「マルフォイにはめられたのよ。ハリー、あなたもわかっているんでしょう?初めから来る気なんかなかったんだわ――マルフォイが告げ口したのよね。だからフィルチは誰かがトロフィー室に来るって知っていたのよ」
のとなりでハーマイオニーが出来るだけ小さな声で、しかし刺々しく、ハリーに言った。
ハリーは認めるのが嫌なようで、行こう、と一言だけ言った。
しかし、そうは問屋がおろさなかった。
ほんの十歩と進まないうちに、ドアの取っ手がガチャガチャ鳴り、教室から何かが飛び出してきた――ポルターガイストのピーブズだった。
五人を見ると歓声を上げた。
「黙れ、ピーブズ・・・お願いだから――じゃないと僕たち退学になっちゃう」
ピーブズはケラケラ笑っている。
「真夜中にフラフラしているのかい?一年生ちゃん。チッ、チッ、チッ、悪い子、悪い子、捕まるぞ」
「黙っててくれたら捕まらずにすむよ。お願いだ。ピーブズ」
「フィルチに言おう。言わなくちゃ。君たちのためになることだものね」
ピーブズは聖人君子のような声を出したが、目は意地悪く光っていた。
「どいてくれよ」
ロンが怒鳴ってピーブズを払い除けようとした――これが大間違いだった。
「生徒がベッドから抜け出した!呪文学の教室の廊下にいるぞ!」
ピーブズは大声で叫んだ。
ピーブズの下をすり抜け、五人は命からがら逃げ出した。廊下の突き当たりでドアに打ち当たった。
鍵がかかっていた。
「もうダメだ!」
ロンがうめいた。
それと同時にがドアの前に歩みでた。
「アロホモラ!」
ドアの鍵が開き、ドアが開いた。
五人は折り重なってなだれ込み、急いでドアをしめた。
みんなドアに耳をピッタリつけて、耳を澄ました。
「どっちに行った?早く言え、ピーブズ」
フィルチの声だ。
「『どうぞ』といいな」
「ゴチャゴチャ言うな。さあ連中はどっちに行った?」
「どうぞと言わないなーら、なーんにも言わないよ」
ピーブズはいつもの変な抑揚のあるカンにさわる声で言った。
「仕方がない――どうぞ」
「なーんにも!ははは。言っただろう。『どうぞ』と言わなけりゃ『なーんにも』言わないって。はっはのはーだ!」
ピーブズがヒューッと消える音と、フィルチが怒り狂って悪態をつく声が聞こえた。
「フィルチはこのドアに鍵がかかってると思ってる。もう大丈夫だ」
「それなら、よかったわ」
は震える声でハリーに言った。
なぜなら、の目には怪獣のような犬が写っていたからだ――床から天井までの空間全部がその犬て埋まっている。
頭が三つ。血走った三組のギョロ目。三つの鼻がそれぞれの方向にヒクヒク、ピクピクしている。三つの口から黄色い牙を剥き出し、その間からヌメヌメとした縄のように、ダラリとよだれが垂れ下がっていた。
怪物犬はじっと立ったまま、その六つの目で五人をじっと見ている。
フィルチか死か――フィルチの方がましだ。
五人は急いでドアの外に倒れこんだ。
誰かがドアをバタンと閉め、飛ぶようにさっき来た廊下を走った。
フィルチの姿はもうない。
かけにかけ続けて、やっと七階の太った婦人の肖像画までたどり着いた。
「まあいったいどこに行ってたの?」
ガウンは肩からズレ落ちそうだし、顔は紅潮して汗だくだし、婦人はその様子を見て驚いた。
「何でもないよ――豚の鼻、豚の鼻」
呼吸を整えながらハリーがそう言うと、肖像画がパッと前に開いた。
五人はやっとの思いで談話室に入り、ワナワナ震えながら肘掛け椅子にへたりこんだ。
口がきけるようになるまでにしばらくかかった。
ネビルときたら二度と口がきけないんじゃないかとさえ思えた。
「あんな怪物を学校の中に閉じ込めておくなんて、連中はいったい何を考えているんだろう」
やっとロンが口を聞いた。
「世の中に運動不足の犬がいるとしたら、まさにあの犬だね」
ハーマイオニーは息も不機嫌さも同時に戻ってきた。
「あなたたち、どこに目をつけているの?」
ハーマイオニーがつっかかるように言った。
「あの犬が何の上に立ってたか、見てなかったの?」
「床の上じゃない?」
ハリーが一応意見を述べた。
「僕、足なんか見てなかった。頭を三つ見るだけで精一杯だったよ」
ハーマイオニーは立ち上がってみんなをにらみつけた。
「違う、床じゃない。仕掛け扉の上に立ってたのよ。何かを守ってるのに違いないわ。あなたたち、さぞかしご満足でしょうよ。もしかしたらみんな殺されてたかもしれないのに――もっと悪いことに、退学になったかもしれないのよ。では、みなさん、おさしつかえなければ、休ませていただくわ」
ロンはポカンと口をあけてハーマイオニーを見送った。
「おさしつかえなんかあるわけないよな。あれじゃあ、まるで僕たちがあいつを引っ張り込んだみたいに聞こえるじゃないか、ねえ?」
「うん、そうだね」
しかし、ハリーは上の空のようだった。
ロンはそれに気付き、ネビルと共に、寝室に戻って行った。
「ハリー、一体何を考えているの?」
はそっとハリーの肩を叩いた。
「うん・・・・・ハーマイオニーが言っていたことが引っ掛かるんだ。新聞にも書いてあっただろう?グリンゴッツに強盗が入ったって。あそこは何かを隠すためには世界で一番安全な場所だ――たぶんホグワーツ以外では・・・・・」
「たぶん、その考えは正しいと・・・・・思う。でも、私たちが首を突っ込むことではないとも思うわ」
がそうきっぱり言うと、ハリーは少し傷付いたようにを見た。
「そんな目で私を見ないでよ。それに手紙にも書いてあったでしょう?あまり危険なことをすると、私たち、怒られるわ」
「今日の飛行授業のときに、先生を振りきって飛んだのは君だ」
ハリーはを責めた。
「ええ、ええ、それは正しいけど、ハリーだって一緒じゃない。先生の言いつけを破ったわ。お互い様よ」
ハリーは言い返そうと口を開いたが、後に続く言葉がなかった。
そして、唸るように言った。
「わかったよ。君の言う通りだ。今日はもう寝よう」
ハリーはと階段を登り、途中で別れた。
もうあまり寝る時間はないようだった。
ロンとハーマイオニーの間が怪しい雰囲気です。汗