新学期が始まり、四人がニコラス・フラメルを探せる時間は十分休みだけとなってしまった。
そして、ハリーはクィディッチの練習があるため、探すことが難しくなり、人手も時間も足りなくなっていた。
そんな中、いつものように談話室でハリーの練習が終わるのを待っていた。
ロンとハーマイオニーはチェスを始め、はその傍らで、家族への手紙を書いていた。
二人は――特にハーマイオニーは――真剣にチェスのゲームに向かって、のことを気にかける様子もなかった。
チェスはハーマイオニーがロンに負ける唯一のものだった。
そのとき、バッと談話室のドアが開き、ハリーが疲れた様子で入ってきた。
「おかえり」
が言った。
「大変なんだ」
ハリーの表情は暗い。
「ロン、ハーマイオニー、聞いてくれ」
未だ、ハリーが帰ってきたことに気づかず、真剣に取り組んでいる二人にハリーは声をかけた。
「ハリー、待って。今、いいところなのよ」
しかし、ハーマイオニーもロンもチェスに夢中でハリーの話を聞こうとしない。
そこで、ハリーは声を荒げ、言った。
「次のクィディッチの試合の審判・・・・・スネイプなんだ」
すると二人は途端に夢から覚めたようにハリーを見た。
「試合に出るなよ」
「怪我したフリをして・・・・・」
「いっそ、実際にやっちゃえよ」
ロンとハーマイオニーの言葉に、は笑ってしまった。
「駄目だ。シーカーの代わりはいない」
ハリーの表情は暗いままだ。
「その情報は確か?もしかしたら、ただの脅しかも・・・・・」
「いや、ウッド――グリフィンドールチームのキャプテンだ――が言っていたんだ。嘘でも脅しでもないよ。全て本当のことなんだ」
ハリーはの意見に首を振った。
「待って。あなたのお父さんに言ったらどうかしら。確か仲が悪いんでしょう?なんとかなるかもしれないじゃない」
ハーマイオニーは自分の考えに自信があるらしく、喜々として言った。
「多分、なんともならないと思うけど、何もしないよりは良いかもしれないわね。――ハリーが怪我とかした時にジェームズとパパ、乗り込んでくるかもしれないわ、ホグワーツにね」
も少し乗り気になったのか、書き途中の手紙に向かい、スネイプのことを書き始めた。
数分後、は出来上がった手紙をハリーに見せた。
「はい、これでどうかしら?」
ハリーはから手紙を受けとると、どんどん読み進んでいったが、ある箇所で、目が止まった。
「、僕が死んだら、って縁起でもないこと書かないでよ!」
「あーごめん・・・・・書き直すわ」
は悪戯っぽくロンとハーマイオニーを見た。
ハリーの表情は大分、明るくなっていた。
そのとき、ネビルが談話室に倒れこんできた。
両足がピッタリくっついたままで、「足縛りの呪い」をかけられたことがすぐわかる。
グリフィンドール塔までずーっとウサギ跳びをしてきたに違いない。
みんな笑い転げた。
その笑い声の中、が笑いを抑えるように呪いを解く呪文を唱えた。
両足がパッと離れ、ネビルは震えながら立ち上がった。
「どうしたの?」
ハーマイオニーはネビルをハリーやロン、の側に座らせながらハーマイオニーが尋ねた。
「マルフォイが・・・・・」
ネビルは震え声で答えた。
「図書館の外で出会ったんだ。だれかに呪文を試してみたかったって・・・・・」
「マクゴナガル先生の所に行きなさいよ!マルフォイがやったって報告するのよ!」
ハーマイオニーが急き立てた。
「これ以上面倒はイヤだ」
「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃだめだよ」
ロンが言った。
「あいつは平気でみんなをバカにしてる。だからといって屈服してヤツをつけ上がらせていいってもんじゃない」
「僕が勇気がなくてグリフィンドールにふさわしくないなんて、言わなくってもわかってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから」
ネビルが声を詰まらせた。
ロンとハーマイオニーは助けてくれ、とばかりにを見た。
「ネビル、マルフォイに復讐するなら私が代わりにやってあげるからね」
はポンとネビルの肩に手を置いた。
ネビルとロンはどう反応して良いのかわからずにを見た。
しかし、ハーマイオニーだけは違った。
「!暴力に暴力で返してどうするのよ!」
「、はっきり言って、君が言うと冗談に聞こえないよ」
ハリーは呆れたように、もう慣れているとばかりにを見た。
はハリーを見てちょっとふくれた。
「どういう意味よ?」
「そのままの意味だよ、」
ハリーはの言葉をさらりと流し、ネビルにたまたま持っていた蛙チョコレートを差し出した。
「マルフォイが十人束になったとしても、君には敵わないさ。君は組分け帽子からグリフィンドールに選ばれた。だけどマルフォイはどうだ。腐れスリザリンさ」
「ありがとう。僕、もう寝るよ」
ネビルはそう言って背を向けたが、何かを思い出したようで振り返って言った。
「そうだ、これあげるよ。もとはと言えばハリーのだし」
そう言ってネビルはハリーに蛙チョコレートについているカードを渡し、寝室へ行った。
「見つけた」
ハリーはネビルから貰ったカードを見ながら呟いた。
「何を?」
は首を傾げた。
「ニコラス・フラメルだよ。いたんだ、蛙チョコレートの中に!いいかい、『ダンブルドア教授は特に、1945年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名』」
ハーマイオニーは飛び上がった。
「ちょっと待ってて!」
ハーマイオニーは女子寮の階段を脱兎のごとくかけあがっていった。
三人がハーマイオニーのことを口に出す前に、巨大な古い本を抱えてハーマイオニーが矢のように戻ってきた。
「この本で探してみようなんて考え付きもしなかったわ」
ハーマイオニーは興奮しながらささやいた。
そして見つけるまで黙っててと言うなり、ブツブツ独り言を言いながらすごい勢いでページをめくり始めた。
「これだわ!これよ!ニコラス・フラメルは我々の知るかぎり、賢者の石の創造に成功した唯一の者!」
ハーマイオニーはヒソヒソ声でドラマチックに読みあげた。
「賢者の石って?」
しかし、ハリーとロンはきょとんとして、イマイチ反応がない。
「うーん、つまり、金属を金に、飲んだら不老不死にしてくれる命の水の源、かしらね」
はかいつまんで二人に説明した。
「ね?あの犬はフラメルの『賢者の石』を守っているに違いないわ!フラメルがダンブルドアに保管してくれって頼んだのよ。だって二人は友達だし、フラメルは誰かが狙っているのを知ってたのね。だからグリンゴッツから石を移してほしかったんだわ!」
「なるほどね。スネイプが狙うのも無理ないよ。誰だってほしいもの」
ハリーが言った。
「だけどその石は悪用されたらきっと大変なことになるわね」
がこの先を予想するかのように呟いた。
本当にジェームズとシリウスが乗り込んできてしまったら、どうしましょう。笑