そのとき、とハーマイオニーは世にも恐ろしいものを見たように、足がすくんだ。
二人は一斉にかん高い、恐怖でたちすくんだような悲鳴をあげだ――目の前にはトロールがいた。
その悲鳴を聞き付けたのか、ハリーとロンが女子トイレに入ってきた。
「こっちに引き付けろ!」
ハリーがたちに向かうトロールを見ながら言った。
そしてトロールが壊した蛇口を拾って力いっぱい壁に投げつけた。
トロールは彼女たちの一メートル前で立ち止まった。
ドシドシとこっちに向きを変え、にぶそうな目をパチクリさせながら何の音だろうとハリーの方を見た。
卑しい、小さい目がハリーを捕えた。
一瞬迷ったようだったが、今度はハリーの方に棍棒を振り上げて近付いてきた。
「やーい、ウスノロ!」
ロンが反対側から叫んで、金属パイプを投げつけた。
トロールはパイプが肩にあたっても何も感じないようだったが、それでも叫び声は聞こえたらしく、また立ち止まった。
醜い鼻面を今度はロンに向けたので、たちにドアの方に走っていくチャンスが出来た。
「早く!走って、早く!」
はハーマイオニーを引っ張ったが、彼女は恐怖で口を開けたまま、壁にピッタリとはりついてしまったようだ。
叫び声とそのこだまがトロールを逆上させてしまったようだ。
再びうなり声を上げて、一番近くにいたもはや逃げ場のないロンの方に向かってきた。
「ロン!逃げて!」
そのときは走ってハーマイオニーから離れ、床に落ちていたガラスをトロールに向かって投げた。
そのせいで、の手に傷が出来、血が滴り落ちた。
「、もういい!君が傷付いてしまう!」
ハリーはの動きを止め、勇敢とも、間抜けともいえるような行動に出た。
走って行って後ろからトロールに飛び付き、腕をトロールの首ねっこに巻き付けた。
トロールにとってハリーが首にぶら下がっていることなど感じもしないが、流石に長い棒切れが鼻に突き刺されば気にはなる。
ハリーが飛び付いた時、杖は持ったままだった――杖はトロールの鼻の穴を突き上げた。
痛みにうなり声を上げながらトロールは棍棒をメチャメチャに振り回したが、ハリーは渾身の力でピッタリとしがみついていた。
トロールはしがみついているハリーを振り払おうともがき、今にも棍棒でハリーに強烈な一撃を食らわしそうだった。
ハーマイオニーは恐ろしさのあまりに床に座り込んでいる。
は血が邪魔で杖をきちんと持つことが不可能だ。
ロンは自分の杖を取り出した――自分でも何をしようとしているのかわからずに、最初に頭に浮かんだ呪文を唱えた。
「ウィーンガーディアム レビオーサ!」
棍棒がトロールの手から飛び出し、空中を高く高く上がって、ゆっくり一回転してからボクッといういやな音を立てて持ち主の頭の上に落ちた。
トロールはフラフラしたかと思うとドサッと音を立ててその場にうつ伏せに伸びてしまった。
倒れた衝撃が部屋中を揺すぶった。
ハリーは立ち上がった。
ブルブルと震え、息も絶え絶えだ。
も立ち上がり、トロールが壊した洗面台から溢れ出ている水で手を濡らし、水が染みる痛さに目を細めた。
ロンはまだ杖を振り上げたまま突っ立って、自分のやったことをボーッと見ている。
ハーマイオニーがやっと口をきいた。
「これ・・・・・死んだの?」
「違うと思うわ」
が言った。
「うん。ノックアウトされただけだと思う――、手は大丈夫?」
「なんとか・・・・・」
の疲労に満ちた声を聞きながらハリーは屈みこんで、トロールの鼻から自分の杖を引っ張り出した。
灰色の糊の塊のようなものがベットリとついていた。
「ウエー、トロールの鼻くそだ」
ハリーはそれをトロールのズボンで拭き取った。
急にバタンという音がして、バタバタと足音が聞こえ、三人は顔を上げた。
どんなに大騒動だったか四人は気づきもしなかったが、ものが壊れる音や、トロールのうなり声を階下の誰かが聞き付けたに違いない。
間もなくマクゴナガル先生が飛込んできた。
そのすぐ後にスネイプ、最後はクィレルだった。
クィレルはトロールを一目見たとたん、ヒーヒーと弱々しい声を上げて、胸を押さえてトイレに座り込んでしまった。
スネイプはトロールをのぞき込んだ。
マクゴナガル先生はハリーとロン、、ハーマイオニーを見据えた。
「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか」
マクゴナガル先生の声は冷静だが怒りに満ちていた。
はチラリとハリーを見ると、ハリーもに助けを求めていたのか、目が合った。
