Secrecy 秘密
クィレルは四人が思っていた以上の粘りを見せた。 それから何週間かが経ち、ますますやつれて見えたが、口を割った気配はなかった。 しかし、ハーマイオニーは「賢者の石」だけに関心を持っていたわけではなかった。 復習予定表を作り上げ、ノートにはマーカーで印をつけ始めた。 そしてハーマイオニーは自分と同じ事をするようにハリーやロン、にしつこく勧めていた。
「ハーマイオニー、試験はまだズーッと先だよ」
「十週間先でしょ。ズーッと先じゃないわ。ニコラス・フラメルの時間にしたらほんの一秒でしょう」
ハーマイオニーはにも厳しかった。
「僕たち、六百歳じゃないんだぜ」
ロンは忘れちゃいませんか、と反論した。
「それに何のために復習するんだよ。君はもう、全部知ってるじゃないか」
「何のためにですって?気は確か?二年生に進級するには試験をパスしなけりゃいけないのよ。大切な試験なのに、私としたことが・・・・・もう一月前から勉強を始めるべきだったわ」
ありがたくないことに先生たちもハーマイオニーと同意見のようだった。 山のような宿題が出て、イースターの休みはクリスマス休暇ほど楽しくはなかった。 ハーマイオニーがすぐそばでドラゴンの血の十二種類の利用法を暗唱したり、杖の振り方を練習したりするので、三人はのんびりするどころではなかった。 うめいたりあくびをしたりしながらも三人は自由時間のほとんどをハーマイオニーと一緒に図書館で過ごし、復習に精を出した。
「こんなのとっても覚えきれないよ」
とうとうロンは音を上げた。 そしてびっくりしたように声を出した。
「ハグリッド!図書館で何してるんだい?」
「いや、ちーっと見てるだけ」
ごまかし声が上ずって、たちまちみんなの興味を引いた。
「おまえさんたちは何をしてるんだ?」
ハグリッドが疑わしげに尋ねた。
「まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね」
「そんなのもうとっくの昔にわかったさ」
ロンが意気揚々と言った。
「それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。『賢者のい――』」
「シー!」
ハグリッドは急いで周りを見回した。
「そのことは大声で言い触らしちゃいかん。おまえさんたち、まったくどうかしちやったんじゃないか」
「失礼ね!頭は正常よ!」
が心外だ、とばかりに憤慨した。
、少し落ち着いて――ちょうどよかった。ハグリッドに聞きたいことがあるんだけど。フラッフィー以外にあの石を守っているのは何なの」
ハリーがをなだめ、聞いた。
「シーッ!いいか――後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ。ここでそんなことをしゃべりまくられちゃ困る。生徒が知ってるはずはねーんだから。俺がしゃべったと思われるだろうが・・・・・」
「じゃ後で行くよ」
ハリーが言った。 ハグリッドはモゾモゾと出ていった。
「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?」
ハーマイオニーが考え込んだ。
「そんなのハグリッドがどの棚にいたかですぐにわかるじゃない」
バカねぇ、とばかりにはハーマイオニーを見た。 すると、ハーマイオニーはを睨みつけた。
「僕、ハグリッドがどの書棚のところにいたか見てくる」
勉強にうんざりしていたロンが言った。 ほどなくロンが本をどっさり抱えて戻ってきて。テーブルの上にドサッと置いた。
「ドラゴンだよ!」
ロンが声を低めた。
「ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。ほら、見てごらん。『イギリスとアイルランドのドラゴンの種類』『ドラゴンの飼い方――卵から灼熱地獄まで』だってさ」
「そういえばハグリッドはドラゴンを飼ってみたいって言ってたわね」
が言った。
「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だ、知ってるだろう?チャーリーがルーマニアで野生のドラゴンにやられた火傷を見せてやりたいよ」
「でも、ハグリッドがその法律を知らなかったら?」
がジッとロンを見つけた。 ハリーもロンもハーマイオニーもまさか、という顔でを見つめ返した。
一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっていた。 ハグリッドは「誰だ?」と確かめてからドアを開けて、四人を中に入れるとまたすぐにドアを閉めた。 中は窒息しそうなほど暑かった。 こんなに暑い日だというのに、暖炉にはゴウゴウと炎が上がっている。 ハグリッドはお茶を入れ、イタチの肉を挟んだサンドイッチをすすめたが、四人は遠慮した。
「それで、おまえさん、何か聞きたいんだったな?」
ハリーは単刀直入に聞いた。
「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って」
ハグリッドはしかめ面をした。
「もちろんそんなことはできん。まず第一、俺自信が知らん。第二に、おまえさんたちはもう知りすぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ――もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラッフィーのことも、いったいどうしておまえさんたちに知られてしまったのかわからんなぁ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知っているのよね。だって、ここで起きていることであなたの知らないことなんかないんですもの」
は優しい声でおだてた。 ハグリッドのヒゲがピクピク動き、ヒゲの中でにっこりとしたのがわかった。 そして、ハーマイオニーが追い討ちをかくた。
「私たち、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に」
最後の言葉を聞くとハグリッドは胸をそらした。 ハリーとロンはよくやったととハーマイオニーに目配せした。
「まぁ、それくらいなら言ってもかまわんじゃろう・・・・・さてと・・・・・俺からフラッフィーを借りて・・・・・何人かの先生が魔法の罠をかけて・・・・・スブラウト先生・・・・・フリットウィック先生・・・・・マクゴナガル先生・・・・・」
ハグリッドは指を折って名前をあげ始めた。
「それからクィレル先生、もちろんダンブルドア先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそうスネイプ先生」
スネイプだって?
「ああ、そうだ。まだあのことにこだわっておるのか?スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずがない」
四人は同じことを考えた。 もしスネイプが石を守る側にいたならば、他の先生がどんなやり方で守ろうとしたかも簡単に分かるはずだ。たぶん全部わかったんだ――クィレルの呪文とフラッフィーを出し抜く方法以外は。
「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくさせられるんだよね?誰にも教えたりはしないよね?たとえ先生にだって」
ハリーは心配そうに聞いた。
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん」
ハグリッドは得意気に言った。
「そう、それなら安心ね」
があんまり安心していなさそうな顔で呟いた。
「ハグリッド、窓を開けてもいい?ゆだっちゃうよ」
「悪いな、それはできん」
はハグリッドがチラリと暖炉を見たのに気づいた。
「ハグリッド――あれは何?」
聞くまでもなく、もう四人はそれが何だかわかっていた。 炎の真ん中、やかんの下に大きな黒い卵があった。
「えーと、あれは・・・・・その・・・・・」
ハグリッドは落ち着かない様子でヒゲをいじっていた。
「ハグリッド、どこで手に入れたの?すごく高かっただろう」
ロンはそう言いながら、火のそばに屈みこんで卵をよく見ようとした。
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って、ちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきりいえば、そいつは厄介払いして喜んでおったな」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな」
ハグリッドは枕の下から大きな本を取り出した。
「図書館から借りたんだ――『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』――もちろん、ちいと古いが、何でも書いてある。母竜が息を吹きかけるように卵は火のなかに置け。なぁ?それからここを見てみろや――卵の見分け方――俺のはノルウェー・リッジバックという種類らしい。こいつが珍しいやつでな」
ハグリッドの方は大満足そうだったが、ハーマイオニーは違った。
「ハグリッド、この家は木の家なのよ」
ハグリッドはどこ吹く風、ルンルン鼻唄まじりで火をくべていた。
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ハグリッド、相変わらず口が軽いです。