翌朝、前夜に振り出した大雪が大吹雪となり、薬草学が休講になってしまった。
ジャスティンに会って昨日のことを説明しようと思っていたハリーは、そのことでイライラしていた。
「ハリー、お願いよ」
ロンと魔法チェスをしていたハーマイオニーが、耐えかねたように口を開いた。
「そんなに気になるんだったら、ジャスティンを探しに行けばいいじゃない」
すると、ハリーは立ち上がり、肖像画の穴から外へと出て行った。
「ハリー!ちょっとまって!」
ハリーは後ろから聞きなれた声を聞いて、マクゴナガル先生のクラスの横を通り過ぎたところで振り返った。
小走りでこちらに駆け寄ってきたのは、だった。
「?どうかした?」
「一緒に探そうと思って。一人じゃ大変でしょ」
「でも・・・・・」
「いいから」
はにっこり笑ってハリーの手を引っ張った。
ハリーの頬がほんのり赤く染まった。
しかし、幸か不幸か、は気づかない。
2人で寒い無人の廊下を歩いているとハリーが唐突に聞いてきた。
「ねぇ、一つ言ってももいい?」
「ん?何を?」
はハリーのほうを見た。
「言ってももいい?」と言いつつハリーは聞こうかどうか迷っているらしい。
散々迷った末、意を決したのかをまっすぐ見て言った。
「僕は秘密の部屋の継承者じゃない」
「知ってる」
ハリーは驚いた。
はハリーが馬鹿だとでも言うようにクスクス笑っている。
「あなたと何年一緒にいると思っているの?あなたがヘビにジャスティンに襲えと言ったなんて思わないし、スリザリンの血を引いているとも思わないわ。だってあなたがそうじゃないって言ってるんですもの」
違う?と、はハリーを見た。
「えっと・・・・・ありがとう・・・・あの、僕・・・・・」
「さ、探しましょ。多分、図書館にでもいるんじゃないかしら?」
はハリーが最後まで言わないうちに、スタスタと一人で図書館の方へ歩き出した。
ハリーはハッと我にかえり、急いでの後を追った。
図書館の奥の方で、薬草学で一緒になるはずだったハッフルパフ生が固まって座っていた。
そちらの方へ歩いていくと、なにやら彼らは話をしている。
思わず、二人で本棚の影に隠れた。
「だからさ」
少し太った男の子が口を開く。
「僕、ジャスティンに言ったんだ。自分の部屋に隠れてろって。 つまりさ、もしポッターがあいつを次の餌食にするんだったら、しばらく目立たないようにしてるのが一番いいだよって。だいたい、スリザリンの継承者がうろついてるときにマグルの学校に入る予定だったなんて、言いふらすべきじゃないんだ」
「じゃ、アーニー、あなた本当にポッターが犯人だと思ってるの?」
金髪をみつあみにした女の子がもどかしそうに聞いた。
「ハンナ」
太った子が重々しく言った。
「彼はパーセルマウスだぜ。それは闇の魔法使いのしるしだって、皆が知ってる。蛇と話の出来るまともな魔法使いなんて、滅多にいないよ。しかもパーセルマウスで有名なのはあのサラザール・スリザリンだ。彼は『蛇舌』って呼ばれていた」
ザワザワと重苦しいささやきが起こり、アーニーは話し続けた。
「ハロウィンのとき壁に書いてあった言葉を覚えているかい?『継承者の敵よ、気をつけよ』だ。ポッターはフィルチと何か揉め事があった。それで気がつけばミセス・ノリスを襲われていた。クリービーはクィディッチの試合の後で写真を撮って、ポッターはずいぶん嫌がっていた。それで、その晩クリービーが襲われた」
「でも、ポッターはいい人に見えるわ。それに彼は『例のあの人』を倒したわ。そんな人が本当に悪人なわけがないわ。どう?」
アーニーはわけありげに声を落とし、ハッフルパフ生はより近々と額を寄せあった。
「ポッターは一体『例のあの人』からどうやって生き延びたんだい?その時まだ小さな赤ん坊だったポッターがだよ。僕の考えではポッターはきっと強力な闇の魔術を使ったんだ。だからこそ『例のあの人』はポッターを殺したかったんだよ。闇の帝王が2人になって、争いになるのが嫌だったんだ。だから赤ん坊の内に殺そうとしてだけど返り討ちにあった」
そこでアーニーは言葉を切り、ゴホンと咳払いをした。
「それに怪しいのはポッターだけじゃない。もだ」
は、突然出た自分の名前に思わず顔をしかめた。
「彼女、ブラック家の末裔だ」
