「叫ぶわよ」
はマルフォイを精一杯にらみつけた。
「誰も来やしない」
今度はマルフォイがをあざ笑う番だった。
「やっぱりマルフォイ家は最低の人物しか揃ってないのね!」
が追い込まれて叫んだ。
マルフォイの動きがピクリと止まった。
「」
「・ブラック!」
冷笑するマルフォイの声と誰かの声が重なった。
スネイプだった。
「こんなところで何をしている」
スネイプはジロリとをにらみつけた。
すると、マルフォイがさっきとはうって変わって、しおらしい声で言った。
「先生、すみません。に勉強を教えていたんです。図書館だとあまりお喋り出来ないので・・・・・。勝手に使ってすみません」
スネイプは二人に早く教室から出るように指示を出した。
「ブラック、ここに残れ。話がある」
は渋々と廊下に残り、ニヤリと笑って立ち去るマルフォイをにらみつけた。
「毎回こんなに運が良いとは思うな」
は眉をひそめた。
「それ、どういう意味ですか?」
「好奇心のままに動くな。父親と同じく愚か者なのか」
スネイプはの質問には答えず、スタスタとその場を立ち去った。
「なにはともあれ、図書館に行かなきゃ」
は少し不審さを感じたものの、ハーマイオニーたちに合流するため、図書館に向かった。
ロンは図書館の奥の方で、魔法史の宿題の長さを計っていた。
ビンズ先生の宿題は「中世におけるヨーロッパ魔法使い会議」について一メートルの長さの作文を書くことだった。
「まさか。まだ二十センチも足りないなんて・・・・・」
ロンはぷりぷりして羊皮紙から手を離した。
「ハリーとハーマイオニーは?」
「ハリーはまだ来てない。ハーマイオニーはどっかそこらへん。それより、マルフォイのやつ、何の話しだったんだい?」
ロンが少し不機嫌に聞いた。
「別に?なんでもなかったわ。――私、ハーマイオニーのところに行ってくる」
そう言ってがくるりと向きをかえると、こっちに向かってくるハリーと目が合った。
「さっき、ハッフルパフ寮のジャスティン・フィンチ・フレッチリーに会ったんだけど、どういうわけか、僕を見たらまるで会いたくないようにどこかに行っちゃった」
ハリーはとっても気にしているようだ。
「なんでそんなこと気にするんだい」
しかし、ロンは全然気にならないようだ。
「僕、あいつ、ちょっと間抜けだって思ってたよ」
ロンはできるだけ大きい字で宿題を書きなぐりながら言った。
「だって、ロックハートが偉大だとか、バカバカしいことを言ってたじゃないか・・・・・」
ハーマイオニーが書物と書物の間からひょいと現れた。
イライラしているようだったが、やっと三人と話す気になったらしい。
「『ホグワーツの歴史』が全部貸し出されてるの」
ハーマイオニーはロンの隣に、ハリーとの向かい側に座った。
「しかも、あと二週間は予約でいっぱい。私のを家に置いてこなけりゃよかった。残念。でも、ロックハートの本でいっぱいだったから、トランクに入りきらなかったの」
「どうしてその本が欲しいの?」
ハリーが聞いた。
「みんなが借りたがっている理由と同じよ。『秘密の部屋』の伝説を調べたいの」
「それ、なんなの?」
ハリーは急き込んだ。
「まさに、その疑問よ。それがどうしても思い出せないの」
ハーマイオニーは唇を噛んだ。
「多分、スリザリンの連中なら知ってると思うわ」
ハーマイオニーは「なんで?」とに聞いたが、は「なんとなく」と言って肩をすくめるだけだった。
「ハーマイオニー、君の作文見せて」
ロンが時計を見ながら絶望的な声を出した。
「ダメ。見せられない」
ハーマイオニーは急に厳しくなった。
「提出までに十日もあったじゃない」
「あとたった六センチなんだけどなぁ。いいよ、いいよ・・・・・」
ベルが鳴った。
ロンとハーマイオニーはハリーの先に立って、二人で口ゲンカしながら魔法史のクラスに向かった。
魔法史は時間割りの中で一番退屈な科目だった。
担当のビンズ先生は、ただ一人のゴーストの先生で、唯一おもしろいのは、先生が、毎回黒板を通り抜けてクラスに現れることだった。
しわしわの骨董品のような先生で、聞くところによれば、自分が死んだことにも気付かなかったらしい。
ある日、立ち上がって授業に出かけるとき、生身の体を職員室の暖炉の前の肘掛け椅子に、そのまま置き忘れてきたという。
それからも、先生の日課はちっとも変わっていないのだ。
今日もいつものように退屈だった。
ビンズ先生はノートを開き、中古の電気掃除機のような、一本調子の低い声でブーンブーンと読みあげはじめた。
ほとんどクラス全員が催眠術にかかったようにぼーとなり、時々、はっと我に返っては名前や年号をノートに取る間だけ、目を覚まし、またぐっすりと眠りに落ちるのだった。
先生が三十分も読み上げたころ、今まで一度もなかったことが起きた。
ハーマイオニーが手を上げたのだ。
ビンズ先生がちらりと目を上げ、驚いたように見つめた。
「ミス――あー?」
「グレンジャーです。先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか」
ハーマイオニーはハッキリした声で言った。
口をポカンと開けて窓の外を眺めていたディーンは催眠状態から急に覚醒した。
両腕を枕にしていたラベンダーは頭を持ち上げ、ネビルの肘は机からガクッと滑り落ちた。
ビンズ先生は目をパチクリした。
「私が教えるのは魔法史です」
干からびた声で、ゼーゼーと言った。
「事実を教えとるのであり、ミス・グレンジャー、神話や伝説ではないんであります」
ビンズは咳払いし、授業を続けた。
「同じ年の九月、サルジニア魔法使いの小委員会で・・・・・」
先生はここでつっかえた。
ハーマイオニーの手がまた挙がったのだ。
「ミス・グラント?」
「先生、お願いです。伝説というのは必ず事実に基づいているのではありませんか?」
ビンズはハーマイオニーをじっと見つめた。
その驚きようは異常だった。
「ふむ。然り、そんなふうにも言えましょう。しかし、あなたがおっしゃるところの伝説はといえば、これはまことに人騒がせであり、荒唐無稽な話とさえ、言えるものであり・・・・・」
しかし、いまやクラスの全員がその言葉に耳を傾けていた。
「・・・・・あー、よろしい」
ビンズはとうとう折れ、噛みしめるように語りだした。
マルフォイの悪の手から、セブルスが救いの手を差し伸べましたが、見事に振り払われました。