うだるような暑さの中、筆記試験の大教室はことさら暑かった。
試験用に、カンニング防止の魔法がかけられた特別な羽ペンが配られた。
一方実技試験の方は、フリットウィック先生は、生徒を一人ずつ教室に呼び入れ、パイナップルを机の端から端までタップダンスさせられるかどうかを試験した。
マクゴナガル先生の試験はねずみを「かぎたばこ入れ」に変えることだった。美しい箱は点数が高く、ひげのはえた箱は減点された。
スネイプは、「忘れ薬」の作り方を思い出そうとみんな必死になっている時に、生徒のすぐ後ろに回ってマジマジと監視するので、みんなはドギマギした。
最後の試験は魔法史だった。
一時間の試験で「鍋が勝手に中身を掻き混ぜる大鍋」を発明した風変わりな老魔法使いたちについての答案を書き終えると、すべて終了だ。
一週間後に試験の結果が発表されるまでは、すばらしい自由な時間が待っている。
幽霊のビンス先生が、羽ペンを置いて答案用紙を巻きなさい、と言った時には、生徒たちは思わず歓声を上げた。
「もう復習しなくてもいいんだ」
ロンが校庭の草の上に大の字になりながらうれしそうにホーッと息をついた。
しかしロンの隣に座っているハリーは浮かない顔をしていた。
「ハリー、試験が終わったのに嬉しくないの?」
は心配そうにハリーの顔を覗きこんだ。
「ズーッと傷がうずくんだ・・・・・今までも時々こういうことはあったけど、こんなに続くのは初めてだ」
ハリーは額をこすりながら、怒りを吐き出すように言った。
「マダム・ポンフリーのところに行った方がいいわ」
ハーマイオニーが言った。
「僕は病気じゃない。きっと警告なんだ・・・・・何か危険が迫ってる証拠なんだ」
しかし三人はそれでも反応しない。
何しろ暑すぎるのだ。
「ハリー、リラックスしろよ。ダンブルドアがいるかぎり、『石』は無事だよ。スネイプがフラッフィーを突破する方法を見つけたっていう証拠はないし。いっぺん脚を噛みきられそうになったんだから、スネイプがすぐにまた同じことをやるわけないよ。それに、ハグリッドが口を割ってダンブルドアを裏切るなんてありえない。そんなことが起こるくらいならネビルはとっくにクィディッチ世界選手権のイングランド代表選手になってるよ」
ロンがそう言うとハリーは考え込んだ。
「ハリー、あまり気にしない方がいいわ。それか、パパたちに手紙を送って――」
が心配そうに言うと、突然ハリーは立ち上がった。
「どこに行くんだい?」
ロンが眠たそうに聞いた。
「今、気づいたことがあるんだ」
ハリーの顔は真っ青だった。
「すぐ、ハグリッドに会いに行かなくちゃ」
「ハリー、待って。なんで、どうして?」
ハリーに追い付こうとしながらが聞いた。
「おかしいと思わないか?」
草のしげった斜面をよじ登りながらハリーが言った。
「ハグリッドはドラゴンが欲しくてたまらなかった。でも、いきなり見ず知らずの人間がたまたまドラゴンの卵をポケットに入れて現れるかい?魔法界の法律で禁止されているのに、ドラゴンの卵を持ってうろついている人がザラにいるかい?ハグリッドにたまたま出会ったなんて、話がうますぎると思わないか?どうして今まで気付かなかったんだろう」
「何が言いたいんだい?」
ロンはハリーに聞いたが、ハリーは答えもせずに校庭を横切って森へと全力疾走した。
「つまり、ハグリッドは話の流れについうっかりフラッフィーの突破方法をしゃべったかも、ってことよ」
はハリーの代わりにロンに答えてやった。
ハグリッドは家の外にいた。
ひじかけ椅子に腰かけて、ズボンも袖もたくし上げて、大きなボウルを前において、豆のさやをむいていた。
「よう。試験は終わったかい。お茶でも飲むか?」
ハグリッドはニッコリした。
「うん、ありがとう」とロンが言いかけるのをハリーがさえぎった。
「ううん。僕たち急いでるんだ。ハグリッド、聞きたいことがあるんだけど。ノーバートをかけで手に入れた夜のことを覚えているかい。トランプをした相手って、どんな人だった?」
「わからんよ。マントを着たままだったしな」
ハグリッドはこともなにげに答えた。
三人が絶句しているのを見て、ハグリッドは眉をちょっと動かしながら言った。
「そんなに珍しいこっちゃない。『ホッグズ・ヘッド』なんてとこにゃ・・・・・村のパブだがな、おかしなやつがウヨウヨしてる。もしかしたらドラゴン売人だったかもしれん。そうじゃろ?顔も見んかったよ。フードをすっぽりかぶったままだったし」
すでにハリーの顔は真っ青で、はその場に座り込んでしまった。
「ハグリッド。その人とどんな話をしたの?ホグワーツのこと、何か話した?」
「話したかもしれん」
ハグリッドは思い出そうとして顔をしかめた。
「うん・・・・・わしが何をしているのかって聞いたんで、森番をしているって言ったな・・・・・そしたらどんな動物を飼ってるかって聞いてきたんで・・・・・それに答えて・・・・・それで、ほんとはずーっとドラゴンが欲しかったって言ったな・・・・・それから・・・・・あんまり覚えとらん。なにせ次々酒をおごってくれるんで・・・・・そうさなあ・・・・・うん、それからドラゴンの卵を持ってるけどトランプで卵を賭けてもいいってな・・・・・でもちゃんと飼えなきゃだめだって、どこにでもくれてやるわけにはいかないって・・・・・だから言ってやったよ。フラッフィーに比べりゃ、ドラゴンなんか楽なもんだって・・・・・」
「それで、そ、その人はフラッフィーに興味があるみたいだった?」
ハリーはなるべく落ち着いた声で聞いた。
「そりゃそうだ・・・・・三頭犬なんて、たとえホグワーツだって、そんなに何匹もいねえだろう?だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんか、なだめ方さえ知ってれば、お茶の子さいさいだって。ちょいと音楽を聞かせればすぐねんねしちまうって・・・・・」
ハグリッドは突然、しまった大変だという顔をした。
「おまえたちに話しちゃいけなかったんだ!」
ハグリッドはあわてて言った。
「忘れてくれ!おーい、みんなどこに行くんだ?」
玄関ホールに着くまで、互いに一言も口をきかなかった。
校庭の明るさに比べると、ホールは冷たく、陰気に感じられた。
ハグリッドのおしゃべりには呆れるばかりです・・・(-_-;)