぐに開けてみた。 最初のページに名前がやっと読み取れる。
――T・M・リドル――
「ちょっと待ってよ」
用心深く近づいてきたロンが、の肩越しに覗き込んだ。
「この名前、知ってる・・・・・T・M・リドル。五十年前、学校から『特別功労賞』をもらったんだ」
が感心してロンを見た。
「案外、博識なのね」
「違うよ、処罰でそいつの盾を磨かされたんだ。名前のところにナメクジを引っ掛けちゃったから一時間も磨けば覚えるさ」
「他のページはどうなってるの?」
ハリーもロンとは反対の肩越しに覗き込んだ。 はぬれたページを剥がすようにそっとめくっていった。 何もかかれていなかった。 裏表紙を見ると、ロンドンのボグゾール通りの新聞・雑誌店の名前が印刷してあるのがハリーの目にとまった。
「この人、マグル出身に違いない。ボグゾール通りで日記を買ってるんだから・・・・・」
が不思議そうにハリーを見た。
「行ったことあるの?」
「母さんだってマグル出身さ。聞いたことがあるだけだよ」
戻ろう、とハリーの合図で三人は寮に戻った。 日記はが寝室に持っていった。
その後、寮に戻ったは変な夢を見た。 真っ暗な闇の中でスリザリンの制服を着た同い年くらいの男の子がに向かって手招きしている。 その男の子が立っている場所だけは光で満ちていた。 とてもハンサムだ。
・ブラックだね?はじめまして。トム・リドルだ」
どこか偉そうな話し方をする男の子だと感じだ。
「夢なの?現実なの?」
は妙にはっきりしている頭で考えた。
「夢でも現実でもない。記憶の世界さ。君の話は聞いている。素晴らしい魔女だそうだね。僕は君が気に入った・・・・・また会おう」
一瞬にしてリドルは消えた。 目の前にはパーバディとラベンダーの顔があった。
「うなされていたみたいだけど、大丈夫?」
二人は心配そうにを見た。
「あ・・・・・うん、大丈夫」
はにっこり笑ってみせた。
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T・M・リドルと祝福のご対面です。