They be alone 二人きり
四人は走りこそしなかったが、出来る限り急いでその場を去った。 そしてだれもいない教室へ入るとそっとドアをしめた。
「あの声のこと、僕、みんなに話した方がよかったと思う?」
教室は周りが暗く、ハリーの声の調子でしか、ハリーの感情はわからなかった。
「いや」
ロンがきっぱりと言った。
「誰にも聞こえない声が聞こえるのは、魔法界でも狂気の始まりだって言われてる」
「君達は僕のことを信じてくれてるよね?」
「もちろんよ」
ハーマイオニーは優しく言った。
「でも君だって、薄気味悪いと思うだろ?」
ロンがハーマイオニーの後を続けた。
「確かに薄気味悪いよ。何もかも気味の悪いことだらけだ。壁になんて書いてあった?『部屋は開かれたり』――どういうことなんだろう」
ハリーは考え込んでいるようだった。
「ちょっと待って。何か思い出せそう。――誰かがそんな話をしてくれた気がする。ビルだったかも知れない。ホグワーツの秘密の部屋のことだ」
「――まぁ、いいわ、そんな話また今度で」
が疲れたように言った。
「それにしてもフィルチが"スクイブ"だったなんて」
がそう言った途端、ロンが吹き出した。
「これでいろんな謎が解けた。どうして彼は生徒達をあんなに憎んでいるのか。――妬ましいんだ」
「ハリーだけに聞こえる声の謎は解けてないけどね」
は満足げに笑うロンに釘を刺した。 どこかで時計の鐘が鳴った。
「午前零時よ」
ハーマイオニーが言った。
「さあ、早くベッドに行きましょ。減点されてしまうわ」
四人は急いで寮に戻った。 外はもうすっかり暗い。

それから数日、学校中がミセス・ノリスの襲われた話で持ちきりだった。 犯人が現場に戻ると考えたのか、フィルチは猫が襲われた場所を往ったり来たりすることで、みんなの記憶を生々しいものにしていた。 そして、文字は相変わらず石壁の上にありありと光を放っていた。 ジニーもミセス・ノリス事件で心をひどく乱されたようだった。 ロンに聞くと、ジニーは無類の猫好きのようだった。 そして、事件の後遺症はハーマイオニーにも及んだ。 ハーマイオニーは、今や読書しかしなくなった。 聞いても期待したような答えは返ってこなかった。
水曜日、魔法薬の授業が終わり、ハリーはスネイプに居残りを命じられた。 そこで、 とロンとハーマイオニーは昼食を食べたら、図書館に行く、と今 後の予定を告げ、教室を出た。 大広間は授業が終わり、休憩を満喫している生徒で賑わっていた。
「秘密の部屋のこと、パパたちに知らせた方が良いのかしら。ハリーにしか聞こえない声のことも・・・・・」
が注意深く周りを見回しながら言った。 幸い、周りは自分たちの話に夢中だ。
「ハリーにしか聞こえない声の方はともかく、秘密の部屋の方は大丈夫じゃないかしら。だって、あの現場にはダンブルドアもいたのよ?彼がいるなら安全だわ」
ハーマイオニーが言った。
「そうさ。それに今、心配しなきゃいけないのはハリーが無事、スネイプから帰って来れるか、だろ?」
ロンがを見て、ニヤリと笑った。
「まったく!いくらスネイプがハリーを嫌っていたからってハリーに危ない真似はさせないでしょ!」
ハーマイオニーはロンの言い方に腹を立てた。
「わかんないぜ。もしかしたらハリーの飲み物に毒を入れるかも」
この言い方には何故だかもハーマイオニーも笑った。 実際に現実とかけ離れた想像だからだろうか。
「はいはい、もういいわよ、ロン」
が笑いながら言った。
「これ以上笑ったら、私苦しいわ!」
ロンが笑った。
「ねえ」
すると、そんな二人にハーマイオニーが声をかけた。
「そろそろ図書館に行きましょ。時間を無駄には出来ないわ」
ロンとはハーマイオニーに急かされて、急ぎ足で図書館に向かった。

図書館に行く途中、は不意に呼び止められた。 マルフォイだった。 両脇にクラッブとゴイルを相変わらず従えている。 はマルフォイの顔とロン、ハーマイオニーの顔を見比べた。 ロンはマルフォイなんか放っておけ、と目で合図し、ハーマイオニーは探るようにを見た。 マルフォイはイライラしていた。
「何の用?」
は意を決してマルフォイに向き直った。
「二人だけで少し話したい」
はチラリとハーマイオニーを振り返った。 ハーマイオニーはがどうしようか迷っているのを感じた。
、先に行ってるわ」
ハーマイオニーはそう言って無理矢理にロンをその場から遠ざけた。 ロンがハーマイオニーに引きずられて図書館に向かうとき、マルフォイの悪態をついているのが良く聞こえた。
「二人とも、しばらくどこかに行ってこい」
マルフォイはが一人きりになったのが分かると、クラッブとゴイルにそう言った。 二人はマルフォイの犬のように、忠実に命令に従った。
「ここじゃまずい、空き教室に入ろう」
マルフォイはそう言ってズイズイと一人で歩き始めた。 は少しついていくか躊躇したが、結局はマルフォイから二メートルほど離れた、後ろからついていった。 空き教室を見つけ、二人は静かに中に入った。 マルフォイはドアを閉めると静かに言った。
「つい先日に秘密の部屋が開かれた。何者かによって」
は微動もしない。
「そして僕と君は血の繋がりがある」
「無いわ。貴方みたいな冷たい血なんて私の中には流れてないもの」
がピシャリと言った。 マルフォイは少し怒ったようだったが、そのまま話を続けた。
「しかし、親戚になる」
は否定しなかった。 確かにマルフォイと親戚なのは間違っていない。 そのままが黙っているとマルフォイが言った。
「君はグリフィンドールなんかに埋もれているような人間じゃない。スリザリンで本当の君を見つけるべきだ」
マルフォイの言葉には珍しくトゲがなかった。
「残念ね。私、ちゃんと自分がどういう子か分かっているわ。今の自分が本当の私よ」
はマルフォイをあざ笑うように言った。
・・・・・」
マルフォイはあざ笑うに一歩近付いた。
「何?」
は平静を装いながら言った。 心の中ではパニック状態だ。 後悔していた――どうしてマルフォイと二人きりで空き教室なんかに入ったのだろうか。
「一年生の時に警告したはずだ」
「何を?」
は強気な言葉とは裏腹に焦りと不安と怒りと、たくさんの思いが入り混じっていた。
「僕は男で君は女だ。この事実は変えられない」
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