「あら、でもあの人、良い人だわ」
からは見えなかったが、確かにはハッフルパフの女の子にかばわれた。
「油断させるためさ。実際、決闘クラブのとき、スリザリンの上級生を吹っ飛ばしたっていうじゃないか」
「スリザリンの生徒なら吹っ飛ばされても当然だと思うわ!」
ハンナが言った。
「だけど、上級生だぜ?僕たちはまだ二年生だ。普通はコテンパンにされてる。彼女は絶対に闇の魔法使いだ」
アーニーがそこまで言ったとき、は隣にハリーがいないことに気づいた。
「やあ。僕、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーを探してるんだけど・・・・・」
ハッフルパフ生の恐れていた最悪の事態が現実のものになった。
みんなこわごわ、アーニーのほうを見た。
「あいつに何の用なんだ?」
アーニーが震え声で聞いた。
「決闘クラブでのヘビのことだけど、ほんとうは何が起きたのか、彼に話したいんだよ」
アーニーは蒼白になった唇を噛み、深呼吸した。
「僕たちみんなあの場にいたんだ。みんな、何が起こったのか見てた」
「それじゃあ、僕が話しかけたあとで、ヘビが退いたのに気がついただろう?」
「僕が見たのは」アーニーが震えているくせに頑固に言い張った。
「君が蛇語を話したこと、そしてヘビをジャスティンの方に追い立てたことだ」
「追い立てたりしてない!」
ハリーの声は怒りで震えていた。
「ヘビはジャスティンをかすりもしなかった!」
「ハリー!」
はマダム・ピンスが来る前にハリーを図書館から連れ出そうと、ローブを引っ張った。
ハッフルパフ生は突然のの出現に驚きを隠せなかった。
「ハリー、行くのよ!もう、気が済んだでしょ?」
ハリーはなかなか出て行こうとしなかったが、最終的には素直にについてきた。
「ハリー、そんなカッカしないで。すべての人に理解されようとするなんて不可能だわ」
しかし、がいくらそう言ってもハリーはまだ怒っているようで、目の前にいたハグリッドとぶつかってしまった。
ハグリッドは謝りながら、床に転がっているハリーに手を差し出した。
「ハリー、大丈夫か?」
「うん、なんとか・・・・」
「おまえさんら、何で授業に行かんのんかい?」
「雪で休講。ハグリッドこそなにしてんの」
が聞くと、ハグリッドは手に持った鶏の死骸を持ち上げた。
「今学期になって2羽目だ。狐の仕業か、『吸血お化け』か。 校長先生に、鶏小屋の周りに魔法をかけるお許しをもらわにゃ。・・・・・ハリー、おまえさん、本当に大丈夫か?かっかして、なんかあったみたいな顔しとるが」
「なんでもないよ」
ハリーはしばらくしてからそう答えた。
明らかにハグリッドは納得していないようだったが、ハリーは次の授業のために談話室に戻るといってその場を離れた。
「ハリー、アーニーの言葉、気にしてるの?」
がハリーの憂鬱そうな横顔を見ながら言った。
「どうしては怒らないんだ?闇の魔法使いって言われたんだよ!」
は肩をすくめた。
「言わせておけばいいのよ。ハリー、気にしないのが一番――キャ!」
「!」
がハリーに気をとられていると何か硬いものに躓いた。
ハリーの助けもむなしく、は盛大に転んだ。
「痛い!」
「大丈――・・・・・、見て!」
ハリーはに差し出そうとした手をそのまま床に向けた。
の転んだ原因は石になったジャスティンだった。
そのまま虚ろなジャスティンの目は天井を向いていて、その目線は黒く煤けて、宙に浮いている「ほとんど首なしニック」だった。
二人とも、顔には恐怖が張り付いていた。
「一体どういうこと!?」
パニック状態で突っ立っていると、すぐそばの戸がバーンと開き、ポルターガイストのピーブズがシューッと飛び出してきた。
「おやまあ、チビのポッターとアホなブラックがデートしてるよ!」
ヒョコヒョコ上下に揺れながら、ピーブズが甲高い声ではやし立てた。
「ポッター、ここで何してる?ブラック、どうしてここにいる――」
ピーブズは空中宙返りの途中でハタと止まった。
逆さまで、ジャスティンと「ほとんど首なしニック」を見つけた。
ピーブズはもう半回転して元に戻り、肺一杯に息を吸い込むと、大声で叫んだ。
デート中にピーブズの邪魔!?笑