「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
スネイプはトロールから視線をそらし、未だ、水で手を濡らしているを捕えた。
「ブラック、一体何をしていた」
スネイプの声は静かだが、ネチネチしたようないつもの嫌らしい言い方ではなく、心配そうな雰囲気を持っていた。
「私、別に、ただ・・・・・」
は必死に言い訳を考えたが、何も思いつかなかった。
その時、暗がりから小さな声がした。
「マクゴナガル先生。聞いてください――三人とも私を探しに来たんです」
「ミス・グレンジャー!」
ハーマイオニーはやっと立ち上がった。
「私がトロールを探しに来たんです。私・・・・・私一人でやっつけられると思いました――あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知っていたので」
ロンは持っていた杖を落とし、は濡らしていた手を下に下ろした。
「もし三人が私を見付けてくれなかったら、私、今頃死んでいました。はトロールの攻撃から私をかばってくれ、ハリーは杖をトロールの鼻に差し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。三人とも誰かを呼びに行く時間がなかったんです。三人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で・・・・・」
三人はそのとおりです、という顔を装った。
「まあ、そういうことでしたら・・・・・」
マクゴナガル先生は四人をじっと見た。
「ミス・グレンジャー、なんと愚かなことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。生徒たちがさっき中断したパーティの続きをやっています」
ハーマイオニーはうなだれながら帰っていった。
マクゴナガル生徒は今度はハリーとロンとに向き直った。
「先程も言いましたが、あなたたちは運がよかった。でも大人の野生トロールと対決出来る一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にご報告しておきます。帰ってよろしいですが、ミス・ブラック、あなたは医務室に行きなさい。手から血が出ています」
は不満そうな顔をしたのち、言うことを聞いた方が良いと思い、ハリーとロンと一緒に部屋を出た。
「付き合うよ、医務室」
ロンが言った。
「先にパーティに行ってもいいのに」
「みんな揃わなくちゃ面白くないだろう?」
が寂しそうな顔をするとハリーはそう言ってを慰めた。
「しかし、三人で十五点は少ないよな」
ロンがぶつくさ言った。
「四人で十点だろ。ハーマイオニーの五点を引くと」
ハリーが訂正した。
「ああやって彼女が僕たちを助けてくれたのはたしかにありがたかったよ。だけど、僕たちがあいつを助けたのもたしかなんだぜ」
「僕たちが鍵をかけてヤツを閉じ込めたりしなかったら助けは要らなかったかもしれないよ」
ハリーはロンに正確な事実を思い出させた。
「鍵を閉めなくても助けは必要だったと思うな。だって多分、二人が来なかったら、私、死んでたよ。ハーマイオニーと一緒にパニックになってたから」
はそっとそう呟いて、ありがとうと付け足した。
ハリーとロンはそんなことを言われるとは思っていなく、頭に血が昇った。
あたふたしながらも二人は立派にの付き添いを務め、医務室の中に入った。
マダム・ポンフリーはマクゴナガル先生と同じく、トロールと戦ったと聞くと、たちまち荒療治になった。
治療が終わり、医務室を出たとき、の顔は涙で濡れ、まだ目には涙がたまっていた。
「泣かないで、」
そんな泣き虫のを昔から見慣れているハリーは対して驚きもせず、を慰めた。
一方、ロンは何をしたら良いのかわからずに一人、パニックになっていた。
三人は太った婦人の肖像画の前に着いた。
「豚の鼻」の合言葉で、三人は中に入った。
談話室は人がいっぱいでガヤガヤしていた。
みんな談話室に運ばれてきた食べ物を食べていた。
そんな中、ハーマイオニーだけが一人ポツンと扉のそばに立って三人を待っていた。
ハーマイオニーとハリーとロンは互いに気まずい一瞬が流れた。
そして、三人とも顔を見もせず、互いに「ありがとう」と言ってから、急いで食べ物を取りに行った。
また、泣いているにはハリーとハーマイオニーが父と母のように構い、慰めた。
それ以来、ハリーとロン、、ハーマイオニーと、四人で行動することが、何かと多くなった。
無事に仲直りできた四人です。